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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
第一章 新たなる人生の幕開け
12/78

12 ロリッ子

 食事が終わると、集合場所として約束していた街の中央にある公園に移動した。


 芝生や木々が並ぶ大広場。

 端の方のベンチには、誠司さんとロリっ子がすでにいる。

 彼らの前には木のテーブルがあり、羽ペンとインク、紙が置いてある。

 今後の計画を立てるつもりなのだろう。

 

 誠司さんは、ふところが温かくなったので、装備を充実させて次のステップへ進もうと提案してきた。その前にそれぞれの役職を決めるべきだとも言っている。


 役職、つまり勇者とか魔法使いとかアレね。


 さすがだ。

 この人、ちゃんと分析している。


 チラリとお嬢様を見た。

「しげるさん、何ですか?」

「い、いえ」

 きっとこの人、欲しいもの全部買っちゃうだろう。

 剣に杖に、大剣、斧、槍、なんもかんも、欲しがる気がする。

 今はマジで金持ちだ。500万円以上持っている。

 何に使うかよく分からない物まで買いそうだ。


 とりあえず職業――つまり成長させる方向性を決めておかなければパラメーターだって全部に振り分けていくだろう。


 ――だって、色々やってみたいんだもんな?


 それは重々分かるけど、RPGで全ステータスに均等に振り分けると、成長が鈍るし、最終局面で使えないキャラになってしまうのよ。

 

 役割分担を早い段階で切り出してくれて助かった。

 


 誠司さんは、

「僕は勇者を選択しようと思う」

 

 お嬢様は、手を上げて

「あ、私も勇者になりたいです」


 誠司さんは困っている。

 紳士的な彼でも、きっとこれだけはどうしても譲れないんだろう。

 覚醒後のキャラまで作っているくらいだし。

 

 仕方ないので俺は、

「あ、えーと。実は、誠司さんは伝説のスーパーヒーローの勇者アルデ……」

 

 誠司さんはサッと俺の耳元で囁いた。


「しぃ! しげるさん。それは君と僕だけの秘密です」


 ――秘密?


 ……まさかあんた。

 人の姿で世を欺きしたたかに正体を隠すとかいった、変身ヒーローオプションまで追加しようとしているのか?

 みんながピンチになったとき、こっそりと覚醒して颯爽と登場する気か?


 だから誠司さんにボソボソと耳打ちした。

「もしかして、あなたの正体を知られると何かまずいことでも?」


 誠司さんはコクリと頷く。


 やめてよ!

 あんたの燃え気分は急上昇するだろうけど、助っ人する方から見たら大変よ?

 

 お嬢様はぐずぐず、「勇者がいいです」とか駄々をこねている。


 誠司さんは、

「聖華さんは弓がうまくなったんです。器用さと素早さを重点的に上げて、狩人を目指す方がいいと思う」


「いやです」


 誠司さんは頭を抱えていたが、とりあえず聖華さんを後回しにして、ロリっ子の方を向き、先に彼女の職業を決めようとした。

 

 お。

 遂に来たか。

 やっとロリっ子の名前が聞ける。


 洞窟で海賊との一戦の時。

 怒りに打ち震える誠司さんが、倒れた仲間の名前を一人ずつ呼ぶ劇的なシーン。

 ロリッ子の名前が聞けると思ってワクワクしていた。



『しげるさんを……聖華さん(達)を……』

 と、うまくかわされたんだ。

 

 さぁ、いよいよだ。


 誠司さんの口が開く。


「じゃぁ、君は魔法使い」


 ロリっ子はうなずく。

 今度は(君)でかわすか。


 そんなしょーもないことで悩んでいると、またお嬢様は喚き出す。


「私も魔法使いになりたいです」


 誠司さんが、

「弓も魔法も遠距離系だから、相性が今一つだと思う。それに魔法も弓も弾切れする性質を持っているから。だから短剣を持っている彼女の方が適任だと思う」


「じゃぁ、短剣をください」

 と、お嬢さまはロリっ子に手を差し出す。


 ロリっ子は、「うん、いいよ」と言ってすんなりくれた。


「ありがとうございます」と、うれしそうなお嬢様。短剣をリュックにしまう。

 

 貰った代わりに何かをあげるのが、一般的な人間関係構築の手法だ。

 

 おい、誰かお嬢様をしつけろ。

 て、やっぱ俺か。


 だが俺が動くよりも早く、誠司さんが結構きつめに、

「じゃぁ、その弓を彼女に渡してあげてください」


 お嬢様は困った顔になった。

 やっぱりとは思ったが、ギブ&テイクを知らなかった。

 短剣を貰うと、まさか弓を手放さなければならないなんて想像していなかったんだろう。

 

 今にも泣きそうになって抱きかかえるように弓を持っている。

 そりゃ、やっと弓のコツを掴んだんだ。

 弓を見つめたまま悲しい顔になっている。

 泣くな。

 誠司さんはキツイが、それは愛のムチだ。

 ロリっ子に弓を渡してやれ。


 ロリっ子は、

「いいよ。弓も欲しいんでしょ? あげるよ。あたしはお店で買うから」

 

 お嬢様はほっとしたのか、うれしそうに笑った。


 考えてみると当たり前だけど、さっきの分配金があるからまた買えばいいだけ。

 そうなんだけど……

 

 お嬢様もようやく気づいた。

 弓をロリっ子に渡そうとする。

 また買えばいいんだから。

 子供でも一瞬でそれだけの駆け引きくらいできそうだが……

 悪気があるとかないとか、それ以前の常識だと思うが、やはりこれも経験のたまものなのか。

 

 ロリっ子は素直に弓を受け取って、「ありがとう」と言った。

 お嬢様は、「どういたしまして」とお辞儀する。

 


 ……ロリっ子。

 いつまで経っても名前が分からんが、いいヤツっぽい。




 今のお嬢様なら狡猾な詐欺はもちろんのこと、マニュアル通りの高額商品キャッチ販売にすら軽くカモにされてしまいそうだ。


悪徳セールスマン 「いい物があるのです。見ていきませんか? ティッシュをあげます」

お嬢様      「はい、見たいです。ティッシュ、ありがとうございます」

 

悪徳セールスマン 「この壺、いいでしょう? 一子相伝の匠の業によって云々」

お嬢様      「はい、ステキです」


悪徳セールスマン 「ご自宅に飾ってみたいでしょう?」

お嬢様      「はい、飾ってみたいです」


悪徳セールスマン 「欲しいですか?」

お嬢様      「はい」


悪徳セールスマン 「5000万円ですが、特別に1000万円云々」

お嬢様      「さすがに高いです」


悪徳セールスマン 「月々5万円だったらどうですか?」

お嬢様      「?」悩む

 

悪徳セールスマン 「え、もしかして買わないんですか? さっきあなた、欲しいと言われましたよね。あれは嘘ですか? あなたは嘘つきですか? それに特別4000万円も安いのです。今購入すれば、あなたは4000万円の利益を手にしたことになります」

お嬢様      「……」手にあるティッシュを悲しそうに見つめる。


悪徳セールスマン 「大丈夫です。月々の支払をもっと減らすために弊社が独自に開発した二代に渡って支払える100年ローンというのがございます。さぁ、どうぞご印鑑を。サインでも結構です。あ、指でも。朱肉がございますのでどうぞ」

お嬢様      「……」人差し指をぽちっ。自宅に帰ってシクシク。



 このバカのような一連動作で軽く撃沈されてしまうだろう。そもそも相続できるローンなんて聞いたことがねぇ。

 あ、いけねぇ。

 どこのおっさんが作ったのかすら分からん、訳の分からんガラクタを見つめて、悲しそうな顔をするお嬢様が目に浮かんじまった。



 でも良かったな、これでギブ&テイクが経験できた。

 安易に物を受け取ってはダメってことが分かったろ?

 これさえ分かれば、恭志郎の『初心者マーク詐欺』の時に、もう少し冷静に動けたぜ?


 試しに俺が、

「この杖はスゲー便利だよ? いるか?」


 ちょっと考える。

 そしてリュックから、たいまつを取り出して、

「これと交換しましょ」


 そうそう。

 魔法使いといえば杖だもんな。

 まぁ、このたいまつはトラップアイテムのゴミだけど。

 お嬢様と物々交換をした。


 とりあえず職業選択、残りは俺だけか。

 俺はなんでもOKだ。オールマイティーだから好きに言ってくれ。誠司さんのバックアップは決めている。


 誠司さんは、

「僕はしげるさんの熱いファイトに感動しました。敵の攻撃を受けながらも、それでも懸命に立ち上がり僕の盾になると言われたあの勇姿は、今でも目に焼きついております」


 ありがとう。


「もしかして、HP、防御力を重点的に上げていたのですか?」

「はい」


「じゃぁ戦士系ですね」

「はい」

 なんでもいいよ。


「やっぱりいつも真剣なしげるさんには、これしかない!

 真剣戦士ガチファイター


 なんなんだろう、この気持ち。

 なんか、ソレ、すごくイヤ。

 

 俺はお嬢様に、

「聖華さん、ガチファイターになりませんか?」

「いやです」

 と、お嬢様に即答された。



【職業】

 誠司さん 勇者

 お嬢様  魔法使い。

 ロリっ子 狩人

 俺    ガチファイター




 *



 職業が決まったので、今度は買い物だ。

 装備を充実させ、今夜は宿屋に一泊。明日、ヴァレリア公国に向かう予定だ。

 誠司さんの聞き込み情報では、どうやらその公国とやらが、この近隣で最も充実した国のようで、情報だって沢山手に入るだろから、拠点を移そうという話だった。



 今にして思えば、お嬢様の財布を計算していて良かった。


 お嬢様の残金:50110rira

 日本円換算 約501万円


 お嬢様とショップ回りをしてみる。

 確かに平屋のしけた店しかないので、こんなところ早々に離脱すべきだろう。


 誠司さんは、

「いいかい? ヴァレリア公国では、もっといい武器が買えるんだ。大量買いはくれぐれもしないように」

 と忠告されているが、誠司さんと別れるとお嬢様はニコニコはしゃぎだす。


 魔道士の服、マジカルハット、マントを購入していき、それなりの恰好になった。

 俺は比較的重層な鎧を買って貰った。

 これで両手と顔以外はガードできる。

 もうこれ以上、いらんだろ。



 だけどお嬢様のショッピングは収まる様子がない。

 くさりがまを買おうと、店主のおっさんに向かって指さす。


 俺はお嬢様に、

「あ、それガチファイター専門の武器だよ。職業変わる?」

 ちょっと嫌そうな顔になった。

 戦士用の武器はこの手で回避させよう。


 ヌンチャクを指さす。

「……それはガチカンフー使いの武器だよ」


 お嬢様はにっこりした。

「これください」

 ガチというフレーズを嫌がっていた訳じゃなかったのか。

 くそったれ。


「魔法使い用のアイテム以外買うと、誠司さんに怒られるよ?」と、俺。

「内緒にしてください。ガチカンフーがやりたいです」


 俺はその横のアイテムを指さした。武器屋に何でこんなものまでと思ったが、まぁいい。

 1riraだし。俺はそれを指さして、

「これなんてどう?」

「なんですか、これ?」


「ガチカンフーの最強の武器、なわとび」

「弱そうです」


「ガチカンフー使いはこれで肉体の鍛錬するんだよ? とってもおもしろいぜ?」

「そうですか、じゃぁください」


 なわとびに夢中にさせて、これ以上のバカ買いをやめさせるか。

 

 

 公園に戻ると、お嬢様にレクチャーした。

「しげるさん、太っている割にすごい動きができるんですね」

 うるせぇ。


 

 お嬢様の上達は意外と速かった。

 正直驚いたが、前二重跳び。後ろ二重跳びまでできるようになった。

 ぴょんぴょん、だったのが、ぴょぴょん、ぴょぴょんといい音を立てて飛んでいる。


「私、上手ですか?」

「すげー上達率だと思う」


「……あの子に教えてあげたい」


 あの子?

 キタ―――(゜∀゜)―――― !!

 ロリッ子だな。


「聖華さん、あの子ってだれ?」

「あの子はあの子だよ」


「あの子?」

「うん、あの子」


「あの子じゃぁ分からん」

「あの子……名前を教えてくれないの」


 そっか。

 言いたくなかったのか。

 それで、誠司さんはうまく外していたのか。


「仲良しじゃなかったのか?」

「最初はものすごく元気だったんだけど、いつの間にか段々と距離を置くようになりました」


「……そっか。じゃぁ、なわとびで仲良くなるといいな」

「うん」


 まぁ、遊ぶのは同性同世代の方がいいだろう。


 お嬢様と俺は、宿屋でロリッ子が帰ってくるのを待っていた。

 お嬢様はロビー。俺は壁に隠れて様子をうかがっていた。なんか子離れできないバカオヤジがやりそうな行動だ。

 お、ロリッ子が来た。

 

 最初は肩でクルクルとカールのかかった髪型だった記憶があるのだが、いつの間にか肩でバッサリと切っている。いつからだったか、とにかく存在感がなくなったのだ。

 切り方が、なんとも雑。

 持っていたナイフで切り落としたのだろうか。


 ロリッ子が戻ってきた。誠司さんも一緒だ。

「みーつけた。遊びに行きましょ」とお嬢様。

 にっこり笑って、お嬢様はロリッ子の手を取った。


「え?」

「遊びに行きましょ」


「……誠ちゃん……」と、ロリッ子。

「行っておいで。君も女の子同士の方がいいだろ?」


 ロリッ子は手をとられたまま、夕方の公園に行った。

 俺はこそこそとついていく。



 なわとびを二本持ったお嬢様は、

「最近元気ないですね。どうしたんですか?」

「……あ、ううん。そんなことないよ。心配してくれてありがとう」


「あのね。なわとびを教えてあげます」

 と、ロリッ子になわとびを一本渡す。

 

 ロリッ子はそれを受け取ると、ちょっぴり嬉しそうに、

「なわとびかぁ。懐かしいなぁ」と、ポツリそんなことを言った。


 

 赤く染まった公園、まだ人はまばらにいる。

 二人はなわとびを始めた。


 なんだか、ロリッ子はうまい。

 妙にきれいに飛んでいる。

 あ、それ、お嬢様が教える予定の二重跳び。

 お嬢様が、びっくりしている。


 そしてお嬢様の最強奥義、後ろ二重跳びまで簡単にやってのけた。

 お嬢様は飛ぶのをやめ、石のように固まった。


 そして……

 あれ、はやぶさってやつ? 後ろはやぶさ。二重はやぶさ。

 

 駄目だ! ロリッ子。もうやめてやれ。誰か、ロリッ子のスーパーアクロバットショー止めてくれ。

 いや、公園の連中はぞろぞろと集まってきて、歓声をあげている。

 お嬢様が泣きそうだ。

 ロリッ子はお嬢様の異変に気づいていない。


 

 まさか!

 バク中後ろ二重はやぶさ。

 

 お嬢様が泣き出した。


 観客のみんなはロリッ子に大歓声をあげる。

 やめろ。頼む。後生だぁ!

 お嬢様のメンタルがボロボロになっちまう。



 ロリッ子がなわとびを前方大空高く投げた!

 それに向かって走る。

 そして側転、バク天、後方伸身宙返り横1回ひねり――ってまさかあれ、ムーンサルトとかいう高等テクか!?

 そしてなわとびをキャッチ。

 虚空をなわとびでX文字にきりつけ着地。見事ポーズ!


 こいつ、シロートじゃねぇ。

 ステータスを上げているのか?

 いや、あまりにも慣れている。

 あんた、何者だ。

 体操選手? ダンサー? サーカス? 雑技団? それとも現代に潜む忍びの末裔なのか!?


 大熱狂。口笛に拍手。


 ロリッ子がお嬢様の異変に気づく。

 泣いているのを見つけて、真っ青になって走っていく。

「どうしたの? 喜んでもらおうと思ってやったんだけど」

「あーん。あーん。うわぁーん!」と号泣している。


 俺は黙って見ていた。

 頑張れ。聖華さん。辛いだろうが、あんたが大きくなれるチャンスだ。

 なんでもいいから話しかけろ。


「うわーん。せっかくあなたの名前を考えたのに。

 ……良い子だから、良子さんがいいかな。親切だから優子さんがいいかなって。

 そうしたらしげるさんが、横文字の方がいいと思うって言ったんです」


 あ。

 それは言うな。


「なんでだと思いますか? きっと前の名前が気に入らないのだろう。日本語の名前だと万が一かぶっちゃぁいけないから。

 だから、横文字の名前にしてあげたらどう? と。

 なら、リーズはどうかな?

 優しい春のそよかぜは、フランス語でBrise de printemps

 だから、真ん中のスペルを取って、リーズ。

 しげるさんは、それ、むっちゃイケてる! センスある! って言ってくれました。

 あなたとお友達になりたくて一生懸命考えたのです」


 ロリッ子は真っ青な顔になった。

 名前になんらかのトラウマがあるに違いないと思った。

 それはかなり痛いところだ。慎重に言うようにと助言したつもりだったが、裏目にでちまったか。

 

 ロリッ子は一歩、二歩、さがり、そのまま逃げるように公園から姿を消した。


 

 誠司さん、ごめん、足並みを揃えるつもりだったが、下手をうったようだ。

 ガキンチョをあやすには自信があったが、相手はレディーだ。勝手が違った。

 彼女、あんたには何だか懐いていたようだから、そっちは頼む。


 と祈りつつ、お嬢様に近づいた。


「ごめん」

「……ううん。しげるさんは悪くありません。私はなんで泣いているのでしょうか?」

 

 !?


「みっともなく泣くなんて嫌です」


 そっか。

 そうだよな……

 泣くのは本能。

 赤ちゃんは泣く。でもあんた、本当は17歳。

 でも涙の意味を一人で見つけるのは難しいもんな。

 

「悔しくて泣いているんですよ。友達に負けたのが悔しかったんだろ?」

「はい」


「いいんだ。負けて悔しくて泣ける奴は、強くなれる奴だ」

「私ばかり泣いていますよね?」


「誠司さんもよく泣きますよ」

「見たことがありません」


「実は結構、泣いているよ。

 泣くことはいいことです。

 熱いから泣けるのです。でも人はだんだんと泣けなくなります。負けても、悔しくなければ泣けません。相手の不幸がどうでもよくなったら泣けません。うれしいのに飽きちゃったら泣けません。

 泣けなくなったら強くなれないぜ? 強くなりたいだろ? あの子に勝ちたいだろ?」


「……はい」

「じゃぁ、いっぱい泣きなよ。あっちで待っているから」


 木陰で待つこと30分。落ち着いたようなので、お嬢様に声をかけて、宿屋に戻った。




 翌朝。

 俺の部屋が、威勢よくノックされている。


「しげるさん! しげるさん!」


 どうしたんだ? 

 頭をかきながら、部屋を空ける。


 お嬢様だ。


「私のお部屋にお手紙が挟まっていました」

 

 お嬢様から手紙を受け取り、それを読んだ。

 意外だった。

 ロリッ子は可愛らしい丸文字でも書いていそうな感じなのに、特別うまくはないけど丁寧に書かれた楷書だった。一生懸命に書こうとしているのが伝わる。手でも震えていたのだろうか。


『聖華様。

 昨日は本当にごめんなさい。あたしの名前を真剣に考えてくれたのに、何も言えませんでした。でもとてもうれしいです。素敵なお名前ですね。

 あたしも、心からあなたとお友達になりたいです。

                              リーズより』


 リーズ。

 お嬢様が必死に考えた名前だ。


 それにしてもこの手紙、なんとも理解しにくい。

 内容は普通に通じるのだが、なんつーか、子供っぽいと言えばそうだし、無理して子供っぽい文体を作っているようにも見受けられる。


 まぁ何にしてもよかったじゃねぇか。


「俺はいいから、本人に会ってきたらどう?」

「あ、そうですね!」


 お嬢様のパタパタダッシュがでた。廊下を走って行く。

 やれやれ、元気になってくれてよかった。


 もう一眠りしようと部屋に入ろうとしたとき、視線を感じた。

 あいつ、リーズか。

 お嬢様の走り去った逆方向の突き当りの壁から、リーズがこっそりと見ている。

 あいつハイパーボッチだったのかな?


 俺と視線があうと、また真っ青になった。

 いったい、どうしたってんだ?


 まぁ、俺はブサメン。ロリッ子から見たら化け物に見えるかも知れんが、なんだよ。いまさら。ぷんぷんだぜ。

 ガチ熱い絶対神を目指しているから気にしねぇけど。

 しかし、妙な行動をしたのだ。


 え、土下座?


 正座をして、床に頭をこすりつけたのだ。

 リーズに走り寄った。


「お、おい。何やってんだよ?」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」



「は? どうした?」

「……最初この世界は夢だと思っていました。本当に楽しい夢。でも分かったんです」


「分かったって、何が?」

「あなたは吉岡さんですよね?」


 ――この子、なんで俺の名前を知っている!?


「この四人の出会いは決して偶然ではありません」


「……?」

「あたしの祈りが神に通じたんです」


「!?」

「……あたしが……聖華さんを壊しました」

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