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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
プロローグ
1/77

1 異世界転生

 思い起こせば、電車で起きた痴漢騒動から俺の人生は狂っていった。


 今まで俺は、このブサメンフェイスに誇りを持って生きてきた。

 頭は寂しくはげ散らかしているが、心は強かった。

 

 ブ男の意地ってものがあった。

 顔では負けるが、精神力では誰にも負けない。

 そのド根性を買われて、会社ではそれなりに認められていた。


 だが俺の心は完全にへし折られ、人生を詰んでしまった。



 今から数年前。

 それは若白髪とハゲが同時に襲ってきた28歳の熱い夏の日だった。


 この日は仕事が休みなので、買い物を楽しんでいた。

 それは数少ない楽しみの一つだった。

 バッグ一杯購入すると、満員電車に揺らされながら帰路を急いだ。

 

 香水の甘い匂いが鼻孔を刺す。

 すぐ前には女子高生がいる。

 茶髪で色黒の古典的なギャルだ。


 痴漢と勘違いされてはたまらんので、その子に近づかないように気を付けた。

 それなのに目の前の女性は、俺の方を振り返って叫んだ。


「こいつ、痴漢よ!」

 彼女は俺を指差してそう言ったのだ。


「何もしていないだろうが!」

 と、即座に反論したのだが、周りにいた男性陣に取り押さえられ、次の駅でおろされて駅員室につれていかれた。

 

 ギャルは泣きわめきながら状況を説明していたが、じきに姿を消し、俺は警察に連行された。

 もちろん「やってない」と懸命に訴え続けたけど、信じて貰えなかった。


 不運が重なったのだ。

 俺のカバンにはエロゲと美少女フィギアが山のようにあったのだ。


 それは唯一の楽しみ。

 

 だって俺はブ男だ。

 モテる為には相当の努力を要するだろう。

 カップリングパーティーに参加してもどうせ惨敗。

 魅力で勝てないのなら、トークからの勉強が必要になってくる。

 続いてハゲ隠しの努力。

 かつらは高いし維持費だって馬鹿にならない。

 だからモテる為の労力をかなぐり捨て、仕事に専念してきたのだ。

 そうやって俺なりの地位を築いてきた。


 だから日頃のストレスを解消する為に、休みの日にはこうやってエロゲを買いあさっていた。

 買っただけのゲームだって多い。

 変な話に聞こえるかもしれないが、一種の自己暗示だった。

 自分を奮い立たせるための投資。

 

 

 だけど、この場面でのマニアグッズは大きな仇となった。

 

 警察の連中は、誰一人俺を信用してくれないのだ。


「どーしょーもないなぁ。お前、妻子だっているんだろ?」

「いえ、独身です」


「……家の電話番号を教えろ」

「親には連絡しないでください」


「てめぇが悪いんだろ?」

「だから俺、やっていません」


 警察署内でこのような会話を繰り返していたが、結局抵抗できず、自宅に連絡された。


 二日留置され、後は弁護士を通じて裁判という流れらしい。

 

 俺は何もやっていない。

 じきに立証されるはずだ。

 そう願い、強引に自分を落ち着かせていた。

 

 

 そこからの記憶は、曖昧なのだ。

 嫌というくらい敗北感を味わったのだけはハッキリと覚えている。

 不服申し立てを起こし、留置を延長してあの女と戦おうと思った。


 だけど最初の裁判の日。

 俺は容疑を認めた。


 やりあって何年もの時間を無駄にしたという話を聞いたことがあったからだ。


 金で解決するのなら。

 涙をこらえて苦渋の決断をした。


 数年後、女は逮捕された。

 偽装痴漢の常習犯だったらしく、俺と同じような被害者達が立ち上がったらしい。

 女は、隣に息の臭いブ男がいるのに耐えられなかったとほざいていた。

 ものすごい憤りを感じた。


 しかし女は未成年である。

 罪はあまりにも軽かった。



 俺はというと、折角、時間を金で買ったというのに、信用を失い、居場所まで無くし、会社を辞めていた。

 俺は営業職しかできない。

 根性だけが取り柄の企業戦士だった。

 だがこの事件以降、女が恐ろしくなった。

 女性相手に商談ができなくなった。

 真っ直ぐ相手の目を見ることができない。それだけじゃない。指まで震えてしまうのだ。

 

 いつしかコミュ症と蔑まれるようになった。

 職を失ってからは、ハロワに行くのすら怖かった。



 それからあっという間に月日は流れる。

 34歳になった俺は、貯金をすべて使い果たし、実家に引きこもり、無能な金食い虫にまで成り下がっていた。

 部屋から出るのさえ怖かった。



 その頃からだった。

 ちまたではチラホラと失踪事件が騒がれるようになった。


 しばらくの間、気にも留めずいたのだが、ネットの掲示板にこのような書き込みがあった。

 



『俺は失敗した。ボーナスパラメーターの振り分けを誤った。

 とにかく最初が肝心だ。

 元の世界に戻るには寿命の半分を要する。

 俺は完全に詰んでしまったので、仕方なく帰還することにした。

 異世界に行くには、深夜2時。パソコンを北へ向けて、窓を開けたまま両手を上げて待て。

 しばらくするとブルーウィンドが立ち上がり、パラメーターの振り分け画面が映る。

 設定時間は20分しかないから、慎重にやれよ。

 もう一回言うが、俺は失敗した。第二の人生も失敗だ。

 お前らはうまくやれ』



 紛れもなく釣りだろう。

 俺と同じように終わった奴が、誰かをからかって遊んでいるに違いない。



 しばらくすると、掲示板からメッセージは消えていた。

 その下に書き込みされていく。

 

『あれ、何?』

『バカが悪戯しただけだ。お前ら釣られるなよ』



 俺も書き込んだ。

『オマエモナー\(゜ロ\)(/ロ゜)/』

 


 ふと、時計をみた。

 深夜2時まで、後3分だ。

 バカバカしいとは思いつつも、丁度パソコンは北を向いているし、窓を開けるだけなら簡単だと思ってやってみた。

 両手を上げたまま、しばらく待った。


 すると、どうしたというのだ。

 パソコンがシャットダウンされて、続いて青い画面の状態で立ち上がったのだ。



 

 画面には『新たな人生に挑戦したい方は、次へ進んでください。戻るには寿命の半分が必要となります』と書かれてある。


 一瞬だけマジかよと驚いてみたが、良くできたソースだ。

 ウィルスソフトはフリーのしか入れてないから、余裕でやられたのか。


 まぁ、たいしたデータなんてない。

 どうせ趣味で集めた音楽データばかりだし、ゲームデータなんてどうでもいい。

 気晴らしに小説なんて書いてもみたが、小説サイトで公開しても今一つ反応が薄いし、もうやめようと思っていた。

 パソコンがいかれても、リカバリーすればいいだけのこと。

 もし架空請求がやってきても、そいつは犯罪だ。シカトすればいい。



 笑ってクリックを押してやった。


 次に『パラメーターを配分してください』とある。


 

 この悪戯をとことん楽しんでやろうと思っていた。

 もしかしたら。

 そういう期待も少なからずあった。

 もし第二の人生ができるのなら、俺は――



 *



 まずは基本情報からだ。



 氏名欄には、俺の名前が入力されてある。

 どうせコンピュータのパーソナル情報かクッキーを引っ張っているだけだろうが、シロートならビビるだろうな。



 年齢は16歳。

 性別は男。


 この3つの情報は変更できない。

 

 氏名、性別まであっているが、年齢はあてずっぽか?

 それとも16歳からやり直させてくれるのか?

 そいつはありがたい。

 さて次と。


 ルックス。

 その横に『5』と表記されており、この情報は書き換えられる。


 とりあえずそのままにして、『次へ』を押した。


 今度は本格的なパラメーターが出てきた。


 上部には『ボーナスパラメーター100』とあり、中段部分から


 筋力、体力、素早さ、魔力……

 

 それぞれの右部分には白い空欄がある。

 事細かく設定できるようだ。

 最下部にはタイマーがあり、19:38。

 そこから1秒毎カウントダウンされていく。


 掲示板のメッセージは、パラメーターの振り分けに失敗したとあった。

 これだけの情報を時間内に入力するのなんてかなり大変だ。

 結局のところ適当になるだろう。


 だけど、真剣に考えてみた。


 ふいに気になり、戻るボタンを押して前画面に戻った。


 

 ルックスの数字を5から4に変えてみた。

 そしてまた次の画面へ移動させると、思った通りだ。与えられた数字は100から150に変わっている。

 なるほど、ルックスを削れば、他の能力が上がるのか。


 ルックスを0まで下げると、150から350まで上昇した。


 マイナスには出来ないのだろうか?


 試にやってみると、マイナス記号が入力できる。

 -255まで入力可能だった。それ以下の数字は弾かれて進めない。

 

 第二の人生とやらでも、ルックスを捨てようと思っている。

 女の子と話すなんてもう無理なのだ。

 だったらルックスなんていらない。



 ルックスを-255にした結果、パラメーターの数字は350から13100まで上昇した。



 振り分ける項目は10ある。

 初期ではそれぞれ5となっている。

 10等分して振り分けるべきか。

 

 ただ最下部には特記事項という大きな空欄がある。

 冗談で成長率:13000、と入力してみる。

 するとパラメーターは13100から100へと減ったのだ。


 なるほど。

 このゲームは特記事項に条件を書いても反応するみたいだ。

 念のため、成長率の下に、


 あいうえお:50

 

 と書いてもパラメーターの変化はない。


 意味の分からない言葉は弾かれているようだ。



 まてよ。


 あいうえお:50を削除して、

『女の子の肌に直接触れたら、1秒間でHPの1割が消耗』と記載してみた。


 するとパラメーター100から5100まで上昇した。


 なるほど、弱点を作ればその他の能力を上げられるのか。

 

 この設定値から想像がつくのは、連れて行かれる世界とやらは、どうやらRPGのようなものなのだろう。

 火とか水とかに弱いというのは、どうも面白くない。


 弱点は女でいくか。

 うーん。

 あんまり安易に設定すると、敵キャラの女がいたら瞬殺されてしまう。


 こういうのはどうだろう?

 試しに書いてみた。


 入金率:1/10

 その下に、経験値上昇率:10倍

 

 パラメーターは一度上昇し、また同じ数字まで戻った。

 反応しているということは、この条件もいける。

 

 金が入ってこないと冒険が辛いだろう。

 どうしたものかと思ったが、ガチガチに強くなればあまり金はいらない。

 ゲーム後半にいくにつれて大抵金は余るようになる。

 

 10分の1を設定するのなら、貧乏プレーヤーまっしぐらだ。

 どうせ金を使わないプレーに徹するのなら……

 

 入金率:1/10000

 経験値上昇率:10000倍


 と書きなおしてみた。



 なんだか面白くなってきた。

 他に削る項目はないだろうか。


 そうだ。

 女が弱点というのは極端過ぎるけど、こういうのはどうだろう?


 

『女の子とエッチをしたら、無限の苦しみを味わい四散して死ぬ』


 少しばかり悪ふざけが過ぎたか。


 どうせルックスが-255なのだ。

 もてる訳がない。

 

 だが目を疑った。

 ボーナスパラメーターが5100から1000000000005100まで上昇しているのだ。



 桁がよく分からない。

 そうこうしている内に時間が切れた。



 画面を見て吹いちまった。

 3Dモデリングされたブ男がいるのだ。

 リアルの俺よりもひでぇ。

 

 ズバリ、はげた豚だ。


【profile】

 氏名:吉岡しげる

 年齢:16歳

 性別:男

 ルックス:-255

 

 成長率:13000

 入金率:1/10000

 経験値上昇率:10000倍


 女の子の肌に直接触れたら、1秒間でHPの1割が消耗

 女の子とエッチをしたら、無限の苦しみを味わい四散して死ぬ


【status】

 HP:25

 MP:10


 筋力、体力、素早さ、魔力…… 各5


 ボーナスパラメーター残:1000000000005100




 しばらくハゲた豚を操作して遊んでみたのだが、何てことはない。

 狭いロッジ内をうろうろできるくらいだ。

 他にも3人くらい似たようなのがいる。

 ルックスは俺のキャラより遥かにいいけど。


 なんだ、ヤラセだったのか。

 ハァ~とため息を吐いて、寝ることにした。


 

 しかし――

 目を覚ました場所は、俺の部屋ではなかった。

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