#1-3 「アメ」
とにかく、今は安静にしているんだよ。と言い残し、先生は病室を後にした。
しかし静也にその言葉は届かない。頭のなかは事故という言葉でいっぱいになっている。
「・・・事故。そう!俺は、事故にあった・・・!彩香と街に行く途中で・・・彩香は!?」
彩香のことをようやく思い出し、痛むからだを無理やり起こす。腕から点滴の針が外れ、包帯の中が血によってじんわりと暖かくなる。そんなことに気を取られる訳もなく、おぼつかない足取りで病室から出る。
とにかく彩香がどこにいるか知るために受付を目指す。思い通りに動かない体を、必死に動かす。廊下の壁に貼ってあった地図を見ると、どうやら現在地は北側病棟一階の南側。受付は同じ病棟の反対、つまり北側にある。
「彩香・・・!」
届かないと分かりつつも、ただ彩香の名前をつぶやき続ける。無理に体を動かし、痛みに耐えながら進んできたため、すでに意識は朦朧としている。おぼつかない足取りで受付を目指す。何度も転びそうになるが、壁に手を付きなんとか堪える。病室からまだ出たばかりだが、すでに額には玉のような汗が浮かび、息も荒くなる。
後ろから女性の声が聞こえた。
「ちょっと!大丈夫ですか!?」
女性は静也の体を支え、心配そうに顔を覗き込む。
ナース服を着ている女性は他に誰かいないかあたりを見渡す。
「彩・・・静也はどこですか?入院してるはず・・・です・・・」
「なに言ってるの!今は安静にしてないと___」
「俺はいいから!・・・静也は、どこですか。」
静也の顔を見た女性は何を言っても無駄だと判断し、彩香の病室は静也の部屋の隣だと伝え、体を支えながら案内する。
彩香の病室の扉を開けてもらい、ベッドの隣まで連れて行ってもらう。椅子に座り、彩香の顔を覗き込む。