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CHANGE!!  作者: はり
1/5

#1  「アメ」

使い古されたネタであることは重々承知です。その中でも、今までに無かったようなシナリオにしたいと思っています。

更新は遅いと思われますが、気長に待ってくださると幸いです。

推敲しながら執筆しますが、初めて真面目に書きますので、至らぬ点があると思われます。その時はなんらかの方法で伝えてくれますと、ありがたいです。

どうかよろしくお願いします。

 右の頬が冷たい。

 白濁とする意識の中、微かに右頬に感じた無機質な冷たさ。その冷たさが心地よいおかげか、それとも周りの喧騒によるおかげか、それとも視界の端に見える黒いスーツパンツを着た足を目にしたからか。

 少年は意識を少しだけ_目の前の霧が少しだけ晴れたかのように_取り戻した。しかしまだ完全に目覚めたわけではない意識の中、なぜか動かない体のことは無視し、目だけを微かに周囲へ配る。どうやら彼はアスファルトの上に横たわっているらしい。彼が目を下に向けると、傷だらけの赤いバッグと、そのバッグの中から飛び出たのであろう携帯やポーチが散乱していた。そして無残にひしゃげた自転車が一台、彼の目に写った。彼は徐々に、自分の状況を理解する。


「・・・あぁ、交通事故・・・か。」


 周りを取り囲む足、足、足。冷たさを感じなくなった頬。そして____

 横たわる一人の少女の背中。

 彼女が着ている薄いピンクのワンピースはところどころ破れており、赤く染まっている。腰まで届きそうな黒髪も、ボサボサになっている。彼はこの少女を知っていた。このバッグも、携帯も、ポーチも、ひしゃげた自転車も、その持ち主も。

 横たわる少女が誰なのかを思い出し、頭の中を覆っていた霧が急激に晴れる。同時に、今まで経験したことのない激痛が彼の体を支配する。


「・・・あ、彩香ぁ・・・」


 彼は横たわる少女_彩香_の名前を呼ぶ。しかし事故による怪我のせいか上手く声が出せない。すぐにでも起き上がり、駆けつけたい。そんな衝動が彼の心を、頭を支配するが、しかし彼の体を今なお駆けまわる痛みがそれを許さない。彼は激痛に耐えながらも手を伸ばそうとする。声にならない声で名前を呼び続ける。

 次第に、痛みのせいか、ショックのせいか。彼の意識は再度霧に覆われていく_____



__________




 懐かしい香りがする。小さい頃何度も嗅いだ、少し鼻をつくような匂い。

 あぁ、保健室の匂いだ。彼_雨音 静也(せいや)_は懐かしさを覚えながら、ゆっくりと目を開ける。白い天井。カーテンの隙間から心地良い木漏れ日が差している。そよ風が吹き、外に咲いているのであろうなにかの花の香りを部屋まで運んでくる。深呼吸をすると、薬品と花の匂いが肺を満たし、それをゆっくりと吐き出す。

 薬品の匂いは嫌いではない。幼い頃、いわゆるやんちゃな少年だった自分は怪我をするたびに、幼馴染が無言で手を取り、有無を言わさずに保健室まで連れられていた。だから保健室の先生に”常連さん”と呼ばれ、よく内緒でお茶を貰っていた。自分にとってそれは嫌な匂いではなく、むしろ昔を思い出すきっかけであり、とても落ち着く匂いだった。深呼吸を終え、体を起こそうと力を込める。すると体中を激しい痛みが襲う。


「_______っ!」


 あまりの痛みに声が出ず、息だけが外へ漏れていく。起きるのを諦め、息をすべて吐き出しベッドに体を預ける。目を動かしここがどこかを探る。隣の棚の上には上品な色彩の花が飾られている。そして自分の内肘から伸びる管。ここは・・・


「・・・病、院?」


 なぜこんなところにいるんだろう。ここに来る前のことを思い出そうとする。しかし頭痛のせいか、記憶がはっきりとせずなかなか思い出すことができない。なにかすごく大事なことがあったような__記憶が掘り起こせず、なにか心に引っかかっている。

 しばらく頭痛と格闘しながら唸っていると、廊下から話し声が聞こえてきた。声と足音が徐々にこちらへ近づき、扉の前で止まる。ゆっくりと病室の扉が開かれ、二人の大人が入ってくる。先に入ってきたのは白衣を羽織った気の弱そうな先生と、彩香のおばさんであった。おばさんと目が合うとしゃべるのを止め、一瞬動きが固まる。大きな瞳が涙で溢れていく。セミロングの黒髪を靡かせながらこちらへ駆け出し、静也の体へ抱きつく。しかし怪我をしているのであろう、そこへ勢い良く抱きつかれ___


「____っ!」


 またもや激痛が体を襲い、声が出なくなる。身を捩り、痛みの原因であるおばさんの手の内から逃れようとする。おばさんは私が痛がっているのを察しすぐに体を離す。涙を浮かべながら震えた声で言った。


「あぁ・・・ごめんね。それにしても・・・よかった、やっと目を覚ましたのね・・・!」


 おばさんは私の手を優しく取り、深く息を吐く。両手で包み込まれた手から、おばさんの思いが伝わるかのように心地良い暖かさが手を、心を満たす。


「・・・このまま起きなかったらどうしようかと・・・」

「予定より早く目を覚ましましたね。良かったです。顔色も良いみたいですね。」


 医者であろう気の弱そうな若い先生は安堵の表情を浮かべ、優しい笑みをこちらへ向ける。先生は静也の横に立ち、ちょっと失礼と軽く会釈をし、静也の手首を取る。脈にも異常はなかったのであろう、先生は何も言わなかったが、満足そうに二回頷いた。頭が動くたびにまだ年の割には早い白髪が、キラキラと光りを反射し目立っている。この人もいろいろと苦労したのだろう。

先生はおばさんの近くへ行き、優しく話し始めた。


「本当に良かったです。脈にも異常はないので、あと一週間程安静にしていれば退院できますよ。」

「そうですか!・・・先生、この度は本当にありがとうございます!なんとお礼を言えばいいのか・・・先生のおかげです!」

「いえいえ。あれほど大きな事故だったのにこの怪我は奇跡ですよ。本当に良かったです。」


 おばさんが安心した表情で深々と頭を下げ先生に御礼を言う。先生は変わらず優しい笑みを浮かべている。

 その中で私だけが苦い顔をしていた。まるでビターチョコレートを口いっぱいに頬張ったように。心に何かが引っかかっているが、まだその原因を突き詰めることができない。気持ちが悪い。異物が心のなかに広がっていく。静也が一人苦い顔をしていると、おばさんがそうだ!と手を合わせた。


「何か食べたいものはない?あ!あなたの好きなバームクーヘン買ってきてあげるわ!」


 おばさんは静也に有無を言わさないまま、病室の入り口へと走っていく。親子揃って強引なのだ。人の意見を聞かずに、思いついたことをすぐに実行に移す。たまに空回りすることもあるが、そんな強引な優しさが、静也にとってはとても嬉しい。

 扉の前でこちらを振り返り、いつも彩香の家で見る暖かい笑顔で言った。



「すぐに戻ってくるからね。_________彩香。」




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