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ペンフレンド

個人テーマ「ペンフレンド(文通友達)で挑戦しました。



 自分でも理解に苦しむ。


 このインターネットだ、ソーシャルだ、スマートフォンだの全盛期に、文通である。自分でも驚いた。


 事の発端は、フリーペーパーの特集の文通募集だ。筆の街がわが町特産なので、その一環としてペンフレンドしませんか? が設けられていた。いつもなら流し読みで終わるのだが、一瞬、惹かれたものがあった。


 直筆の募集文が掲載されたのだが、その字が綺麗だった。自分の丸文字に比べて、ボールペンで書かれたであろう文字が、流麗で目に焼き付いた。


 また文章に惹かれた。



『筆の町の秘密、教えます』



 え? だった。初見の感想は。他の募集の文句は男性アイドルグループ“A”好き募集とか、下心見え見えのお友達募集とか(一番字が汚かった)、何故かバンドメンバー募集とか、そんな中で、光って見えた、その一文。


 最初は首を横に振ってスルーしようとした。だから、フリーペーパーは古新聞コーナーに放り投げたのだが、何故かもう一回字が見たくなって、取り出してしまった。


 そして、はや三ヶ月。文通は一週間ないし4日置きくらいに続いている。



『拝啓 なぎ様

毎回なぎさんの手紙を心待ちにしています。おかしなもので、僕自身も興味本位で始めたこの手紙が、今やなくてはならないものとなってきました。


 毎回、なぎさんの繊細な字に心を癒される日々です。なぎさんの出す手紙の一字一句が、僕しか読まないと考えると、何だか嬉しくなります。単純かと思いますが、誰かの為にかく手紙はそれだけで贈り物のような気がするのです。


 大分、余談でしたね。最近、書く事の喜びを感じております。悪筆かつ文章能力の無さが露呈してますが、元からなので今更でもありますかね?


 閑話休題。本題です。今回は星屑の河原です。お祭りで有名ですが、僕がお伝えしたいのは、その上流です。車も自転車も無理ですが、歩いて河原を渡ります。街灯は一切無いので、懐中電灯の携行はお忘れなく。


 上流に、この時期、蛍が飛び交う姿を見る事ができるかと思います。一見の価値ありです。是非是非。


 追伸。さしでがましいかもしれませんが、勉強、苦手分野の克服は必要です。なぎさんならできます。だって、こんなに丁寧にお手紙書かれているのですから。僕はなぎさんの字が大好きです。それでは。

 敬具』


 なかなか空さんは痛い所を突いてくるのだ。そして最後の文句は殺し文句に近い。


『拝啓…という書き方が未だに慣れない私です。空さんお元気ですか?

 星屑の河原、早速行こうと思ってたのですが、雨にやられてしまいました。あれ? こういう場合は手紙的に何て書けばいいのかな? すいません、私バカで。そういう訳で今回は行くことができませんでした。


 星屑の河原の上流って、なんか少し怖い気がするのは私の考えすぎでしょうか? 何かがいそうな気がして……。一人だと怖いから、空さんが一緒にいてくれたら心強いなぁ、と思うのですがダメでしょうか?


 私自身、空さんに会いたいと思います。こんな綺麗な字を書かれる方はどんな人なんだろう、って。最初、空さんは会うのだけはやめましょう、って書かれてましたけど、手紙を重ねるごとに優しい言葉を綴ってくれる空さんに、関心が湧いたというか。身勝手なお願いだと思いますが、空さんのお薦めの場所を空さんと一緒に見に行けたらと思います。不躾なお願いですが、よろしくお願いします。

 かしこ なぎ』

 

 まぁ、私の文章センスなんてこんなもんだ。というか、相手が男性である事を前提になんて事を書いている。実は書きながら真っ赤になっていた。脈拍が早くなり、手が震えて───私にもこんな事があるのかと思うとなんか呆れた。この気持がなんなのか分からない程、鈍でもない。


 私は自分の顔を鏡で見る。

 茶髪にピアス。派手じゃないが化粧をして着飾る自分。私と彼じゃ吊り合わない。彼の文字を見ただけで一目瞭然だ。それなのに、何故距離を近づけようとするのか?


『拝啓 なぎ様

 前回のご質問ですが、雨に降られて行くことができなかった、という表現がいいかと思います。とても残念でしたね。本当に綺麗なので、是非なぎさんに見て欲しかったのですが、なぎさんが女性である事を考えると至極もっともです。僕の配慮が足りませんでした。


 それで僕が同行するという点ですが、それはやはり難しいのではないか、と思います。僕自身、なぎさんのお手紙を楽しみにしていますが、なぎさんをエスコートできるような人間でもありません。なにか失礼があってもいけませんし、これでも僕も男なので、凪さんに嫌な噂がたつのも避けたい所です。


 できればご家族の方と見に行く事をお薦めします。道は決して平坦ではないので、運動靴をお薦めしますね。それでは、時期が限定されるのでお早めに。

 敬具』

 

 敵は手強い。やるな空本君。躱し方が上手じゃないか。


 ん? あぁ、そうそう言い忘れてた。私は手紙の相手を知っている。これはフェアじゃないんじゃないか、と思うが仕方無い。彼の文字に一目惚れしたバカ女がここにいるのだ。彼の字を他人と見間違えるはずがない。


 クラスが一緒。私の2つ前の席。書道部所属、成績はAクラス


 まるで私と対極の人が空本カナメ。分不相応にして接点なし。でも、彼の字だけは私は知っている。力強くて繊細で、文化祭で書道部のパフォーマンスでセンターを張っていた彼に釘付けになった。


 空本君の背中を見ていて思う。


 私も書道を続けていたら何か違っていただろうか?


 そんな事を考えると、煙草が欲しくなるがここは学校だ。愚行で空本君と距離が遠くなるのはゴメン───え? 私は何を考えてる?


 ため息をつく。


 分不相応。


 私は未開封の手紙を開けた。私が手紙を出す前に空さん───空本君から手紙が届いたのだ。タイミングが合わず、開封が今に至る。本当は誰の目もない

所で開けたかったが、気持ちが急く。

 

『前略。なぎさんが迷っているのか、寂しいのか、そんな感じが前回の手紙から感じたので不躾ながら取り急ぎ書かせて頂きました』


 これが一枚目。続けて2枚目は半紙だった。三文字、それが流麗に流れるように書いてあった。

 

『大丈夫』


 それだけ。手紙で伝わる事があるのか、空本君は察しているのか、それとも無自覚な女の敵なのか。ズルい、狡いなぁ。迷ってばかりの私に手紙が力をくれる。もう一度、やってみようか?


「なに凪? それ手紙?」


 悪友の真希が声をかけてきた。


「な、いきなり覗くな!」


 反射的にフックで応酬。


「あ、あんた、いきなり暴力ふるうか?!」


「やかましい!」


 慌てて手紙をしまう。失敗だ、やっぱり失敗だ。学校で見るんじゃなかった。


「男から?」


「違う!」


「何人め?」


「人を色狂いのように言うな!」


「凪って、イメージより堅いよねぇ」


「うっさい!」


「処女だし」


「大きい声で言うな、そんな事!」


「顔赤いのは、そっちの手紙が理由だよね?」


 ニッと真希が笑う。だがそれ以上には突っ込んでこない。私がぶすっと膨れたからか、真希なりの優しさからか。


「私はね、凪」


 真希が囁くように耳にその唇を寄せる。


「凪の幸せをいつも願ってるんだよ?」


 微笑して、そして自分の席に戻っていく。


「バカ───」


 煙草の匂いを私の制服につけるな、むかつく。空本くんが振り返って私を見た。その顔が笑ってる。


「なんだ、空本。バカだと思って珍獣な目で見るなよ! むかつく!」


 また言ってしまった。バカは私だっ───心の中で悶絶する。


 空本君は大抵肩をすくめる。付き合いきれないね、と言いたげな顔で。でも今日は違った気がした。


「大丈夫」


 私は固まる。


 もう空本君は前を向いていた。


 分からない。こいつは本当に分からない。分からない?


 2つ前の席の彼。あと少し、距離が近くできたら。近くに距離を置いて、何を私は話すつもり?


 分からない。混乱する。


『大丈夫』


 何が?


 封筒をカバンの中から探す。気持ちが少し落ち着く。分不相応だろ、どう考えても。


 それなのに───。

 

 

 

 

 




 

 連れて行ってくれたらいいのに。


 空本くんが。


 私の手を引いて。星屑の河原や、私が知らない場所へ。私が諦めた事や、私が手を伸ばしても届かないものに。 


 それこそ分不相応。


 それなのに、それなのに───。











 性懲りも無くかどうかは分からないが、真希が戻ってきて肩を叩いた。


「自分で手を伸ばさないと、届かないモノもあるんだぞ?」


 意味深に小さく笑って、そのまま教室を出ていく。


 余計なお世話だ。見透かしたように真希はいつも言う。それがまた腹ただしい。


 と言うか真希、サボり決定か。


 私はため息をつく。


 最初から届かないのがわかっているのなら手を伸ばさない方がいいに決まってる。それなのにそれなのにそれなのに───。


 私の何度目かのため息は予鈴のチャイムでかき消された。


  

ペンフレンドで通じますか?(笑)

手紙とか僕自身が苦手なので、表現がまずい所はご容赦ください。

続きを匂わせた中途半端な終わらせ方ですいません。

気が向いたら続きます(え?

粗野な凪と、生真面目な空本くん。文通相手が本当に空本君なのかは…まぁ、ご想像にお任せするとしまして、ね。

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