表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

手のつなぎ方

10年以上前の過去作です。青くて読みなおして悶絶しました^^;


 その一言を待っていた女の子でいるつもりは無かった。ただ私は正史との関係を壊してしまいたく無かっただけ。正史は知らなかったけど、私はずっと正史の事を見ていたから。


 高校に入学してから、同じクラスで同じ演劇部。仲よくなるのは当たり前だった。


 正史はイイヤツ。あの時はそれぐらいしか思えなかったけど、いつのまにか正史と一緒に行動しているのが当たり前になっていて、私はその空気が気持ち良かった。会えば口喧嘩まがいのやりとり。でもお互いの顔は笑っていて、その時間が何より大切だったけど、そんな事を素振りすら私は見せなかった。


 男女の友情は成立するか否か。


 私は その答えは恋愛感情が含まれるかどうか、だと思う。


 演劇部では先頭に立つ私をいつも後ろから応援してくれる正史。私のやりたい事を一番理解してくれているのが正史。私のやりたい事を脚本にしてくれる正史。私は正史の脚本でたくさんの人の拍手をもらいたいと本気で思っていたし、正史の種を咲かせる事ができるのは私だけだと思っていた。


 正史は自己主張というものが少ない。ただ、ここぞという時に適切な意見を言ってくれる。必然的に演劇部の部長は私となり、副部長が正史になった。二人で一人。だから咲かせることができる花。

 

 だからこそ、壊したくなかった。

 臆病?

 

 友達や部員にもそう言われたけど、私は一番言いたかった一言を胸の奥深くらにしまい込んでいた。言いたかった。でも壊れるくらいなら、言いたくなかった。弱虫でもいい。正史との関係を終わらせたくない自分が此処にいた。恋なんか要らない。正史が欲しい。そんな事を真剣に考えている自分に気付いて赤面した。


 だから正史の言葉が信じれなくて、嬉しくて、耳を疑って、聞き返してしまった。

 え? って。何? って。

 正史は照れたような、どうして聞いてくれないんだよ、というようなすねた顔で、もう一度、私に向かって囁いた。


 


「歩美の事が好きなんだ」


 


 ずっと変わらなかった二人。変わらせたくなかった二人。変わりかけてた二人。

 私は混乱したそんな思考を押し隠すように、照れた表情でうなずいた。


 


 


「うん」


 


 


 その日、世界の何もかもが変わった気がした。


 部活は休みだったので、正史と一緒に帰る。たわいもない話しをしながら、私は期待の眼差しを送る。気付いてよ。だけど、正史は話している。話しばかり、いつもと何も変わらない。


 私は手をぐいっ、と正史の腕にからめた。ぎゅつ、とすり寄るように。


 すぐ近くを歩いていた恋人達のように。

 正史は少し驚いた顔をした。


 私はすぐに手を放した。

 さっきまで笑っていた会話が止まった。

 壊したくないものが、壊れていくのを感じた。


 







 いつもの十字路。ここで帰りは別れる。いつも通り。言葉がないまま、私は手を振った。悲しかった。ずっとずっと大好きだった人が大好きと言ってくれてすごく嬉しかったのに、今はただ悲しかった。もう戻れない形が昨日まであった事を考える。どうして何も言ってくれないの? 正史に背を向けた私はもう泣きそうだった。


 


 気丈な私。私らしくない。


 


「歩美」


 正史の言葉に私は振り返らず、足だけ止めた。


「ごめん」


「何が?」


 どうして謝るの? それって私の事が本当は好きじゃなかったって事? それならどうして好きと言ったの? 


 壊れていく。壊れていく。

 私の大切な物が。


「どうしていいのか分からなくて」


「……」


 嫌いなんでしょ?


「歩美の事好きだけど、どうしていいのか分からなくて。どうしたらこの気持ちが歩美に伝わるのか分からなくて」


 私は振り返って正史を見た。正史の方が泣きそうな顔になっている。

 好き。


 私は押し隠した気持ちが、うずくのを感じた。押し殺しすぎたのかもしれない。だから正史の言葉が嬉しくて、一人で暴走していたのかもしれない。


 正史が好き。

 私は正史に手を差し出した。


「いつもより少しだけ距離を近くしようよ」


 正史が私の手を握る。暖かい温もりが、体に染みた。


「ね?」


「うん」


 抱きあうわけでもなく、キスするわけでもなく、ただ、いつもより少しだけ距離を近くして私たちは手をしっかりと握って立っていた。


 私はクスリと笑う。

 正史も笑う。

 笑っただけで、言いたい事が全て通じた。

 そうだよ、そう。こんな簡単な事だったんだもんね。


 




 いつもより距離が近くなった私たちは、いつもと同じ笑顔で、遠回りをした。その手と手がごく自然に握られていたのが、一番嬉しかった。それが明日から、いつもと同じ二人だけの約束になるのかな? って思うともっと嬉しかった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ