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先輩と後輩

先輩と後輩で勢いで書いてみました。

 先輩と後輩の関係は微妙だ。一年差、この差が大きい。


 先輩の縁無し眼鏡の奥底から、レンズ越しに見つめられると体が竦んでしまう。それは怖いのではなく、自分自身の感情に気付かされるのだ。


 何?


 もちろん、私の特別な感情に。


 学年が違うと、行動範囲も勿論違う。同じクラスで勉強なんてあり得ない。だから私はこの1歳差を呪ってしまう。


 部活になるまで一緒になれない。


 でも、男子部のテニスコートと女子部のテニスコートは境界線を挟んで見えないラインが引かれる。そして休憩の間は同学年で話題が弾む。


 だから苦しい。


 部活を辞めたら楽になるんだろうか? とも思ったが、自分の好きな事を辞める事の意味も分からない。


 球を打つ事に集中する。

 だから私と先輩の仲はクールで通っている。


「瑞穂と遠野先輩って、付き合ってる感無いよね?」 


 とは同じくテニス部に私を1年の時に誘い込んだ由香里の弁。私は介する事なく、ラケットでテニスボールを集める。


「なんで無口な瑞穂なんだろうね、遠野先輩は」


「……先輩に聞いて」


「だってさ、我が校一のアイドルを振ったでしょ? 瑞穂一途はいいことだけど、どういう気持ちなのかな?」


 由香里は好奇心旺盛なだけで、悪意は無い。デリカシーも無いけど。

 先輩の気持ちは私だって知らない、私が知りたいくらいに。


 遠野先輩のフォームが私は好きだ。


 洗練されていて、無駄なくラリーを続けていく。特にバックハンドは計算された弧を描き、相手を撹乱させる。


 でも、と遠野先輩は言う。


 瑞穂の粘りが俺は好きだ。最後まで絶対諦めないから、レギュラー取れたでしょ? と。


 私は由香里に肩をすくめて見せながら、部長とラリーを開始する。


 早い。でも私も絶対こぼさない。


 ────負けず嫌い。


 そうかも。そういえば、模擬戦として、男女混合ダブルスで、私は遠野先輩と戦った事があったのだった。惨敗だったけど。でも私は最後まで走った。


 あっといまに3ゲーム取られたが、遠野先輩の打つ球は全て拾った。返せなかったり、即打ち返されたりしたけれど。











「お疲れ」


 ニッと遠野先輩が笑う。こういう笑い方をするのを知っているのは私ぐらいなのだろうか? 多分そうじゃないと思うが、部活では表情を変えないのでよく分からない。


 私は遠野先輩を見上げる。


 見てないようで、この人はいつも私を見てくれている。


 ────ゲームに集中しても、瑞穂の存在は感じてるよ?


 遠野先輩は言う。

 本当だろうか?


 私なんかただの下級生だから、視野にも入らないんじゃないかと思ってしまう。

 だから遠野先輩を思わず見やってしまう。

 でも、逆に遠野先輩は私の瞳の奥底を覗こうとする。


「……近い、先輩」


「瑞穂はなかなか本音を出してくれないからね」


 先輩の言う通り、私は言葉が苦手だ。だからダブルスよりシングルスが気持ちとしては楽だ。球技より陸上が好きだったように。でも、結局はスポーツは『個人』ではく、そのクラブ全体の意思統一で存続していく。私みたいな個人プレイは邪魔と、結局顧問とも部長とも折り合いが悪かった。


 辞めたのは必然で、今こうしてテニスをしているのが妙にオカシイ気もするが、テニスはテニスで楽しい。そして何故か、テニス部は男女とも、私を認めてくれている気がする。無口で、あまり話せないのに。


「瑞穂、今約束破ったね」


「え?」


「二人の時は、絶対に名前で呼ぶって決めたろ?」


「それは……」


 決めたというか、決めさせられたのだ。先輩権限を堂々と使われて。


「言ってよ?」


 深呼吸をする。先輩は本当に距離が近い。部活ではあんなに距離があったのに、すぐに近くにしてくれる。それがズルいと思うのだが。


 だから先輩の名前を意を決して呟く。


「聞こえない」


 見事に捻り潰される。


「鬼……」


「俺は鬼って名前じゃありません」


 一学年上の、テニス部エースを呼び捨てにする事にどれくらい度胸がいる事か。そして先輩と一緒にいる事にどれだけ他人の視線を感じる事か。


「……トオル


「よくできました」


 ぎゅっと手を握ってくれる。

 手を繋ぐ。これも未だ私からはできない。いつも遠野先輩がリードしてくれている。その度に昂ぶる鼓動が、私の気持ちを語っているのに。


「……あの、誰かに見られる」


「見られて困る事はないよ」


「私が恥ずかしい」


「多少、免疫をつけないとね。それにこうしないと、変な虫がつく」


「へ?」


「瑞穂を守るのは俺だけで良いって事。今日、加川と話してたでしょ?」


 加川君はテニス部の同学年だ。フォームについて、少し話し合ったのだが、僅か30秒足らずを先輩は見ていたの? 少し目を丸くする。


「そんな関係じゃない」


「浮気の言い訳みたい」


 先輩は軽く笑うが、目が笑っていない。


「一学年の差でこんなに苦しむとは思ってなかったからさ。これが俺の本気って事で」


 ぎゅっと先輩が手を握る。


「それとも、瑞穂は俺の気持ちが信じられない?」


 私は首を横に振る。


「どちらかと言うと消化不良」


「ふぅん」


「なに?」


「瑞穂は自覚が足りない。消化しきれないなら、俺が咀嚼して消化しやすくしてあげるよ。俺の気持ちは本物だよ?」


 ぐっとまた、私の目を覗きこむ。


 なんでこんな私に────でも鼓動が、私自身を狂わせる。咀嚼してあげるって、それは口移しで食べさせるって事で────でもそれは感情の話で────訳が────わけが────唇で唇を塞がれた。


 少し距離を離して、先輩は笑っていた。


「もっと、自信をもてって。大丈夫だから」


 呼吸が乱れる。こっちが大丈夫じゃないが、遠野先輩はなかなかどうして自分ペースで私を翻弄していく。


 こうやって毒されていくのか。


 手を────伸ばしてみた。その手をしっかり掴む。指と指を絡ませて、遠野先輩を力任せに引っ張る。


「みず、ほ?」


「公道でする事じゃない。でも、これならもう少ししたい────」


 自信なんかない。

 手を伸ばす事すら、目を合わす事すら、声を交わす事すら恐れ多い。


 身の程知らず────他の部活の子やクラスメイトの陰口をたくさん聞いている。


 でも由香里や加川君、みんな、遠野先輩がそれを吹っ飛ばしてくれる。


 だから、遠野先輩に限らず手を伸ばしてみたいという欲求に駆られながら。そして、さらに抱き寄せる遠野先輩にかなわなくて。


 夕日に映しす寄り添う影に目をやりながら────私の顔が真っ赤なのは、夕日のせいだ。そう思いながら。


自信の無い後輩と自信家の先輩を書いてみたくなって。裏設定としては、生徒会所属の遠野先輩。否応なく、学校のことに巻き込まれていく瑞穂って事でしょうか。実は先輩は小学校の時から、瑞穂に片思いをしていて、瑞穂には過保護とか、どうでしょうか? 最近、恋愛小説モードだったので、書いていて楽しかったです。

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