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神は祟らない(占)

「神のたたり?」


風間は占い部屋で、前にいる相談者の女性に思わず言った。見たところ30代前半くらいだろう。


「そうなんです!最近、気持ち悪い事が続いて…」

「気持ち悪いこと?」

「ええ。誰もいない部屋から声がしたり、誰もいないトイレから水が流れる音がしたり…誰もいないお風呂から泣き声が聞こえたり…」


風間は(それ幽霊じゃないの?)とぞっとした。悪魔は怖くないが、得体のしれない「幽霊」は苦手だ。

女性はそんな風間に気付かずに続けた。


「それで、祈祷師さんに見てもらったら「ここは元々は神社が建っていたところで、勝手に家を建てたことで神が怒ってる」…というんですね。」

「うーーん…」


幽霊はともかく、神がそんなことで怒ったり祟ったりするんだろうか…と、風間は疑問に思いながら尋ねた。


「で…その祈祷師さんにお祓いはしてもらったんですか?」

「何を言うんですか!神様を祓えるわけないでしょう!!」

「あ、そうか。」


風間は頭を掻いた。が、最初から思っていた疑問を聞いてみることにした。


「それで…僕に何を占って欲しいんです?」

「はい!その神様に気を鎮めてもらうためにはどうすればいいか、占って欲しいんです!」

「はぁ!?」


風間は思わず声を上げてしまった。そもそも、神様かどうかわからないものの気を鎮める方法なんて、タロットで占うには無理がある。

風間はそう言おうと思ったが、ふと思いついて女性に言った。


「あの…正直言いますと、神様という偉大な方に対してですね…僕なんかが関わる自体、とんでもないことなんですよ。…でも、お困りのようですから専門家をご紹介しますよ。ただその方は祈祷師とか言うのではなく、神様とお話しができる人なんです。僕も同行しますので、その方とお宅にお伺いしていいでしょうか?」

「それは嬉しいのですが…料金はどれくらいかかるのですか?」

「うーん…お祓いするわけじゃないから…でも、特殊能力ですからね…50万円くらいで考えておいて下さい。」

「50万円!」

「無理なら、無理です。」


風間のその言葉に女性は考え込んだ。そして「考えさせてほしい」と言って、帰って行った。

風間はほーっと息をついた。


「あー…はったりが効いた…」


実は神と話せる専門家なんていないのである。そんな訳のわからない事に関わるのはごめんだ…というのが正直な気持ちだった。


…だが、風間は結局関わってしまうことになるのである。


……


「えっ!?50万円払うって!?」


風間は翌日も来た女性に、驚いて声を上げた。

女性が興奮気味に言った。


「はい!ひいおばあちゃんが気持ち悪がっていて、貯金を下ろすから是非来てもらってくれって…」

「ええーっ!?」


風間はそう叫んでから、はっと口をつぐんだ。


(まずい、ひじょーにまずい…)


風間は黙り込んだが、何かに気付き急に明るい声を上げた。


「わかりました!その方に連絡をつけますので、いつ行けばいいですか?」


女性は嬉しそうな顔になった。


……


「いやだーっ!幽霊はいやーーっ!!」


天使「アルシェ」の人間形「浅野俊介」がリビングと和室の間にある柱にしがみついて叫んでいる。その体を、風間が柱から引き剥がそうとしがみついていた。まるで、コアラの親子のようである。


「浅野さん、お願いしますよ!幽霊じゃないんです、神様なんですよ!」

「神様じゃないにきまってるだろ!?それは幽霊だよっ!絶対に幽霊っ!」


浅野は柱にしがみついたまま離れない。そんな2人を、天使アルシェの主人「北条きたじょう圭一」がリビングのソファーから、あきれ顔で見ていた。圭一の膝では、キジ柄の子猫「キャトル」があくびをしている。

風間が食い下がった。


「神様じゃないなんてどうしてわかるんですかっ!」

「本当の神様なら、そんなことで怒ったり祟ったりしないのっ!」


浅野の言葉に、自分の思っていた通りだ…と、風間は思った。

だが、納得している場合じゃない。


「それでもお願いしますよー!明日連れていくって返事しちゃったんですよー!」

「…金取るの?」


浅野が急に声のトーンを落として、風間に向いて言った。


「え?…ええ…」

「いくら?」

「…50万円…」

「この金の亡者ーっ!!」


浅野はそう言って、また柱にしがみついた。風間は浅野の体にしがみついて言った。


「違いますー!本当は、それぐらいの金額を言っておいたら断って来ると思ったんですよ!…それが払うから来てくれってことになっちゃって…」

「にゃあっ!!」


キャトルが急に鳴いた。圭一が驚いた顔をしてキャトルを見た。キャトルは圭一の膝から飛び降り、驚いている風間の足元に駆け寄ってまた「にゃあ!」と鳴いた。

浅野がキャトルに向いた。


「…ザリアベルに?…!…そうだ!ザリアベルに行ってもらおう!!」

「ザリアベルさんに?うわっ!」

「!!」


浅野が急に手を離したので、その体をひっぱるようにしがみついていた風間がひっくり返り、浅野がその風間の体の上に、仰向けにひっくり返った。


「…浅野さん…どいて…!」

「ワンツースリー…浅野、チャンピオンを勝ち取りましたー…」


もがく風間の体の上で、浅野が言った。

キャトルと圭一が同時にため息をついた。


……


「どうして俺が…」


すぐに呼び出された悪魔「ザリアベル」はソファーに座り、当然のごとく「ぶすっ」とした顔で、圭一の淹れた紅茶を飲んでいた。

向かいに座っている風間が両手を合わせて懇願している。


「お願いします!ザリアベルさんは幽霊大丈夫でしょう?」

「幽霊とは限らんだろう。」

「例えば?」

「それこそ、悪魔の仕業かもしれない。」

「悪魔!?」

「それなら、お前の仕事だ。俺はこれ以上敵を増やしたくないんでね。」

「でも、悪魔かどうかもわからないじゃないですかー!お願いです!一緒に見に行くだけでも…ねっ!」


風間が両手を合わせたまま言った。ザリアベルの隣に座っている浅野は黙りこんでいる。

風間の隣に座っている圭一が言った。


「ザリアベルさん。僕からも頼みます。風間さんを助けてやって下さい。」

「!!」


風間は驚いて圭一を見た。圭一は苦笑するように笑って言った。


「だって、あまりに気の毒で…。」


その圭一の言葉に、ザリアベルはため息をついた。


「…圭一君がそう言うのなら、仕方ないな。」


ザリアベルのその言葉に、風間がその場で飛び上がって言った。


「!!…えっ!?ザリアベルさん!本当ですか!?」

「1回だけだぞ。1回だけしか行かないからな。」

「はい!充分です!わー!圭一さんありがとう!」


風間はそう言って、圭一の首に抱きついた。圭一が笑いながら「よして下さい。」と言った。

浅野がほーっと息をついた。


「お前も来い。」

「!?」


急にザリアベルにそう言われ、浅野は目を見開いてザリアベルに向いた。


「おっおっ俺は、留守番してます!…お疲れになって帰ってくる皆さんの為に、ご飯作らなきゃー…」

「……」


ザリアベルが浅野を睨みつけている。


「…お供します。」


浅野がうなだれながら言った。圭一が吹き出した。風間は「やったーっ!」と両手を上げて喜んだ。


……


翌日


「きゃぁっ!」


玄関を開けた女性がいきなりそう叫ぶので、先頭にいた風間と浅野は思わず何かが見えたのかと、そっと後ろを振り返った。

…いたのは、ふてくされ顔のザリアベルだけである。


「?」


風間と浅野は再び女性に振り返った。女性は指を胸の前で組んで言った。


「浅野俊介さんですよねっ!イリュージョニストのっ!」

「えっ!?…あっ…ああ、はい…そうですが…」

「きゃーっ!ひいおばあちゃんっ!浅野さんが来たー!嘘みたーい!!」


女性はそう言いながら、中へ引っ込んでしまった。

自動的にドアがバタンと閉じ、風間達は取り残されてしまった。


「喜んでもらえたし…帰ろうか、風間君。」

「そうですね。浅野さん。」


2人がそう言って振り返ると、後ろにいたザリアベルが2人を睨みつけた。


「……」


2人は再び、まだ閉じたままのドアに向いた。


……


「まぁまぁ!生きてて良かったよぉ!」


老女に手を握られながらそう言われ、浅野は照れくさそうに笑った。こんなに感動されて嬉しくないわけがない。女性が嬉しそうに風間に言った。


「風間さん!専門家って浅野さんのことだったんですか?」

「ああいえ…実はあちらの…」


風間は、リビングの中を見渡しているザリアベルを手で指した。


「専門家というのは、あちらのザリアベルさんです。」

「!!…ザリアベルさんって…まぁっ!イリュージョンショーに出てたっ!?」

「えっ?」


風間は知らない。


「ひいおばあちゃんっ!」


女性のその言葉に(またかよ…)と風間はため息をついた。


「ひいおばあちゃんっ!ザリアベルさんですって!ほら、テレビのイリュージョンショーで出てたでしょ!」

「まあまあ!」


老女は浅野の手を離して、ザリアベルにゆっくりと近寄り、両手を取った。


「よお来てくれました。どうぞよろしくお願いします。」


老女はそう言うと、ザリアベルの手を取ったまま頭を下げた。ザリアベルは目を見開いて、ただ老女を見つめている。


……


老女は女性とソファーに座り、リビングをゆっくり歩き回っているザリアベルを不安げに見ていた。

風間と浅野も一応、リビングを見渡しているが、正直何も見えていない。…悪魔の類ではないようだった。


(…やっぱり…幽霊…)


風間はそう思い、ぞっとした。幽霊だった場合は、どうすればいいのかわからない。それこそお祓いは祈祷師の仕事だ。


「庭を見せてもらう。」


ザリアベルが言った。老女が目を見開き、女性が慌てて立ち上がった。


「はい!どうぞ!」


ザリアベルはうなずくと、リビングの窓から庭に降りた。

女性が慌てて言った。


「ザリアベル様っ!どうぞ、この下駄を…」

「?…ああ、そうか。」


ザリアベルはそう言うと、一旦降ろした足を元に戻した。そして女性が並べ直した下駄を履いて、庭に下りた。

カランカランという音がする。風間が思わず吹き出しそうになったが、なんとか必死に堪えた。浅野などは背中を向けて、肩を震わせて笑っている。

…どう見ても、ザリアベルと下駄が似合わないのだ。

だが、女性と老女は笑うこともなく、ザリアベルが中庭を見渡しながら歩いているのを不安そうに見ていた。


突然ザリアベルが、片手を差し出し何かを掴もうとした。

だが逃げられたように、宙を見ている。


「!!!」


女性が体を強張らせた。浅野は何事かと窓に駆け寄ってザリアベルを見た。風間は固まって動けない。


「浅野…見えないのか?」

「え?」


ザリアベルにいきなりそう言われ、浅野は面食らった。


「私には何も…」

「そうか…じゃぁ、悪魔の類じゃないのだな。」

「ザリアベルには見えているんですか?」

「俺には、白いクラゲのようなものがたくさん浮いているのが見える。リビングの中もそうだ。この中庭も。特にあの木…」


ザリアベルはそう言って後ろを振り向き、大木を指さした。


「…白いものに絡みつかれて、ほとんど俺には木が見えない。」


それを聞いた女性は口に手を当てて慌てるように老女の横に座り、その手を握った。老女は真剣な表情でザリアベルを見つめている。

風間と浅野は情けなくも、恐怖でかちこちに固まって動かなくなっている。


「そなた…本物じゃの。」


老女が突然言った。ザリアベルは老女に向き、下駄の音を鳴らしながら窓に近づいた。


「婆さんにも、見えているんだな?」


ザリアベルの言葉に、女性が驚いて老女を見た。風間と浅野も驚いた目で、ザリアベルと老女を交互に見た。

老女がゆっくりと立ち上がりながら言った。


「じゃぁ…このおかしなことがどうして起こったか…もうわかっとるな?」

「いや…まだよくはわからん。ただ、神の祟りではない事は確かだ。」


ザリアベルがそう言うと、老女が笑った。


「それは神様に失礼なことをしたの。」

「婆さん…あの木で誰か首を吊ったんじゃないか?」


風間と浅野は驚いた目でザリアベルを見た。女性は両手を口に当てて老女を見た。

ザリアベルが続けた。


「…このクラゲのような奴らは、その首を吊った奴の恨みが形をなして集まってる。」

「!?」


風間と浅野がまた固まった。女性が不安そうに老女を見ている。老女はため息をついて言った。


「恨んでるなら、どうしてそう言ってくれんのかの。」


ザリアベルは眉をしかめて言った。


「婆さん、答えになってないぞ。いったい何があったんだ?」

「その木で首を吊ったのは男の子じゃ。…それも100年以上も前の話でな…」

「!」


老女の言葉に、全員が目を見開いて老女を見た。


「うちは江戸時代から続く商家でな。奉公に来た子たちをこき使ったそうだ。そのこき使い方は半端じゃなかったらしくての…1人の丁稚奉公をしていた少年が、その木の枝に手ぬぐいをかけて、首を吊って死んだんじゃ。」

「……」

「その頃の主人は反省して、それから奉公人を大事にするようになった。だが家族はその木を気味悪がっての。主人に切るように頼んだが、主人はその少年の事を忘れないようにと残した。その後も切られることなくその木は残ったが…残ったせいで、死んだ少年がここに居つくことになってしまったのかもしれんの。」


老女は言葉を一旦切って、悲しげにため息をついた。


「死んだ少年の霊はずっとその木に居ついたまま、100年以上かけて力を付けて来たんじゃろう。そして…末裔のわしらを呪い殺す準備をしとるのかもしれん。」


ザリアベルが眉をしかめて、老女に尋ねた。


「それに気づいたのはいつだ?」

「先月じゃの。時にはその少年の姿が見えるようになって…」

「浅野っ!!」


ザリアベルが突然叫んだ。浅野は女性と老女を両脇にかかえて、別の部屋に瞬間移動した。

間一髪で、竜巻がリビングの中に現れた。あのままだと女性と老婆は吸い込まれていただろう。ザリアベルと浅野はそれを感じたのだった。

風間はその場に屈み、竜巻に巻き込まれないように必死に耐えていた。


「エクソルティスト!」


同じように、竜巻の向こうで屈んでいるザリアベルが叫んだ。

風間は自分の事だと、顔だけを上げたが答えられなかった。ザリアベルの声が聞こえた。


「姿を映せっ!」

「えっ!?でも悪魔じゃない!」


風間はやっとのことで答えた。ザリアベルが叫んだ。


「悪霊も同じことだ!姿を映すんだっ!」

「!!」


風間はなんとか壁に手をついて立ち上がり、両手を前に伸ばして円を形作った。


「鏡の陣!」


竜巻と風間の間に小さな陣が現れた。そして風間が両腕を広げると、陣がそれに従って大きく広がった。


「!!」


陣が竜巻の本体を映している。それを向かいから見たザリアベルが何か悲しそうな顔をした。

風間もその姿を後ろから透かし見て、顔をしかめた。


あどけない少年の姿だった。まだ10歳になっていないほどの着物姿の少年が映っている。


「おうち…に…帰りたい…の!…父さん…と…母さんに…会い…たい…!」


丁稚奉公の少年が、竜巻の中心でそう叫びながら泣いていた。ずっと泣き続けていたように、激しくしゃくりあげている。その時、風間の脳裏に少年の過去や想いが、映像が早送りされるように映った。

風間はあまりのつらさに目を閉じた。


「エクソルティスト!この子を救え!」


ザリアベルが震えながらも叫んでいる。ザリアベルにも見えたようだ。

だが風間は、両手を広げたまま、とまどったように目を泳がせている。


「…悪魔じゃないから、どうすればいいのか…」


その風間の言葉を聞いた少年は、また大声で泣き始めた。

ザリアベルが叫んだ。


「礼徳の教えを思い出せ!!魔を魔とず!」

「!!」


風間は目を見開いた。ザリアベルが続けた。


「人を人と視ず!」


風間はうつむき加減に、ザリアベルの声に合わせて呟いた。


「…悲哀辛苦ひあいしんくを祓い除けば、みな無垢な魂にかえりゆくなり…」


少年の泣き声が響く中、風間は必死に頭を巡らせた。

風間の後ろに、ドアを開いて立つ浅野の姿があった。その浅野にかばわれるようにして、老女と女性が祈るように風間を見つめている。


「悲哀辛苦を祓い除き…」


風間はそうもう1度呟いて、意を決したように顔を上げ少年を見た。


「泣くなっ!」


風間が叫んだ。少年はしゃくりあげながらも、泣き声を止めた。


「…僕には、君を冥界の入口まで送ってやることしかできない!…そこで親が来るのを待つんだ!」


風間のその言葉に、少年がしゃくりあげながら尋ねた。


「来な…かった…ら…?…僕…のこと…忘れ…てたら…?」


風間が答えようと口を開いた時、老女が叫んだ。


「親は子を忘れたりせん!」

「!!」


風間は両手を広げたまま、顔だけを老女に向けた。少年が老女を驚いた目で見ている。


「100年経っても、200年経っても、わが子を忘れたりはせん!」


老女の言葉に、少年はしゃくりあげながらうなずいた。

風間は微笑んで少年に向き、広げていた両手を拝むように自分の胸の前で「パン」という音と共に閉じた。

陣が消え、少年の姿は竜巻に戻った。

風間は両手を前に差し伸ばして、円を形作った。


浄邪じょうじゃの陣!」


小さな陣が竜巻の上に現れた。風間は陣を見上げながら両手を広げた。それに従うように陣が大きく広がった。

風間は、額に人差し指を当てて叫んだ。


「邪気を除き、冥界への道をけよ!」


竜巻が消え、少年の姿が現れた。そして陣から光が降り注いだ。少年は驚いたように降り注ぐ光を見上げた。

少年が笑顔になった。


「!きれい!」


風間は額に指を当てたまま叫んだ。


「礼徳の名の元に…祓え!」


少年は笑顔のまま目を閉じた。そして、輝く光に包まれて消えた。


後には静けさだけが残った。

風間は、その場に四つん這いになるようにしゃがみこんだ。

同時に、老女も両手で顔を覆って座り込んだ。女性が涙ぐみながら、老女を抱くように屈んだ。

浅野は、微笑みながら風間を見ている。


「よくやった。」


風間の耳に、いつの間にか傍まで来ていたザリアベルの声が聞こえた。

風間はザリアベルを見上げた。

ザリアベルは、微笑みを見せていた。風間が初めて見た顔だった。

風間は、何故ザリアベルが礼徳の教えを知っているのか聞こうと思った。


「ザリアベルさん…」

「なんだ?」


…風間がふと視線を落とした時、ザリアベルの足を見てしまった。そして思わず言った。


「…家の中では下駄を脱いで下さい。」

「!!」


ザリアベルの顔が真っ赤になった。

風間は、またザリアベルを見上げて笑った。


……


「その子は家族の元へ帰りたかっただけだったんです。誰も殺すつもりはなかった…」


ソファーに座った老女は、風間のその言葉に黙ったままうつむいていた。風間が続けた。


「死んで魂だけになれば、家に帰れると思ったんでしょうね。でも自ら命を絶った魂は除霊されない限り、その場に縛られてしまう。それでその子は時間をかけて、あなたに訴える力をやっとつけた。それが怪現象だったわけです。」


しばらく、誰も口を利かなかった。長いののち、老女がぽつりと呟いた。


「あの子は…親に会えたかの…」


それを聞いて皆うなだれた。その時、風間の胸ポケットから「がさっ」という音がした。

それを感じた風間は「じゃあ占って見ましょうか。」と言い、胸ポケットからカードを取り出した。


そしてそれを先に自分で見て微笑み、テーブルに置いて言った。


「聖杯の10、正位置アップライト


そのカードの絵柄を見て、女性が「まあ!」と嬉しそうに言い、両手を胸の前で合わせた。

老女は涙をこらえるような顔になり、浅野がほっと息をついた。ザリアベルは無表情のままカードを凝視している。


絵柄は、両親らしき男女が肩を並べ、聖杯10個と共に現れた空の虹に手を上げ喜びを表している。そしてその側には子供が2人手を取り合ってはしゃいでる姿があり、遠くには、この家族の家が見えていた…。


(終)


……


カード「聖杯10」正位置の意味


「家庭円満」「願望成就」を指す。

逆位置になると「家族トラブル」「孤独感」「友情破たん」となる。


では最後に新人(もうインチキとは言わない(笑))占い師の「風間祐士」が、今回の占いについてご説明しましょう!


僕は、胸ポケットをいつも空にしているんですが、これまでにもあった通り、カードが勝手に現れることがあります。

ザリアベルの時は「隠者」でしたね。たぶん「この悪魔は君に危害を加えないよ」と告げてくれたのだと思います。そしてアルシェの時は「上から誰かが降ってくるよ!」と危険を知らせてくれました。そして今回は「少年の望みは叶ったからね」と教えてくれました。

ただ、こういうことは僕にしか起こらないと思うので(笑)皆さんの場合は「ワンオラクルスプレッド」という1枚のカードで占う方法でされるといいでしょう。

シャッフルしたカードから1枚抜くだけの、シンプルな占い方法です。今日の運勢を占う時などに適しています。

僕は「ライダー/ウエイト版」というカードを使っています。これは一般的なもので、また数札にもわかりやすい絵が入っているので、インスピレーションが湧きやすいです。

意味は深くわからなくても、絵札を見て「楽しそうだな」とか「ちょっと悲しそうだな」と直感で感じたら、それがそのまま占いの結果となります。僕はインスピレーション力を養う練習に使っています。是非独り占いでやってみて下さい。

本当は、僕みたいにカードの方から現れてくれたら、もっとわかりやすいんですけどね(^^;)


では、また次のお話でお会いしましょう!(^^)

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