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天使を占う(占)

風間は、乱立しているビルを見上げながら歩いていた。


「こんだけ高いビルをいっぱい建たせて、地面がめくれ上がらないのが不思議だよなぁ…」


風間はそう呟きながら歩いている。実は風間がこの東京に住むようになったのは、ごく最近だ。それまでは、いわゆる田舎と言われる、人里少ないところに住んでいた。


「お、またここにもビルが建つのか。」


風間は工事中のかなり高いビルの骨組みを見上げて言った。

ざっと見ても、20階はあるだろう。

その時、胸元に何か感じた。


「んー?今度はなんだー?」


風間はそう言うと、胸元のポケットから、カードを取り出した。


タワー!?アクシデントか!」


そう思わず叫んで、風間は再び上空を見上げた。

すると、半袖の黒Tシャツに黒のスリムジーパンという出で立ちの男がビルの上から落ちて来たのが見えた。

カードの絵柄も、塔から男が落ちていく様子が描かれている。


「!?」


風間がその男に片手をかざし止めようとした瞬間、男は猫のように身体をひとひねりし、風間の真ん前に片膝をついて降り立った。


「!!」


風間はその男をただ驚いて見た。男は片膝をついたまま、ニヤリと笑った。


「スパイダーマン?生の?」


風間がそう呟くと、男は立ち上がって、突然風間の腰に手を回した。


「ホモのスパイダーマン!?」


風間のその言葉に男は吹き出したが、「道連れ!」といきなり言い、風間を片腕で抱いたまま飛び上がった。


「!?!?ホモの道連れ!?」

「ホモから離れろー!」


風間の真面目な叫びに、男も真面目にそう返しながら、空を切って飛んでいる。


やがて風間は男と共に、ビルの最上階の骨組みに降りた。


「わー!僕、高所恐怖症なんだって!」


風間が細い骨組みの上で、強い風にあおられながら叫んだ。


「あれ、やっつけて!」


風間を道連れにした男が、空を指して言った。


「え?…!!」


風間は、宙に浮かぶ人間のような形をした悪魔を見て言った。


「プアデビルか!」

「プアデビル?」


悪魔と男が同時に風間に言った。


「名前もつけてもらえない、可哀相な悪魔の総称」


風間がそう言うと、男が吹き出し、悪魔は顔を真っ赤にして、怒りの表情を見せた。


「馬鹿にするな!」


悪魔が風間に指を向けた時、風間は「祓い陣!」と叫んで、両手を前に差し伸ばし円を形作った。風間と悪魔の間に、小さな幾何学模様のようなものが入った魔法陣が現れた。


「!!」


悪魔はそのまま体を硬直させた。


「後は頼んだよ!俺は雑魚をやってくる!」


男はそう叫んで、姿を消した。

目には見えないが、すぐそばの異界に下級悪魔がたかっている。


風間が両手を真横に広げると、その魔法陣は大きく広がり光を放った。

悪魔が動きを止めたまま、目を見開いて言った。


「…その陣…まさかあいつの最後の弟子!?」

「ご明察。」


風間はにやりと笑ってそう答えると、額に人差し指を当て叫んだ。


「封印の渦!」


「封印」と聞いて悪魔は少しほっとした顔をした。魔法陣が廻り始め渦となった。


「礼徳の名のもとに祓え!」


額に指を当てたまま風間が叫ぶと、悪魔は声もあげずに、陣の渦に飲まれるようにして消えた。

風間が指を下ろすと、後ろで拍手の音がした。さっきの男だった。


「さすが、礼徳さんのお弟子さん。お見事!」

「どなたかは知りませんが、ただ働きはきついですよー…」


風間が男に振り返りながらそう言うと、男は笑って「ちゃんと報酬は払うよ。」と言った。


「えっほんと!?」


風間が思わずそう言ったとたん、足を踏み外した。


「あら?」


風間はそんな気の抜けるような言葉を残して、ビルから落ちた。

男は笑いながら、骨組みにぶつかりながら落ちて行く風間を追って、頭を下に向け飛び降りた。


……


風間は目を覚ました。

ふと辺りを見渡すと、きれいな部屋の中にいた。自分はソファーに寝かされているようだ。


「お、目を覚ましたな。」


風間は驚いて、声のした方を見た。

さっきのスパイダーマンが、向かいのソファーに座り、自分を微笑んで見ている。


「あれ?僕…体あちこちぶつけて…」


風間は起き上がりながら、自分の体を見た。痛みも痣も残っていない。


「俺が治しておいた。いきなり道連れにして悪かったね。」

「あの…あなたは?」


風間が体を起こしながらそう尋ねると、男はテーブル越しに手を差し出して言った。


「浅野俊介だ。よろしく。」

「よろしく…。」


風間はそう答えてから、ふと思い出して言った。


「師匠のことを知っているようですが…浅野…さんて何者なんですか?」


風間がそう尋ねると、浅野が「魔術師だよ。」と答えた。


「魔術師?祓い師じゃなくて?」

「時にはそういうこともするが、本業は人を楽しませる「マジシャン」だ。」

「そうなんですか…」


風間は世界的に有名なイリュージョニストを目の前にしていることに気づいていない。この数年間、社会から遮断された田舎に住んでいたからだ。

浅野が少し表情を暗くして言った。


「礼徳さんとは、悪魔祓い師として有名な人だというくらいで面識はないんだが…亡くなり方が気の毒でね。…奥さまも気の毒な事をされたね…」

「…はい…」


風間はうなだれた。風間の師である「礼徳」の妻は、幼いころから性質の悪い悪魔に魅入られ、憑かれていた。元々幼馴染だった礼徳は、その悪魔を祓うために「悪魔祓い」の修業を始め、弟子が取れるまでに精進した。…だが、結局2人とも、その悪魔に勝てず死んでしまったのだった。

浅野が言った。


「君は礼徳さんが亡くなる1か月前に、弟子になったんだそうだね。」

「ええ…。早くに弟子になっていれば…もっと技を教えてもらえたのに…」

「だが、陣がもらえたから良かったじゃないか。」

「はぁ…それだけが救いです。」

「あの「礼徳の元に祓え」と言うのは、君が考えたのかい?」


風間は頬を赤らめて答えた。


「はい。…悪魔達に師匠のことを忘れさせないよう、そう言うことにしたんです。…師匠を死なせた悪魔には、まだ僕は戦うことすらできないけど…。でも師匠の名を呼んでいれば、いつか向こうから戦いを挑んでくるでしょう。…その時までに力を付けておきたいと思っています。」

「……」


浅野は、不安げな表情で風間を見つめている。

その時、キッチンから1人の青年が、コーヒーの入ったカップを乗せた盆を持って現れた。


「!!」


風間は全く気配を感じていなかったため驚いた。


「どうぞ。」


キッチンから現れた青年は、風間の前にコーヒーカップを置いて言った。浅野よりも若いようだ。


「あ、ありがとうございます。」


風間は頭を下げた。青年は微笑みながら、浅野の前にもカップを置いた。


「サンキュー、圭一君。」


浅野がそう言ってから、風間に「彼、知らない?」と、青年を指さしながら言った。


「え?…いえ…知りませんが…」


風間は少し動揺しながら答えた。浅野が青年を見ながら言った。


「そうか。日本では有名なアイドルなんだけどなぁ。」

「えっ!?アイドルっ!?」


風間は浅野の隣に座った青年に頭を下げながら言った。


「す、すいません。僕、ずっとテレビとかないところで生活してたもので…」


青年は微笑んで首を振った。浅野が言った。


「君は修行中だったからな。」

「ええ…。3年程、ド田舎で修行してたもので…」


風間がそう答えると、青年は不思議そうな表情をして浅野を見た。


「彼は悪魔祓いの専門家だよ。有名な悪魔祓い師のお弟子さんでね。」

「!そうなんですか!すごい!」


浅野の言葉に青年は目を見開いてそう言い、風間を見た。風間は顔を赤くしてうつむいた。


「すごいのは師匠で、僕はまだまだ…。」

「またまたご謙遜をー…」


浅野がそうコーヒーをひと口飲んで言った。


「確か圭一君と同い年なんじゃないかな?…修行明けということは、20歳を過ぎたところだよね?」

「え、ええ。」

「じゃぁ、僕と同じだ!北条きたじょう圭一です。よろしく!」


青年はそう言うと風間に手を差し出した。風間は照れくさそうにその手を握って言った。


「風間祐士です。」


浅野はそんな2人をにこにこしながら見て言った。


「ザリアベルが君の所に来ただろう?」

「!?」


風間は驚いて、浅野を見た。


「はっはい!」


圭一という青年も驚いた目で浅野を見ている。風間は動揺しながら言った。


「どうしてそれを…。」

「ザリアベルが君を褒めてたんだ。占い、当たったってさ。」

「そ、そうですか。…浅野さんとザリアベルさんって…どういうご関係なんですか?」

「ザリアベルと僕は「恋人」同士だそうだね。」

「!?」


圭一が一層目を見開いて浅野を見た。風間は驚きながら言った。


「アルシェって…あなたですか?」


浅野がにこりと笑ってうなずいた。

それと同時に、浅野の背に大きな白い羽が生え、髪が伸び銀髪となった。顔も優しそうな浅野の顔から、目つきの鋭い精悍な顔に変わった。


「!!」


風間が驚いていると、天使に姿を変えた浅野が手を差し出した。


「天使のアルシェだ。よろしく。」

「こっこちらこそ!」


風間は目を見張ったまま浅野アルシェの手を握った。


「で、俺もさ。占ってもらおうと思って。」

「えっ!?」


風間が驚いて言った。圭一がアルシェに向いて言った。


「占いって?」

「彼はサイドビジネスで「タロット占い師」をしているんだ。ザリアベルが早速、彼のところで占ってもらったらしいよ。」

「そうなんですか。ザリアベルさんらしいような、らしくないような…。」


圭一がくすくすと笑いながら言った。アルシェも笑っている。風間が言った。


「あの…アルシェさんが占って欲しいというのは…?」


アルシェは表情を硬くして「ん…」とためらってから言った。


「俺とザリアベルがいつまで「恋人」でいられるのか占って欲しい。」

「!?」


圭一がとたんに笑顔を消した。風間も驚いてアルシェを見た。


「いつまで…というのが難しければ、俺たちに別れの日が来るのかどうか…でもいい。」

「アルシェ…」


圭一がアルシェの腕を取り、「どうしてそんなこと…」と呟くように言った。アルシェは風間を見つめたまま言った。


「…ザリアベルは、天使の俺と組んで罪人を裁いていることで、魔界でかなり問題視されているようなんだ。悪魔が魔界を追い出されると、どうなるのか天使の俺にはわからないが…最悪、ザリアベルは「消滅」してしまうかもしれない…。…俺たちが天界から追い出される時は「堕天」と言って、魔界に落ちてまだ存在することはできる。…だが、悪魔はそれ以上堕ちるところはない…。」

「……」


圭一がうつむいて悲しそうな表情をした。風間も真剣な表情でアルシェの憂いに帯びた目を見た。


「…ザリアベルは消滅を恐れていないようだが…彼が俺と組んでいるせいで本当に消滅してしまうのなら…俺は「訣別」を選ぶだろう。」

「……」

「その訣別の為に戦う日が来るかもしれない…とも思ってる。…ザリアベルの存在を守るために…。」

「!…」

「いつか…というのはわからなくていいが、俺とザリアベルが…どうなるのか占って欲しい。」


風間は眉をしかめて考え込んでいたが、心を決めたように顔を上げて言った。


「わかりました。…ただ、僕は占い師としてもまだ駆け出しです。どういう結果が出ても、あまり真剣に捉えないでください。」

「…わかったよ。」


風間はそう答えたアルシェにうなずくと、上着のポケットからタロットカードを取り出した。

フルセット78枚…。責任重大だな…と風間は思った。


……


アルシェにカードをシャッフルしてもらった後、風間はそのカードをまとめた。そして「どっちの向きにしますか?」と尋ねた。カードの正逆が違うと全く意味が違ってくる。


「そのままの向きでいい。」


アルシェが真剣な表情で言った。風間がうなずいた。

圭一は風間の手に持ったカードを見つめていたが、やがて立ち上がった。


「圭一君?」


アルシェが圭一を見上げて言った。


「僕…結果を知りたくないので、浅野さんの部屋で待ってます。」


圭一のその言葉に、アルシェはふと微笑んだ。


「…ん…ごめんよ。」

「いえ…」


圭一は風間に頭を下げると、リビングを出て行った。風間はカードを手に持ったまましばらく動けなかった。


「風間君、いいよ。始めて。」


アルシェに促され、風間はうなずいた。そして上から7枚目のカードをテーブルの中央に表向きに置いた。

ボロの服をまとった男が、幅の狭い崖の上に片足だけで立ち、嬉しそうに空を見上げている。肩に小さな袋をぶら下げた棒をかつぎ、今にも空に飛び上がろうとしているようだ。その男の足元の犬が、忠告するように吠えている。


「愚者…正位置アップライト…」


風間はそう呟いたが、はっと顔を上げて浅野に言った。


「先に全てをスプレッドします。それから読みますので。」


アルシェは「愚者」のカードを見つめながらうなずいた。

風間はまた上から7枚目を引き、1枚目のカードに十字になるように表向きに重ねた。


「金貨の9…リバース…」


風間はそう呟いてから、同じことを繰り返しながら、順番にカードをスプレッドしていった。


「ケルト十字スプレッド」と呼ばれる形ができあがった。10枚のカードを使って占う方法である。

風間は最後のカードを見て、一瞬眉をしかめた。アルシェはその風間の瞬間的な苦悩の表情を見逃さなかったが、何も言わなかった。


風間はざっとカードを見渡した。


1(現状)「愚者」正

2(障害)「金貨9」逆

3(顕在意識)「聖杯5」正

4(潜在意識)「棒7」逆

5(過去)「棒8」正

6(未来)「剣ナイト」逆

7(立場(アルシェ側))「金貨クイーン」正

8(周囲…ここでは敵)「金貨3」逆

9(変化)「聖杯10」逆

10(最終結果)「棒1」逆


風間は大きくため息をつくと、少し明るい声を上げた。


「ざっと見た感じ、絵札が少ないですね。数字のついた札がほとんどです。」

「…それに意味があるのか?」


アルシェがそう呟くように言った。


「ええ…。この中で絵札と言われるものは3枚しかありません。それもその中で、大アルカナのカードが1枚しかないところを見ると、あまり気にしなくていいということです。カード自身がとまどっているのかもしれません。」


風間がそう言うと、アルシェは目を見開いて顔を上げた。


「絵札だけ意味を教えましょう。1番目は「愚者」というカードですが、この場所はアルシェさんの現状を表しています。その名の通り、あなた方は周りには理解しがたい…ある人から見れば「とんでもない」ことをしている。」


風間のその言葉に、アルシェは自嘲するように笑った。


「そうだな。天使と悪魔が組む自体が「Foolish(愚か)」なことだよな。」

「僕は愚かだとは思いませんけど…。」


風間は微笑みながらそう言うと、6枚目の「剣ナイト」のカードを指さして続けた。


「御覧の通り、ナイト(騎士)が剣を持ち、駆ける馬に乗っているという颯爽としたイメージの絵札です。…ですが、残念ながら逆位置に出ている。」

「……」


アルシェは黙って「剣ナイト」のカードを見つめている。


「このカードは正位置で出ていれば「勇敢」と捉えられますが、逆位置になると「軽率」という意味になります。」

「!!」


アルシェは顔を上げて、風間を見た。風間はため息をつきながら、カードに向いて言った。


「それもこの6番目の位置は「未来」を表します。…何らかの無意味ともいえる戦いが起こる事が予測されます。」

「……」


アルシェは目に手を当てた。しばらくそうしていたが、その手を外して「それで?」と言った。


「そして、このあなたの立場を表す位置に「金貨のクイーン」が出ています。この…金貨を大事そうに抱いたクイーンの表情を良く見て下さい。少し悲しげに見えませんか?」


アルシェはそう風間に言われてカードを見た。そして眉をしかめてうなずいた。風間が言った。


「これはあなたが今の状況に満足はしているものの、不安も感じているという意味を表します。」


アルシェは苦笑するように笑って「確かにその通りだな」と呟いた。風間は続けた。


「あなた方は情熱を持っているにもかかわらず、かなりの迷いも感じながら戦っている様子がうかがえます。ただ、敵は大したことはない。戦い自体はあなた方の方がずっと有利です。それはザリアベルさんの占いにも出ました。」


アルシェは、風間が指を乗せた8番目のカード(金貨3・逆位置)を見たままうなずいた。


「そして最終結果を現すカードですが…これも数札のカードなので、意味はかなり弱い。…だからあまり気にすることはないでしょう。私は結果をだすのはまだ早いとカードが告げているのを感じます。それよりも、今は悩まずに頑張れ…と告げたいがために数札だらけになったのだと私は見ています。」


風間のその言葉にアルシェは顔を上げた。そして微笑んでから言った。


「…で?…最後のカードの意味はなんだ?」


風間はそのアルシェの目を見ながら口を開いた。


……


「圭一くーん!終わったよー!」


アルシェから人間形に戻った浅野が、ドアをノックしながら言った。隣には風間が立っている。


「圭一君?入っていいか?」


返事がない。浅野は風間と顔を見合わせてから、そっとドアを開いた。

圭一はベッドに寝ていた。それも頭から布団をかぶっている。


「圭一君。寝ちゃったのかい?」


浅野がそう言って布団を下げると、驚いたように体を上げた。

圭一が嗚咽を漏らしながら、涙を流していた。

圭一はさっと起き上がると、また布団を被って体を落とした。


「…圭一君。…大丈夫なんだ。ザリアベルとは縁が切れたりしないよ。」


浅野がそう言うと、圭一は布団を大きく下げて、浅野を見上げた。

浅野は笑って、風間を見た。風間が微笑んで圭一の赤い目を見ながら言った。


「浅野さんの考えすぎです。先の事は本人たちの気持ち次第でどうにでも変わってしまう…。」

「!…そんな結果だったんですか?」

「ええ。」


驚いている圭一に、風間が頭を掻きながら言った。


「何分、新人なもので、はっきりとした結果が出なかったんですよ。」

「…そう…そうですか…」


圭一は嬉しそうにそう言い体を上げた。そして目を指で拭いながら言った。


「あ、あの、今度は紅茶を入れますよ!ザリアベルさんが好きな「レディグレイ」という紅茶なんです!」


浅野が嬉しそうにした。


「おお、いいねぇ。頼むよ。」

「はい!」


浅野と風間は、慌てるように部屋を出て行った圭一を見送りながら、微笑み合った。


(終)


……


カード「棒1(エース)」逆位置の意味


「破滅」「終焉」


正位置ならば「すべての始まり」を表す。


では気を取り直して、最後にインチキ…いえ、新人占い師の「風間祐士」が、今回の占いについてご説明しましょう!


最後に出た「棒1」のように、タロット占いでは、カードの正逆によって全く意味が違ってきます。恐ろしいですね。

だから、僕は「ケルト十字スプレッド」で占う場合は、ご本人にカードの向きはどちらにするか聞くようにしています。これもご本人のインスピレーションが大事で、僕が選ぶものじゃないと思っています。


また今回の占いで「絵札」と「数札」の比率が問題になりましたね。絵札とは「大アルカナ(22枚)」と「小アルカナのコートカード(16枚)」を指します。コートカードとは、トランプでいう「キング」や「クイーン」のようなものです。タロットカードでは「キング」「クイーン」「ナイト」「ペイジ」の4種類あります。

聞き慣れないのは「ペイジ」ですね。このペイジはまだ未熟な少年少女を指します。「ナイト」の見習いとも言われますし「プリンセス」とも呼ばれることがあります。絵柄では、少年の姿で書かれているのがほとんどです。

カードには力関係があります。1番強いのが大アルカナ、2番目に強いのが小アルカナのコートカード、最後に強い(?)のは、棒、聖杯、剣、金貨の4つのスートからなる「数札」となります。

ですので、あまりに数札が多い場合は、カードがとまどっていると思っていいと思います。普通同じ占いは2度としない方がいいのですが、数札が多かった場合は、日を改めてもう1回してみるといいでしょう。


そして…実は、今回アルシェに説明できなかったカードがあります。

それは、9番目の変化を表すカード「聖杯10(逆)」です。このカードは「友情の破たん」を表します。…さすがにこれは口に出せませんでした。絵札の説明だけにしたのはそのためです。

でも今回の占いは、僕が思うに、アルシェがザリアベルを想うがゆえに起こされる結果だと見ています。

例えば、この占いをそのまま読んでみると、アルシェはザリアベルの消滅を阻止するために、無意味ともいえる戦いをザリアベルに挑み(剣ナイト(逆))、救いを求めていない(つまり消滅を恐れない)ザリアベルがそれに反発するために友情が壊れ(聖杯10(逆))、破滅に向かう(棒1(逆))という予測になります。

ですが、これは今の段階での予測にすぎません。アルシェがこの占いの結果を知る事によって、ザリアベルに無意味な戦いを挑まなければ「友情の破たん」も「破滅」も起こらないわけですから。

占いとはこの程度のものなんです。僕が圭一君に安心させるために言ったように「先の事は本人たちの気持ち次第でどうにでも変わってしまう」んです。だから占いの結果は、あくまでもカードからの「忠告」だと思って下さいね。


では、また次のお話でお会いしましょう!(^^)

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