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<番外編>藍(あお)い月

口の悪い天使「レイチェル」と正義の悪魔「ザリアベル」の出会いのお話です。

「なんだ?あの月の色?」


妻と海辺を歩いていた男が空を見上げた途端、そんな声を上げた。妻は「え?」と自分も空を見上げた。

2人は新婚旅行で、この島に来ていた。


「…青いね…何か気持ち悪い…。それもやたら大きいし…。」


その妻の言葉に、男は黙ってうなずいた。

青いというよりは「あい」色に近い。何かの不吉を予言しているかのような色だ。


……


「おおお、今回も綺麗な月の色じゃの」


大天使アークエンジェル「レイチェル」は、大きな鷲のような白い羽を広げ、海の遥か上に浮かびながら言った。杖を肩にかついでいる。

姿は青年なのだが、実は、御年おんとし「1万5千32歳」である。(どこかで聞いたような年齢だが)

そのレイチェルがふと下を見ると、1人の黒ずくめの男が沖に浮かんでいる「ブイ」に器用に立っている。


「ん?ありゃ人間か?」


レイチェルはそう呟くと、


「おーい!そなたも月を見とるのかー?」


と、こちらに背を向けて立っている男に叫んだ。

男は振り返り、空に浮かんでいるレイチェルを見ると、驚いた表情をした。

その男の両目の下には2本の長短の傷があり、頭には「バッドマン」のような黒い角がとがっていた。


「うわっ!こっちもびっくり!」


レイチェルはそう言い、男の立っている隣のブイにゆっくりと下りた。


「そなたは、大悪魔アークデビルの「ザリアベル」じゃな?」


レイチェルのその言葉に、男は一層目を見開いた。


「…何故、俺を知っている?」

「わし、そなたを悪魔にした魔王と友達なの。」

「あのバカ魔王と友達?」


ザリアベルという男は眉をしかめ、レイチェルの体をまじまじと見た。


「…どう見ても、お前は天使にしか見えんが。」

「うん。わし、天使。」


レイチェルはそう言うと、にこにこと笑った。


「レイチェルじゃ。よろしくね。」


ザリアベルは眉をしかめたまま、会釈をした。


その時、遠い海岸の方から、年の入った男の声が響いてきた。

2人は思わず、声のする方に顔を向けた。


『神よー!!怒りを鎮めたまえーーーっ!』


その声を聞いたレイチェルは「ちっ」と舌打ちをした。ザリアベルが、その天使らしからぬ態度に苦笑している。


「また、始まった。150年ごとに、いちいち面倒くさいのぉ。」

「どういう意味だ?」


ザリアベルが、レイチェルの呟きにそう尋ねた。レイチェルは答える代わりに、両手を広げ肩をすくめて見せた。


……


「神よーーーっ!怒りを鎮めたまえーっ!!生贄いけにえの元に、怒りを鎮めたまえーーーーっ!!」


レイチェルとザリアベルは、そう叫ぶ男に向かって飛んだ。この2人(?)の姿は、一般の人間からは見えない。


「祈祷師の格好をしているが、偽物じゃの。わしら、見えてないもん。」


レイチェルが、男を見下ろしながら言った。


「…!…レイチェル…あれを見ろ。」


ザリアベルが、海岸から少し離れた森の方を見て言った。


「あれが、生贄じゃないか?」


レイチェルは、ザリアベルの見ている方を見、2度目の舌打ちをした。

白い布で目隠しされ体を縛られた若い女性が、武装した男たちに担ぎ上げられ、悲鳴を上げている。その後ろからは目隠しをされた若い男性が、こちらも同じように縛られ、男たちに担ぎ上げられている。


「やめろーっ!妻を放せーーーっ!!」


若い男性は必死にそう叫ぶが、男たちは暴れる男を落とすことなく、黙ったまま担いでいる。


「ほんっとに、学習しない奴らじゃの。」


レイチェルはそう言い、3度目の舌打ちをした。ザリアベルが、下を見たまま言った。


「だから、どういう意味なんだ?」

「150年前もそうだったんじゃ。今日みたいな藍い月が輝く日に、島によそ者が来ると神が怒るっていう言い伝えがあっての。…で、まじで300年前に、島が沈みかけたことがあったんじゃ。」

「沈みかけた?」

「そう。でも、それはただの「自然災害」じゃ。月が藍い日に、大きな台風が島を襲っての。それまでは、台風なんて来なかったものだから、大騒ぎになったんじゃ。…その時、運の悪いことに、若い男女が浜に打ち上げられての。台風で倒れた船から投げ出されて、この島に流れ着いただけだったんじゃが…」


ザリアベルは、先を読んで目を伏せた。レイチェルが続けた。


「その時も、にせ祈祷師が「この2人が島に入ったせいで神様がお怒りになった」と言っての。そのまま息のあるのも構わず、2人に重石をつけて海に沈めてしまったんじゃ。」

「何故、助けなかった?」


ザリアベルの目が紅くなっている。この男の怒りの表情に、レイチェルはため息をつき、小さく首を振った。


地球ここだけでも、どれだけの人が、助けを求めていると思う?ザリアベル。」


ザリアベルの目が見開かれた。レイチェルは、その目が青く戻ったのを見ながら言った。


「今みたいに、150年ごとに同じことが起こるというのがわかっていれば、我々も人間ひとを助けることができる。…だが、突然起こる天変地異には、わしらにもなんともできんのじゃ。人間達が起こす、戦争でもそうじゃ。…神は全知全能じゃと言われているが、そうではない。わしら天使も、何でもできるわけじゃない。」


ザリアベルは、何も言わずにレイチェルから目をそらせた。レイチェルは、海岸に目を向けた。


「おっと、ちんたら説明してる場合じゃないな。」


レイチェルはそう呟くと、ザリアベルに向いて「手伝ってくれる?」と言った。


「え?」


ザリアベルは、目を見開いた。


……


--レイチェルが、ちんたら長い説明をしている間、海岸では…


「やめろーーーーーっ!!妻を放せーーーっ!!!」


目隠しをされた男は、妻の悲鳴が一層大きくなったのを感じて叫んだ。潮騒の音から、かなり海に近いことを感じている。


「生贄は、女からだ。可哀そうだが、あきらめろ。」


男を押さえつけている島民の1人が、震える声で言った。

女性を担いだ男性たちが、カヌーの形をした舟に女性を入れた。そして、自分たちも乗り込んだ。女性を沖まで運び、海に投げ捨てるつもりなのだ。

女性の悲鳴が、少しずつ遠ざかっていく。


「やめろーーーーーっ!!!」


男が叫び続けているが、船は無情にも沖へ向かっていく。

男は「ちくしょうっ!」と叫んでから、泣き出した。


「神が…神が人の命を奪うわけがないだろうっ!!お前ら狂ってるぞっ!!」

「その通りだ。」


その静かな男の声に、島民たちは驚いて振り返った。黒ずくめの男が立っている。両目の下には2本の傷。そして目は紅く、頭には黒い角が突き出ている。


「!!!悪魔っ!!??」

「それも、その通り。」


島民たちの声にそう答えると、男は黒い大きな羽を広げた。


「名はザリアベルだ。覚えておくんだな。」


突然強い風が、祈祷師と島民たちを海へ吹き飛ばした。だが縛られている男は、何故かその場にとどまっている。ザリアベルは、その男の目隠しをはずし、縄を解き放した。男は目を見開いて、ザリアベルを見た。


「悪…魔…?」

「まあな。」

「!!妻がっ!!」


男は、海に向かって駆け出した。


「心配するな。天使が助けに行っている。」


そのザリアベルの言葉に、男は驚いた表情をザリアベルに向けた。


……


カヌーは、沖に向かっている。


「…おい…本当にいいのか?…本当にやるのか?」


カヌーを漕ぎながら、島民の1人が言った。縛られている女性は悲鳴を上げる力もなく、ただ泣きじゃくっている。もう1人の島民が震える声で答えた。


「やらなきゃ、島が沈むんだろう?…何百年か前にも同じことがあったって、酋長がいうんだから…。」

「…そうだな…やるしかないか…」

「ここらへんにしよう。」


島民たちは、櫓を止めた。


「恨まんでくれ。月が藍くなる日に、島に来たお前たちが間違ってたんだ。」


泣きじゃくっている女性にそう言うと、島民たちは女性の体の下に手を差し込んだ。

その時、突然大きな天使レイチェルが、カヌーの前に立ちふさがった。


「この、すかたんちんがーっ!!!」

「ぅわーーーっ!!」


島民たちが驚いた姿を見て、レイチェルが嬉しそうに言った。


「これが、ほんとの「だい」天使!!なんつってっ!!」


その言葉に、島民たちは目をしばたかせた。


……


「だからね。この島だけに起こる「自然現象」なのよ。」


レイチェルは、海岸に正座している祈祷師と、島民たちに言った。

助けられた女性は、まだ泣きじゃくっている。その女性を、夫がやさしく抱きしめていた。

レイチェルは、そんな夫婦の様子に目を細めながら話を続けた。


「150年に1回、この島にだけ、月が大きくなって藍く見えるようになるの。なんでそうなるのかは、自分たちで調べなさい。…って、わし、150年前にも誰かに言ったんだけどね。もう死んどるわな。」


レイチェルの少し後ろに立っているザリアベルが、苦笑している。


「だからね、150年後に同じことが起きないように、何かに書いて残しときなさいよっ!!って、150年前にも誰かに…あーっ!もういいやっ!!わかりましたねっ!?」


祈祷師と島民たちが「はいっ!!!」と体を縮ませた。


「それから…えらい目に合って大変だったの。そち達。」


レイチェルは柔和な表情で、夫婦に言った。妻をなだめていた夫が、顔を上げてレイチェルに向いた。


「本当にありがとうございました。天使様。」

「わしだけじゃない。助けたのは、この悪魔様もじゃ。」


レイチェルが、ザリアベルに向いていった。ザリアベルは、不意を突かれたように目を見開いている。


「ありがとうございました、悪魔…」

「ザリアベルだ。」


ザリアベルが、夫の声を遮るように言った。


「あ、はい。ザリアベル様。」

「ありがとうございました。」


妻が、やっと小さな声で言った。レイチェルが微笑んで言った。


「ご主人の愛は本物じゃ。ずっと「妻だけは助けてくれ」って、叫んでおったぞ。」

「…はい…聞こえてました。」


妻が小さな声で言った。夫は顔を赤くした。レイチェルが、うなずいて言った。


「末永く、幸せにの。」

「はい!!」


レイチェルは、満足そうに何度もうなずいている。そしてザリアベルは、姿を消していた。


……


「おーーーい!ザリアベルーーーーっ!!」


レイチェルが、大きな白い羽を広げて海の上を飛びながら、姿の見えないザリアベルに叫んでいる。


「また、会おうねーーーーっ!!今度は、天界まで遊びにおいでーーーーっ!!わしが魔王に頼んで、天界に来られる力をあげるからねーーーーーっ!!!」


するとレイチェルの耳に、ザリアベルの声が響いた。


「わかったから、大声をだすなっ!!!恥ずかしいっ!!」


レイチェルは声を上げて笑いながら、藍い月に向かうように海の上を飛び続けた。


(終)

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