サンタさんからのプレゼント
12月-
「相澤プロダクション」の近くにある幼稚園で、クリスマスパーティーが催されていた。今は、天使アルシェの人間形「浅野俊介」が、マジックを子供たちに披露している。
そこには、北条圭一と風間祐士も、浅野のアシスタントとして出席していた。…だが、風間の表情は少し暗い。圭一は、その事を気にしながらも、浅野のマジックを楽しんでいる子供たちを見ていた。
…一通りのマジックが終わった後、浅野が手を広げて言った。
「さぁ、お待ちかねのサンタさんの登場です!」
子供たちが、嬉しそうに声を上げた。中には立ち上がる子もいて、保母に座るように窘められた。
ドアが開き、赤い服を着たサンタクロースが現れた。口には白いひげが蓄えられている。
「サンタさんっ!!」
子供たちが口々に言った。圭一はそんな子供たちを見、微笑んで目を細めたが、風間は目を反らした。
サンタクロースは、浅野に勧められるまま椅子に座った。
「はい、みんな1列に並んで!サンタさんから、プレゼントをもらいましょうねー!」
保母のその言葉に、子どもたちは1列に並んだ。
風間が圭一に「ちょっと気分が悪いので、風に当たってきます。」と言った。圭一は目を見開いて「わかりました」と答えた。風間は黙って、サンタクロースの横を抜け、部屋を出て言った。
サンタクロースはそんな風間をちらと見たが、すぐに手を差しだしている子供に向き、両手でプレゼントを渡した。
「サンタさん、ありがとう!」
「メリークリスマス」
サンタクロースはそう言いながら、子供の頭を撫でた。そして再び、風間が出て行ったドアに振り返った。
……
風間はベランダに立ち、柵に手を乗せて空を見上げていた。
子供の頃を思い出している。
…風間が育った施設でも、毎年クリスマスパーティーが行われた。
今日と同じように、クリスマスにはサンタクロースが必ず訪れて、1人1人に…何もわからない赤ん坊にまで、赤い箱に入ったプレゼントをくれた。箱の中には、いつも小さなお菓子が詰められているだけだった。
風間は何も言わずに受け取っていたが、心の中では(こんなものいらない)と思っていた。
…本当はもっと欲しいものがあった。だが、サンタクロースに言う勇気がなかった。
『プレゼントはいらないから、パパとママに会わせてください。』
だが、サンタクロースに言わないのだから、叶うわけもなかった。
…そして今、父母に会える可能性がない事を知ってしまった風間は、もう何の希望も持てなくなっていた。礼徳の敵討ちをする事すら、馬鹿らしく思えてきた。
(師匠も茜さんも消されてしまったんだ…きっと…)
風間はそう思った。もしそうなら、敵討ちをしたところでどうなるわけでもない…。
「風間さん、大丈夫ですか?」
風間はその声に、はっとして振り返った。圭一が心配そうな顔で風間を見ている。風間は再び前に向き、うつむきながら言った。
「…すいません。…ちょっと最近具合が悪くて…。」
「風邪ですか?…それなら、中に入らなくっちゃ。よけいにひどくなりますよ。」
「…ええ…」
風間は圭一に腕を取られ、施設の中に入った。…だが、そのまま立ち止まった。
「風間さん?」
圭一が、風間の顔を覗き込んだ。風間はうつむいたまま言った。
「…すいません。浅野さんのマジックも終わったので…僕、帰ります。」
「…え!?…あ、じゃぁ車を出しますよ。」
「いえ…圭一さんは、まだ子供たちと歌を歌う約束があるじゃないですか。…タクシーで帰りますから。」
「……」
何も言えずにいる圭一に、風間は小さく頭を下げて立ち去ろうとした。
…その時、子供の叫ぶような声がした。圭一と風間は顔を見合わせ、パーティー会場のドアを開いて飛び込んだ。
……
「サンタさんは、いないんだよ!」
独りの子供が、サンタクロースに向かって、そう叫んでいた。サンタクロースは、目を見張ってその子供を見ている。
「サンタさんなんか、本当はいないんだ!!」
「よう君っ!何を言ってるの!?」
保母の1人が、その子供の手を取って言った。傍にいた浅野は、どうすればいいのかわからず、ただ立ちつくしている。圭一と風間も、ただ黙ってその場に固まっていた。
「この人は嘘つきだっ!本当はサンタさんなんかじゃない!」
その子供の目が一瞬赤く光ったのを見て、浅野はぎくりとした。
(悪魔が乗り遷っているのか!!)
そう思ったが、相手が子供だけに手を出せなかった。
「よう君!これはサンタさんなのよ!本当のサンタさんなの!」
保母が必死に子供に言った。…その時、サンタが頭を抱えた。
「サンタ殿!」
浅野は思わず、サンタクロースに駆け寄り、肩に手を乗せてしゃがみこんだ。
「…Kadota…(消える)」
サンタクロースが、苦しげな声で言った。
「…Oma olemassaolo…katoaa…(わしの存在が消える)」
「サンタ殿!」
サンタクロースの姿が薄れて来ていた。(子供に乗り遷っている悪魔の力で消されかけているのだろう…)と浅野は思った。
浅野はサンタクロースの肩を強く掴み、オーラを強めた。だが、サンタクロースが薄れていくのを止めることはできなかった。
子供たちが、そのサンタクロースの姿を見て騒ぎ出した。突然、独りの女児が泣き出した。そして、それにつられるように、他の子供たちも泣き出した。
…その時、圭一の歌声が響いた。「聖しこの夜」を日本語で歌っている。
すると、苦しそうにうめいているサンタクロースの姿が、元に戻り始めた。
「よしっ!圭一君、そのまま歌い続けて!!」
浅野が、サンタクロースの肩を掴み直して叫ぶように言った。
圭一はうなずいて、歌詞を繰り返し歌った。その時、泣いていた子供たちが、圭一と一緒に歌い始めた。
今日のパーティーのために、一生懸命練習した歌だ。
圭一は、前にいる子供たちの肩に手を乗せ、微笑みながら歌った。子供たちは、サンタクロースが助かるように、必死に声を張り上げて歌っている。
サンタクロースの姿が、はっきりとしたものになった。その時、赤かった子供の目が元に戻り、目を開いたままあお向けに倒れかけたところを、保母が抱きとめた。
その傍に男の姿をした悪魔が姿を現した。胸をかきむしりながら、うずくまっている。子供たちは驚く事なく、悪魔に向かって歌い続けた。
悪魔は、呻きながら呟いた。
「…くそ…このガキども…」
「Ala itku lapsia?(子供たちを泣かせたな?)」
悪魔は、その声に顔を上げた。サンタクロースが、目の前に立っている。
「!!」
「Ne, jotka huutavat lapset, en anteeksi.(子供たちを泣かせる者は、私が赦さない)」
サンタクロースの目が、赤く変化した。子供たちは何も気づかない様子で必死に歌い続けている。
「だめだ!」
その風間の声に、サンタクロースは驚いて顔を上げた。風間は、両手を前に差し出しながら言った。
「サンタさんが手を下しちゃだめだ!みんなの夢が壊れます!」
「!!」
サンタクロースの目が、元に戻った。
「お任せする。」
風間は、そのサンタクロースの声にうなずいて叫んだ。
「祓い陣!!」
風間の前に、球体の陣が現れた。
「封印の渦!!」
陣が渦を巻き始め、炎のように燃え上がり膨らんだ。風間は一旦陣を引きよせた。
「礼徳の名の元に…祓え!!」
風間がそう言いながら、陣を悪魔にぶつけた。炎に包まれた悪魔は声を上げ、炎と共に消えた。
風間は、その場に座り込んだ。浅野と圭一が、風間に駆け寄った。
子供たちは声を上げて、サンタクロースに抱きついた。サンタクロースは「ありがとうありがとう」と言いながら、子供たち、独り独りの頭を撫でた。
「みんな、お兄ちゃんにありがとうは?」
サンタクロースがそう言いながら、風間に微笑んだ。風間は圭一に支えられながら、立ち上がった。
「お兄ちゃん、ありがとう!!」
子供たちはサンタクロースから離れ、風間に駆け寄った。風間は子供たちの勢いに負けて、その場にひっくり返ってしまった。子供たちの笑い声が響いた。
「あー…俺の出番なし。」
浅野が苦笑しながらそう言うと、圭一が浅野の背中を叩いて笑った。
……
その夜、風間は暗い家の中で膝を立てて座り、窓の外の煌々と輝く星を見上げていた。
「今年のクリスマスは、雪も降りそうにないな。」
風間は、ぽつりと呟いた。
その時、胸ポケットからがさっという音がした。風間は、ふとポケットに指を入れ、現れたカードを取り出してみた。
「…審判…正位置…?」
その時、風間の耳に鈴の音が小さく聞こえた。
風間は思わず窓の外を見た。
遠く空に、数体のトナカイに引かれて走るそりが見えた。そのそりには、幼稚園に来たサンタと同じ赤い服を着、赤い帽子をかぶった男が乗っている。
「!…サンタさん!」
風間は思わず立ち上がっていた。そして、ガラス戸を開いてベランダに出た。トナカイ達がそんな風間に気づき、こちらに向かって降りてきた。
「!!」
風間は、ただ立ちすくんでいた。そりが、風間に向かって近づいて来ている。
トナカイたちが風間の前を通り過ぎ、サンタクロースの乗ったそりが現れた。…が、通り過ぎてしまった。風間は、慌ててベランダから身を乗り出した。
すると、サンタクロースの「ohi,ohi.(行き過ぎ行き過ぎ)」という声と共に、ゆっくりとバックして戻ってきた。
「!!」
「すまんすまん。」
驚く風間に、そりに乗ったサンタクロースが微笑んで言った。
「今日は、ありがとう。」
サンタクロースが言った。
「!…えっ…いえ…そんな…!」
「えーっと、風間祐士君だったね。」
分厚い紙束をめくりながら、サンタクロースが言った。
「君の欲しいプレゼントは…えっと…ん?「いらない」?」
風間は黙り込んだ。確かに「いらない」と思っていた。
「『その代わりに、いなくなった両親に会いたい』…か…」
「!」
サンタクロースはじっと、風間の目を見つめた。風間はその鋭い目に動けなくなってしまった…。
……
「祐ちゃん!こっちこっち!」
「こっちだ、祐士!」
両親の声がする。だが、風間には姿が見えなかった。
「ママ!パパ!どこ!?どこなんだよ!」
「こっちよ!ほら、ここにいるの!」
母親の声が遠ざかっていく。風間は必死にあたりを見渡していた。
その時、後ろから手を掴まれた。風間は振り向く間もなく、その手に引っ張られるように空へと飛んだ。
「!!」
白馬に乗った「剣のナイト」が、風間の手を引いていた。風間は引っ張られるまま、空を翔る白馬の背に乗せられた。ナイトの後ろだ。
「!?…師匠?」
銀の鎧に身を包んだナイトが、頭を風間に向けた。目だけが面の隙間から見えている。そしてその目は、微笑んでいるように見えた。
「祐士」
「師匠!?どうして…」
「我々は消滅などしていない。…見えないだけなんだ。君のお父さんもお母さんも君の傍にいる。」
「!?」
「傍にいる。いつも。…だから、悲しみに目をくらますな。」
ナイトはそう言い、前を向いた。
……
「風間さんっ!」
その声に、風間は、はっと目を覚ました。圭一と浅野の顔が見えた。
「どうしたんですかっ!こんなところで!」
圭一の顔を見上げて、風間は思わずあたりを見渡した。
ベランダで座り込んだまま、寝てしまっていたようである。
「…サンタさんが…」
「?サンタさん?…それよりも、ほら、中に入って!」
「はい」
圭一に体を起こされ、風間は部屋に入りながら言った。
「サンタさんが、僕にプレゼントをくれた夢を見ました。」
「え?」
「…両親には会えなかったけど…でも、素敵なプレゼント…でした。」
「???」
後ろにいる浅野が微笑んだ。何かを知っている微笑みだった。
……
「サンタクロース殿」
天使「アルシェ」(=浅野)は、空を翔るそりと一緒に飛びながら言った。「サンタクロース」はアルシェに向いた。
「Mita?(なんじゃ?)」
「風間君のご両親は…どこにいるのでしょうか?」
「Eiko nay sinulle.(おぬしにも見えんのか)」
サンタクロースはそう言って、あきれたような表情をした。
……
「審判」正位置の意味
復活、救済。逆位置は「復活できない消滅」となる。
……
挿入歌「聖しこの夜」
日本語詞:由木康
……
では最後に、占い師兼悪魔祓い師の「風間祐士」が「サンタクロース」(以後「サンタさん」と呼びます)について説明します。サンタさんは「奇蹟者」という称号をもつ「聖人」です。つまり「実在」するんですね。
天使「アルシェ」によると、サンタさんは「大天使様より、ずっと上級の天使」なのだそうです。
このお話で、アルシェは「悪魔に消されかけた」と思ったようですが、僕の術で封印できるような悪魔に、サンタさんのような上級の天使が消されるわけないんです。
では、どうして消えそうになったのか…。それは「サンタさんなんていない」という子供の気持ちが強かったからなんです。悪魔に乗り遷られたのも、そのためでしょう。これからは、その子もきっと「サンタさん」の存在を信じてくれると思います。
そして、サンタさんは大人の僕にもプレゼントをくれました。今は師匠も両親も傍にいてくれていると信じて「悪魔祓い師」として精進しようと思っています。
ではまた、次のお話でお会いしましょうー(^^)