時間戦士は永遠の夢を見るのか・番外編「裸足の帰路」
※継続して「時間戦士は永遠の夢を見るのか・番外編」を読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。暫く前になりますが、おかげ様で、時間戦士シリーズのトータルPVが3000を超えました。心から感謝申し上げます。
これは「時間戦士は永遠の夢を見るのか」本編の第10話「余剰次元の牙」の二番目の「* * *」の部分に挿入される内容になります(番外編「じゃないわよ」よりも後)。未来から来た女性タイムトラベラーであるアミカナは、自身がアンドロイドであることを隠して、大学生の志音と行動を共にしています。本編では描き切れなかった、互いに惹かれていく二人の心の触れ合いやすれ違いを描いています。本編未読でも、少しは楽しんで頂ける……ことを願っています。
<金曜日>
アミカナは下駄の音を鳴らしながら、緩やかな坂道を上っていた。が、その音は、小気味いいリズムという訳には行かなかった。息をついて立ち止まる。もう何回目だろう。分かっていながら、目を閉じると設定変更メニューを確認する。足先の痛みを無効にするコマンドは――やはりなかった。足の指をゆっくりと動かす。
……痛過ぎる……
ふと周りを見渡す。人影はない。
……もういいや……
彼女は下駄を脱ぐと、夕刊を脇に抱えて、一つずつ手に持った。戯れに、赤い鼻緒を親指と人差し指の間に通す。足裏に、アスファルトのざらつきと微かな熱が伝わってくる。浴衣越しに夕刊の厚みをはっきりと感じて、一瞬、それが体温や汗で萎れることを危惧したが、すぐに彼女は苦笑した。体温も汗もないんだった……
アトロポスもボディスーツも、旅館に置いてきた。今、彼女が未来から持ってきたものは、自分の体以外ない。その体に浴衣を纏い、下駄を履いて――今は手に持っているが――旅館への坂道を歩いている。大きめの側溝には温泉交じりの水が流れ、微かな湯気を漂わせた水音が、絶えず聞こえている。その向こうの植え込みには、赤や紫の花が散りばめられていた。この辺り一帯には、三千本ものサツキが植えられているのだという。こんな光景は、転送前は全く想定していなかった。一体、私は今どこにいるのだろう? 全てが新鮮で、全てが違和感の塊だった。
図らずも浴衣を着ることができて、正直テンションが上がったことは否定しない。下駄も最初はそうだった。思い返すと、浴衣に初めて袖を通した時に、志音と妙な会話をしたような気がする。微かな羞恥を感じて、アミカナは小さく頭を振った。着てみて思うのは……何というか……下着のままで外を歩いているような感覚……。風を間近に感じるのだ。コンビニで支払う時も、店員の目が気になった。この世界の人は、そんな風には感じないのだろうか? 昼間の窓の一件でも、志音にはだけた太腿を見られた。それはまあいいとして、このそわそわする感じは、嬉しさではなく、心許なさなのかも知れない。アトロポスの不在が、その感覚に輪をかけていた。今、私を守るものは何一つない。裸で異国に置き去られたような感じだ。
突然、大きな音が鳴り響いて、驚いたアミカナは身構えた。
……空襲警報?!……
しかし、ゆっくりとのどかなメロディを披露しながら、音は周囲へと拡散していった。人々が飛び出してくるような気配はない。辺りを見回して、鉄柱の上に、発信源と思われるスピーカーを見つける。アミカナは眉を顰めた。
……え、時報か何か?……
日は西に傾き、山の端が輪郭を強めつつあった。鳥の群れが、黄色味を帯びる空を背景に飛んでいく。彼女はゆっくりと息をついた。そう、一体、私は今どこにいるのだろう?……
今朝の浜辺で、巣穴から引き出した蟹を思い出す。帰るところか……
……志音、体調治ったかな?……
アミカナは裸足のまま歩き出した。
お読み頂きましてありがとうございます。「時間戦士は永遠の夢を見るのか・番外編」については、今後も不定期に更新していきたいと思っております。お時間のある時にのぞいて頂けると幸いです。




