未知への扉
無名だった発明家が起こした奇跡的な偶然から生み出されたタイムマシンが、ついに実用化された。そして常識の範囲の対価と少々の勇気さえあれば、だれでも安全に未来へ跳ぶことができるようになった。
まずは未知の治療法を求めて難病患者たち、次にさらなる長寿の可能性にすがった一部の高齢者たち、そしてまだ見ぬ知識や技術を夢見て研究者や技術者たちがこぞって未来へと向かった。
かくいう私も研究者の端くれとして、今より格段に進歩しているであろう新たな知識を得る誘惑には逆らえず、勇躍して未来へと向かった。
ところがいざ未来へたどり着いてみると、元の時代と比べてまったく進歩が感じられない。むしろ退化したといわれた方がまだ合点がいきそうだ。
これはまさか時間移動に失敗して過去に来てしまったとでもいうのだろうか。ひとまず状況を確認するべく、過去でも未来でも変わらずそこにありそうな、職場かつ母校でもある某国立大学へと向かった。
応対してくれたのは事務職員の男だった。私のような来訪者が多いのだろうか、男はうんざりした顔で、それでも丁寧に説明してくれた。
「ここはあなたの時代から見て、間違いなく未来に当たります。なのにあまり技術が進歩していないように見えて不思議でしょう? ところであなたのような研究者や技術者が、それはもう大挙して過去からやってきたんです。うちの大学の当時の教授陣も大半がそうしたと聞いています。そうするとどうなると思いますか?」
男は肩をすくめてお手上げのポーズをとりながら、呆れたように吐き捨てた。
「その時代の知識や技術を開発し発展させるはずの人たちが皆いなくなり、次世代の卵である学生たちを導く教育者までいなくなったのです。ならば時間とともに進歩どころか衰退するのは当然の帰結というものでしょう?」




