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Refrain  作者: るるる
18/64

18_35代目の勇者と、姫君の話(前編)


 洞窟で大量の新鮮なフルーツとドライフルーツを手に入れてから数日後。彼の生まれ故郷の村を出てから1週間と少し振りに、ふたりは進路上にある村――文明の香りがする場所へ、立ち寄った。彼の村に比べると随分大きな村に、エルは「前来た時はもっと小さい村だったんだけどなあ。」と意外そうに呟いた。彼は怖いもの見たさで、「…前っていつ?」と問いかける。「……200年くらい前?」エルが指を折りながら数えた後、途方もない時間を口にしたものだから、彼はもちろんのこと彼の愛馬までもが目を丸くした。エルはそんな彼と彼の愛馬とに苦笑してから、そうだと声を上げた。これだけ大きい村なら、と口にしながら村の店先に掲げられた看板を見る。そのうちの『素材屋』と書かれた看板の店の前に馬車を停めると、荷台から先日のキラースネークの鱗を半分取り出した。

 何をするのだろうと首を傾げる彼を促し、エルは素材屋へと足を踏み入れた。そして弟子の目の前で、熟練の技――これが100年モノのキラースネークの鱗であること、仕留めたのはまだ年若い彼であることを店主に大々的にアピールした。そんな表情も出来るのかと彼が思わず驚いてしまうくらいに表情豊かに、それでいてよく回る口でいかに苦労したかを語るエルに店主は分かった分かったと白旗を上げ、相場の1.2倍の値段で買い取ってくれたのだった。


「どうだい?我が弟子。100年モノのキラースネークは高値がついたろう?」

「はい!…苦労して解体した甲斐がありました…。」

「そうだろう、そうだろう。」

 

 エルは満足そうに硬貨の入った袋を眺める。彼も並んで歩きながら、エルの手の中のそれを眺める。――普段からヤギの面倒を見つつ畑の手入れをしていたとはいえ、彼にとって金を稼ぐということはどこか遠い世界の話のような気がしていた。というのもヤギチーズも農作物も、いつも王都のバザーに合わせて売りに行くのは父親の役目だったからだ。彼は家を守りつつ、ただ父親が品物を硬貨に変えてくるのを待っているだけだった。

 けれど、ここでは違った。彼が自分でも金を稼げることを、エルは証明した。「次からはあんなふうに、自分で交渉するんだよ?」エルはそう告げると彼女の手の中の硬貨の入った袋を、彼に渡した。渡された彼は、再び目を丸くした。


「……え?でも、トドメは師匠が…。」

「あいつ、キミの一撃でほとんど死んでたよ。」

「……でも…。」

「あー、……なら祝い金。わたしからキミに、旅立ちの祝い金ってことにしよう。それならいいだろう?」

「…………はい。ありがとうございます、師匠。」

「ん。」


 エルは頭を下げた彼に軽く答える。それから、ふさふさのその頭を何度かよしよしと撫でてやった。次いで「よく考えて使うんだよ。」と歳上らしい言葉を口にした。彼はいつものように元気よく返事をしようとした。が、村に居た頃から食べ物にお金を使いすぎているエル――とはいえ、村のお年寄りなんかは信仰心が厚い人が多くて、よくエルにお供え物と称して食べ物を渡していた――に気が付くと、頭を上げてじとりとした目を彼女に向けた。


「…と言いつつ、師匠はいっつも何か食べてるよね?それは『よく考えて使う』に入るの?」

「…………わたしはいいの。」

「いや、良くないよね?てか、師匠の食費で旅の資金が圧迫されたら嫌なんですけど!?破産とかしないよね?!」


 耳元でギャンギャン騒ぐ彼に、エルは心底困った様子で頭を搔く。すれ違う人々がなんだなんだと視線を向けてくる。エルはそれにため息をついてから半ば諦めたように、腰のポーチからパンパンに詰まった自身の財布を取り出した。彼は中を見ずとも、彼の故郷の村なら一生遊んで暮らせるくらいには詰まっているであろうエルの財布を目にすると思わず黙った。それから、不信感の篭った目を向けた。


「……師匠。まさかそれ、悪いことをして得たお金じゃないですよね…?」

「…………キミの目にわたしはどう映ってるんだ……。」


 エルは思わず頭を抱えると嘆く。が、それも一瞬で、すぐにいつもの調子で「ああ、鬼に悪魔にクソババアか。」とつい先日彼が口にしたばかりの単語を並べると、したり顔で笑った。今度は彼が頭を抱える番になった。エルはその様子にけらけらと笑うと、彼氏の頭にぽんと手を置いた。そして優しく、けれど力いっぱいにわしゃわしゃと撫で回すと胸を張った。


「キミの村に行く前――10年くらいかな。王都で家庭教師をしてたんだ。給料とは別に衣食住も提供されてたから、お金、余ってるんだ。」

「……え、何その仕事。めちゃくちゃいいじゃん。紹介してよ、師匠。おれ、勇者終わったあとその仕事する。」

「いいわけないし紹介するわけないだろ。」


 エルは彼のなんとも前向き、もとい深く考えずに発されたであろう言葉に眉を顰める。それから「言っとくけどね。わたしの仕事――家庭教師はね、教え子がかなり特殊なの。」と付け加えた。彼は心の中で(いや、師匠も特殊では?)と突っ込みながらも、そんな規格外の特殊な人が口を酸っぱくして特殊だと言う人物とははて、一体どんな人なのだろうと首を傾げる。次いで「おとぎ話に出てくる伝説の海賊の子孫とかだったら燃えるなあ!」なんて言葉を紡いだ彼に、エルは「そっちの方が気が楽だよ。」と何度目かも分からないため息をついた。彼はその言葉にただでさえキラキラと輝いていた瞳を更に輝かせると、期待に満ちた目をエルに向けた。エルはそんな彼の顔を左手でむぎゅうと押し返す。


「そんな目で見るなって。」

「ええ〜、いいじゃん!教えてよ、師匠!!」

「……はあ。元を辿れば、こうなったのもキミのせいなんだぞ?」


 エルはそう告げると重い口を開く。「35代目のキミが、よりにもよって姫様と結婚なんてするのが悪い。嫌でも王家との繋がりが出来たじゃないか。」そう悪態をつきながらも昔のことを語るエルは、どこか嬉しそうで。彼は硬貨の入った袋を懐にしまうと、歩幅を合わせてエルの隣に並んだ。

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