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Refrain  作者: るるる
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01_7代目の勇者の話(前編)


「なあ、エル。エルがいちばん馬鹿だなあと思った勇者って、何代目?」


 大陸の端、のどかな牧畜の村。のどかな代わりに人口よりもヤギやらヒツジやらの方が多いこの村で、まだ年若い少年にエルと呼ばれた少女――エーデルガルトはちょうどお昼にヤギチーズとレタスとトマトがたっぷり入ったサンドウィッチに齧り付こうとしているところだった。少年の生まれ故郷であり、今現在彼女が身を寄せるこの村特産の、濃厚なヤギチーズと新鮮な野菜たち。王都に持っていけばそれだけで一攫千金、もとい人気商品なそれらを惜しむことなくふんだんに使ったサンドウィッチは、エルの大好物だった。

 加えてエルは村の誰もが認める大食漢、もとい健啖家であった。その小さく細い身体のどこに入るのだと、つい声に出してはエルに睨まれる人が後を絶たないくらいに、彼女は大食らいだった。そして何より、エル自身も食事の時間を楽しみにしていた。だからこそ、と言うべきだろうか。エルは今まさにサンドウィッチに齧り付こうとしていたその瞬間を邪魔されると、少しばかり眉間に皺を寄せた。……が、そこは大人の余裕というものだろう。行儀良く、かつ上品にサンドウィッチを齧ろうとしていた手を止めると、付着したパンくずを軽く叩いて払ってからテーブルに頬杖をついた。それから、少しだけ難しそうな顔の中に不満気な色を滲ませると、目の前の少年へこう告げた。


「エルじゃなくて師匠だ、我が弟子。」

「ご、ごめんごめん。……で、師匠が今までいちばん馬鹿だなあと思った勇者って、何代目?」

「そうだな、……馬鹿ばっかりなのは確かだが、いちばんと言われると少し困ってしまうね。」


 歴代の弟子たち──勇者と呼ばれるに至った彼らの顔と旅路とを思い出しながら、エルはバスケットに盛られたリンゴを手に取った。続けて果物ナイフを手に取ると、慣れた手つきで剥き始めた。窓から吹き込む柔らかな風の音とリンゴを向く優しい音だけが、のどかな牧畜の村の一軒家の食卓テーブルに響く。

 少年は、こういう時は彼女を急かしては却って逆効果だということを、身を以て知っていた。だから急かしたい気持ちを抑える代わりに、少し減っていた彼女のティーカップにハーブティーを注いで待つ。それから、剥き終わったリンゴを乗せるための皿を持ってくる。最後に、何を考えているのかよく分からないエルの顔をじいっと見つめながら、先程まで彼女がそうしていたように頬杖をついた。


「……多分、7代目かな?」


 リンゴをひとつと半分剥き終わったところで、エルがぽつりと呟いた。少年はエルに「なんで?」と問い掛ける。エルはその問いかけに歴代の勇者の顔と、互いに負けず劣らず強烈な旅路と数々のエピソードとを思い出しながら苦笑すると、残り半分のリンゴを剥き終えた。

 ひとりひとつずつ──と見せかけて、ちゃっかり自分の皿にひと切れ多く乗せると、エルは7代目の勇者について語るよりも先に、あらためてサンドウィッチにかぶりついた。なんともまあ、脈絡のない行動だろう。けれど素直とも言えるエルのその行動に、少年はなるほど、もう我慢出来ないわけかと苦笑する。それから、悪いことをしたなとも感じた。とはいえ、こうして食事を摂りながら他愛のない話をするのが嫌いではない少年もまた、自分の分のサンドウィッチに手を伸ばすと口を大きく開けてかぶりついた。心地よい静寂の中、互いの咀嚼音だけが室内に響き渡る。


「――あれはね。彼と旅を初めて、半年くらい過ぎた頃だったかな。」


 あっという間にひと切れ平らげたエルは、ハーブティで喉を潤すと徐に口を開いた。少年は唐突に始まったエルの昔語りに慌てて口の中のサンドウィッチを飲み込むと、胸を叩いてそれを胃へと落とす。エルは「落ち着きなよ。」と言いながらもリンゴにフォークを刺すと、それを口元へ運びながら語り出した。


「わたしたちは旅の道中、とある村に立ち寄ったんだ。そこで──。」


 少年はハーブティを一気飲みすると、エルの語りに耳を澄ませる。窓の外からは、ヤギの呑気な鳴き声が聞こえてきた。

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