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家出魔王は勇者に選ばれました——人類側の最終兵器が聖女だった  作者: LightWell


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第4話 「内緒じゃ」

次の街に着いた。


まりっぺが街門を通った。


正確には、街門をくぐろうとして、上部の石組みに肩が当たって、石が二個落ちた。


「あらあら」


「謝れ」


「気のせいですわ」


「石が落ちてるが」


門番が青い顔で石を拾っていた。



飯屋に入った。


テーブルに座る。


チトが「何にしますか」と言う前に、メニューを眺めていた。


ガレットが「なにがいいかなーー」とゆっくり言った。


まりっぺが「あらあら、美味しそうですわね」と微笑んだ。



平和だ。


今日は、平和だ。



そのとき。


視界の端に、見覚えのある横顔が映った。



黒いマント。


整った顔立ち。


貴族めいた所作。



魔王軍幹部だ。



(……ヴァルドか)



思わず目が合った。



「あれ?」



ヴァルドが瞬きした。



「魔王様?」



マオは即座に口を動かした。


声は出さない。



(ニゲロ、ニゲロ)



ヴァルドが口パクを読んだ。


しばらく考えた。



(……ん?見せろ見せろ?)



ヴァルドがすっと立ち上がった。


マントを翻した。



「かしこまりました、ではここは華麗に――」



(バカシヌゾ)



その瞬間。


まりっぺが振り返った。


にこりと微笑んだ。



「あらあら、ごきげんよう」



ヴァルドが固まった。


一秒。


二秒。



「…………"殺戮天使"」



扉が勢いよく開いた。


ヴァルドが消えた。



チトが耳をぺたりと倒した。


「……知り合いですか」


「昔の職場の部下だ」


「逃げましたね」


「賢いな」



まりっぺが首を傾げた。


「あらあら、どちらへ」


「どこか遠いところへ」



路地裏。



ヴァルドは壁に背中をつけて、息を整えた。



いた。


本物だった。


しかも、笑っていた。



(あの歩いた後には雑草すら生えないという殺戮天使が……)



拳を握る。



(魔王様が、拿捕されている)



ヴァルドは空を見上げた。


青い空だった。


のどかな空だった。



(お助けしなければ)



でも足が動かなかった。



あの目が、頭から離れない。


悪意のない目だった。


穏やかな目だった。


それが一番怖かった。



怒っているなら逃げられる。


殺気があるなら備えられる。


しかしあの微笑みには、何も通じない気がした。



ヴァルドは息を吐いた。


長い息だった。



一人では無理だ。


部隊が要る。



立ち上がった。


マントを整えた。


誰にも見られていないのに、きちんと整えた。



魔王城に戻らなければならない。



魔王城。



セバスが扉を開けた。


モノクルの奥の目が、わずかに細くなった。



「……お帰りなさいませ、ヴァルド様。して、マオ様は」


「殺戮天使に拿捕されている」



沈黙が落ちた。



「……拿捕」


「拿捕だ」



セバスがモノクルをそっと外した。


丁寧に、ゆっくりと、拭いた。


戻した。


また外した。


また拭いた。



「……セバス」


「少々お待ちください」



三度目を拭き終えて、セバスが顔を上げた。


「……そうでございますか」


「そうだ」


「マオ様が、殺戮天使に」


「拿捕されている」


「自ら飛び込まれたのでは」


「否定できないのが辛いところだ」



セバスがため息をついた。


先代から積み上げてきたような、深いため息だった。



編成会議。



テーブルを囲む面々をヴァルドが見回した。


そこに、幼女のサキュバスが座っていた。



足が床に届いていない。



「……なぜいる」


「魔王様が見つかったのじゃろ?」


ヴァルドが少し止まった。


「ああ、そうだ」


「では妾も行く」


「なぜ」


「言いたいことがあるのじゃ、魔王様に」



ヴァルドが眉を上げた。


「……何を」



幼女のサキュバスが、少し間を置いた。



「内緒じゃ」



ヴァルドが天を仰いだ。


セバスがモノクルを拭いた。

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