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家出魔王は勇者に選ばれました——人類側の最終兵器が聖女だった  作者: LightWell


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第3話 「あらあら、たくさんですわね」

宿屋に泊まった。


まりっぺが壁を三箇所しか破壊しなかったので、今日は平和な一日だったと思う。


たぶん。



翌朝。


階段を降りたら、一階に大男が立っていた。



ぬぼーっと。



特に何をするでもなく。


入口の前で。


ただ、立っている。



宿の主人が困り果てた顔でこちらを見た。


目が「なんとかしてくれ」と言っている。



(知らんけど)



近づいた。



「……お前、何してる」


「あーっと」



大男がゆっくりこちらを向いた。


でかい。改めてでかい。だいたい三メートルほどある。頭一つ分どころか三つ分以上、余裕で超えてくる。



「ここにー、勇者がいるって聞いてー」


「俺だが」


「あーそうなんだー」



間があった。


長い間だった。



「ぼくもー、神託受けてー」


「うん」


「行けって大司教に言われてー」


「うん」


「来たー」



マオは大男を見上げた。


でかい。とにかくでかい。



「……神託の内容は?」


「えーとー」



大男が首を傾げる。ゆっくりと。



「勇者のー、盾になれーって」


「うん、でかいもんな、邪魔だよな」



(もう全部飲み込めた)



大司教め。


また厄介払いか。



「名前は」


「ガレットー」


「そうか、ガレット。俺はマオだ」


「マオ様ーー」



語尾が間延びしている。


直す気力がなかった。



そのとき階段から足音がした。



まりっぺが降りてきた。


にこりと微笑んで、ガレットを見上げる。



「あらあら、大きい方ですわね」


「あーうん、でかいってよく言われるー」



まりっぺがじっとガレットを見ている。


何かを値踏みするような目だ。



(やめろ)



「あらあら」



(やめろ)



「丈夫そうですわね」



(絶対やめろ)



ガレットが首を傾げた。


「なんかー、すごいひとだなーって感じがするー」


「あらあら、わかりますか?」


「うんー、なんかー、空気が違うー」



まりっぺが嬉しそうに微笑んだ。


ガレットは特に怖がっていない。



(こいつ、鈍いのか、それとも)



「ガレット、一ついいか」


「なにー?」


「こいつが何かしようとしたら、全力で俺に知らせろ」


「えーなんでー?」


「いいから」


「わかったーー」



間延びした返事だった。


信用していいのかわからない。



宿を出た。


次の街まで、半日ほどの道のりらしい。



チトが地図を広げた。


「街道沿いに行けば迷いません。狙って迷子にならなければ」


「迷子にはならないよーー」


「本当ですか」


「……たぶんー」


「たぶんか」



マオは空を見た。


今日のところ神様は来ていない。


平和だ。



聖剣がチリチリと熱い。


平和ではない。



街道を一刻ほど歩いたところで、声が聞こえた。



怒鳴り声。


それから、馬のいななき。



角を曲がると、街道の真ん中に馬車が止まっていた。


荷馬車だ。御者台に老人が一人、青い顔をして固まっている。



馬車を取り囲んでいるのは、武装した男たちが六人。


山賊だ。



(面倒くさい)



マオは足を止めた。


チトが耳を伏せる。


ガレットがぬぼーっと状況を眺めている。



そしてまりっぺが。



「あらあら」



(待て)



一歩前に出た。



(待て待て待て)



「困っている方がいますわね」



(止まれ)



「まりっぺ」


「はい?」


「俺が話をつけてくる。お前はそこにいろ」


「でも勇者様、六人もおりますわよ?」


「大丈夫だ」



山賊の一人がこちらを見て、嘲笑った。


「あん?なんだお前ら、助けに来たのか。勇者ごっこか」


「勇者ごっこじゃないんだが」



マオは一歩前に出た。


静かに、ただ静かに。



「荷物を置いて、消えろ」



声に、何かが乗った。


意図したわけじゃない。ただ、長年の習慣が出た。



山賊たちの顔色が変わった。


一人が、じりっと後退する。



(このまま終われば)



「なんだこいつ」


「なんか、やべえ」


「でもよ、六対一だぞ」



リーダー格らしい男が、剣を抜いた。


「ガキが一人で何できる、やっちまえ」



(終わらなかった)



山賊たちが動いた。


その瞬間。



「あらあら、たくさんですわね」



まりっぺが、動いた。


どこからともなくメイスが現れた。



(待て待て待て)



「まりっぺ」


「はい?」


「加減、できるか」


「もちろんですわ」



(嘘だ)



メイスが、薙いだ。



ごぉん、という音がした。


音としては、そういう音だった。



山賊が、飛んだ。


六人まとめて、綺麗に、飛んだ。



それだけではなかった。



街道脇の木が三本、根ごとへし折れた。


地面がずん、と沈んだ。


道路が陥没した。



そして。



商人の馬車が、吹き飛んだ。


綺麗な放物線を描いて。



「あらあら、少し力が入りすぎてしまいましたわ」



残ったのは、馬一頭。


繋いでいた馬車ごと吹き飛びそうになったところを、なんとか踏ん張ったらしい。



馬がこちらを見ていた。


助けを求める目ではない。


ただ、ドン引きしている目だった。



「お前だけが正気だな」



馬は答えなかった。


当然だ。



商人の老人が、へたり込んでいた。


助かったのか助からなかったのか、よくわからない顔をしている。



「た、助かりました……」


「馬車は吹き飛んだが」


「……荷物も一緒に」


「申し訳ない」



マオは頭を下げた。


まりっぺも頭を下げた。


「あらあら、ご無事で何よりですわ」


「馬車が」


「綺麗に飛びましたわね」


「褒めるな」



チトが耳をぺたりと倒したまま、小声で言った。


「……助けに来て馬車吹き飛ばしましたね」


「吹き飛ばしたな」


「山賊より被害大きくないですか」


「大きいな」



ガレットがのそりと歩いてきた。


「つよいひとだねーー」


「強いな」


「馬車ー、飛んだねーー」


「飛んだな」


「馬ー、ドン引きしてるねーー」


「してるな」



ガレットはぬぼーっと馬を眺めた。


それ以上は何も言わなかった。



後日。


商人への補償として、手持ちの金貨が飛んだ。



「全部飛んだ」


「馬車代、丁度よかったですわ」


「一文も残らなかったんだが」


「あらあら」



聖剣がチリチリと熱い。


財布の中身はゼロ。



マオはため息をついた。



気づけば。


無一文になっていた。

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