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家出魔王は勇者に選ばれました——人類側の最終兵器が聖女だった  作者: LightWell


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第11話 「どっちも解散」

その日は朝から不愉快だった。


朝からアレの声で一日が始まったからだ。



『はーいみなさーん、おっはようー』



マオは目を開けた。


空だった。青い空だった。



『朝から大切なお知らせです』


「……」


『ここから北に行った街で人間と魔族が争っています、止めに行ってください』


「お前が止めろ」


『えー無理だよ』


「なぜ」


『神様だから』


「理屈になってないが」


『よろしくー』



光が消えた。



マオはため息をついた。



チトが耳をぴんと立てたまま地図を広げた。「北ですね」


「北だ」



メルが毛布から目だけ出した。「朝から騒がしいのじゃ」


「同感だ」



ガレットが「いくのーー?」とゆっくり言った。


「行く」



まりっぺが微笑んだ。


マオはまりっぺを見なかった。


出発した。



北の街が見えてきたのは、昼前だった。


見えてきた、というより、聞こえてきた。


怒鳴り声。金属の音。馬のいななき。


近づいて、見えた。


すでに始まっていた。



街の正門前で、二つの軍が激突していた。


片方は街の守備兵。鎧を着た人間の兵士が三十人ほど。


もう片方は黒いマントの集団。



(……ヴァルドか)



馬上で剣を抜いて、部下に指示を出している。


魔王軍が二十名ほど。守備兵と剣を交えていた。



チトが耳をぴんと立てた。「……ヴァルド様ですね」


「そうだな」



マオは走った。


両軍の間に、飛び込んだ。



「やめろ」



声に、何かが乗った。


意図したわけじゃない。ただ、長年の習慣が出た。


動きが、一瞬止まった。



守備兵の隊長らしい男が怒鳴った。「そこをどけ、民間人が来る場所じゃ」


「勇者だが」



隊長が止まった。


ヴァルドが馬上で止まった。


目が合った。



(逃げるなよ)



口パクで言った。


ヴァルドが一瞬だけ迷った。


迷って、踏みとどまった。



「両方、剣を収めろ。話を——」



そのとき。


守備兵の一人が怒鳴った。


魔王軍の兵が怒鳴り返した。


隊長が剣を構え直した。


ヴァルドの部下が前に出た。



(まずい、また火がついた)



「待て」



間に合わなかった。



「あらあら」



まりっぺが前に出ていた。


メイスが、あった。



(やめ——)



ごぉん。


ドゴオオオオン。


白煙。


静寂。



城壁が、半分消えていた。


両軍が、固まっていた。


剣を持ったまま、誰も動かなかった。


動ける者がいなかった。



まりっぺがメイスをどこかへ仕舞った。



「あらあら、落ち着きましたわね」



守備兵の一人が、へたり込んだ。


魔王軍の兵の一人が、そっと後退した。


ヴァルドが馬上で目を閉じた。


深く、息を吐いた。



(知ってる、その顔)



マオも同じ気持ちだった。



城壁があった場所に、白煙だけが残っていた。


両軍の戦意は、煙と一緒に消えていた。



マオは隊長に向いた。



「話を聞く。何があった」



隊長が、まだ呆然としながら答えた。「……魔族が、子供を攫おうとしたんだ。見ていた者がいる」



マオはヴァルドに向いた。


ヴァルドが静かに言った。「誤解です。我が部下は迷子の子供を送り届けていただけです」


「嘘をつくな」


「嘘ではない」


「魔族が人間の子供を親切で送り届けるわけがないだろう」



ヴァルドの眉が、わずかに動いた。



マオは両方を見た。



(どちらも嘘をついていない顔だ)



「当事者の部下を呼べ」



後列から、犬獣人が前に出てきた。


大柄だが、目が丸くて穏やかだ。



「お前が子供を送り届けたのか」


「は、はい。街の外で泣いていたので、門まで連れてきました。それだけです」


「子供はどこだ」



隊長が少し止まった。「……門番が保護している」


「連れてこい」



しばらくして、門番に手を引かれた子供が出てきた。


五歳くらいの男の子だった。



マオがしゃがんだ。



「この人に会ったか」



犬獣人を指した。



男の子がこくりとうなずいた。「……おじさんが、おうちまで連れてってくれた」


「怖かったか」


男の子が首を振った。「ちょっとこわかったけど、やさしかった」



静寂が落ちた。



隊長が口を開いた。閉じた。また開いた。



「……しかし、魔族が」


「やさしかったって言ってるが」


「それは」


「偏見だろ」



隊長が黙った。


ヴァルドも黙った。


誰も何も言わなかった。



城壁が、なくなっていた。


街の人々が出てきた。


呆然と、城壁があった場所を見ていた。



街長らしい老人が、マオのところへ来た。


「……城壁が」


「申し訳ない」


「修繕費が」


「請求書を作ってくれ。宛名はマオ様で」



老人が不思議そうな顔をした。


それ以上は聞かなかった。



チトが小声で言った。「……また請求書が」


「増えたな」


「今度は城壁ですよ」


「知ってる」



ヴァルドが馬から降りた。


マオと向かい合った。


少し間があった。



「……マオ様」


「ヴァルド」


「ご無事で」


「お前もな」



ヴァルドが城壁の残骸を見た。「……殺戮天使は相変わらずで」


「相変わらずだ」


「マオ様は、お変わりなく」


「変わりない」



ヴァルドが少し声を落とした。「……セバスが心配しております」


「知ってる」


「請求書が届くたびに、モノクルを拭いております」


「知ってる」


「今月だけで」


「知ってる」



ヴァルドが口を閉じた。



マオは城壁の残骸を見た。


人間の兵士と魔王軍の兵士が、ばらばらに立っている。


どちらも、戦う気力は残っていなさそうだった。



(いい機会だ)



マオは両軍の前に出た。



「はい、どっちも解散解散」



全員が振り返った。



「争いの原因は誤解だった。魔王軍の兵士は子供を助けただけだ。以上」



隊長が何か言いかけた。


マオが続けた。



「城壁が吹き飛んだ。片付けが要る。どうせ戦意もないだろ、手伝え。両方」



沈黙が落ちた。


ヴァルドが少し目を細めた。


隊長が、ゆっくり剣を鞘に戻した。


魔王軍の兵士が、顔を見合わせた。


誰かが、がれきを拾い上げた。


それだけで、動き出した。



人間の兵士が、がれきを運んだ。


魔王軍の兵士が、石を積んだ。


ガレットが三メートルの体で、でかい石を軽々と運んだ。


チトが段取りを仕切った。


メルが邪魔な土を魔法で退けた。


ヴァルドが、整然と部下に指示を出した。



まりっぺが「あらあら、お手伝いしますわ」と言ったので、マオが「いい」と即答した。



作業が進んだ。


ぶつぶつ言いながら、それでも誰も手を止めなかった。



夕方になった。


城壁が、半分くらい戻っていた。



守備兵の隊長が、魔王軍の犬獣人に声をかけた。


何を言ったのかは聞こえなかった。


犬獣人が、ぺこりと頭を下げた。


隊長が、少しだけ頷いた。



それだけだった。


それだけで、十分だった。



ヴァルドが馬に乗った。


マオを見た。



「……また、来ます」


「来るな」


「参ります」


「来るな」



ヴァルドが少し、口元を動かした。


笑ったのか、どうか、判別がつかない動き方だった。



馬が向きを変えた。


魔王軍が、整然と引いていった。


守備兵も、街に戻っていった。



気づけば、マオたちだけが残っていた。



チトが尻尾を揺らした。「……なんとかなりましたね」


「なんとかなったな」


「城壁は半分ですが」


「半分は戻った」


「請求書が」


「増えたな」



ガレットが「みんなで、はこんだねーー」とゆっくり言った。


「そうだな」


「なかよくなったねーー」


「なったな」



メルが鼻を鳴らした。「……なし崩しじゃったな」


「それでいい」



まりっぺが微笑んだ。


「あらあら、うまくいきましたわね」


「うまくいったな」


「わたくしのおかげですわ」



マオはため息をついた。


否定できなかった。



城壁が半分消えたおかげで、誰も戦えなくなった。


戦えなくなったから、片付けた。


片付けたから、話した。


結果的には。



(結果的にはな)



聖剣がチリチリと熱い。


請求書がまた一枚、増えた。


空が、夕焼けで赤かった。



まあ、それだけでも。

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