怪盗"R"に盗まれた!
「こんばんわ、怪盗Rさん。」
「!」
表通りから一本入った道で、わたしは男の前に立ちふさがった。
男は真っ黒なレインコートのフードを目深にかぶり、こちらの様子をうかがっている。
「……なんのことかな、お嬢さん?」
「怪盗Rが姿を消したのはおおよそ3分前、表通りは消えた"R"を捜す人が集まっています。その人ごみを逆走している人がいれば嫌でも目立ちますよ。」
「……少し人ごみに酔ってね。これ以上気分が悪くなる前にここに逃げ込んだんだよ。」
「なるほど……。」
悪くない言い訳だね。
「じゃあ、これはどうでしょう。」
わたしは懐からスマホを取り出し、カメラを起動して男に向けた。
不躾でごめんなさいね。
男は慌てて顔を隠すがその必要は無い。なぜなら——。
「わたし、電子機器にはあんまり詳しくないですけど、すごい技術ですよね。これ。」
カメラに映る男の顔はモザイクがかかったようにぼやけている。こんなもの、一般人が日常的に使うような技術じゃない。
「……………………はぁ……。」
やがて、男は観念したように息を吐いた。
「君は一体、何者だ?」
鋭い声が私を突き刺してくる。ピリピリとした緊張感で喉が渇いてきた。
「………………ファ——。」
「ファ?」
「ファンでしゅ——!」
「………………。」
「………………。」
「「………………。」」
………………………………か、噛んだーーー!!
全ては、一通の予告状から始まった。
内容はとあるセレブの家にある絵画を盗むというもので、そのセレブは即警察に通報した。
予告状を調べたが犯人の痕跡は何も見つからなかったらしい。
で、予告された日の夜、彼は現れた。
漆黒のタキシードに魔法使いみたいな大きなつばあり帽、赤いパピヨンマスク。
マントをたなびかせて不敵に笑う彼は警備していた警官たちをすり抜け、まんまと目的の絵画を盗み出したのだ。絵画に掛けられた特殊なロックを解除して、だ。
それを嗅ぎつけたマスコミが怪盗の情報を公開。予告状の最後に書かれた"R’sN"から怪盗"R"と名付け、世間に認知されていった。
わたし—小森 美也子が怪盗Rに出会ったのはそれから数日後の事。
塾が終わって迎えを待っていた時に怪盗Rと遭遇したのだ。
宙を舞う彼(比喩ではない)と目が合った瞬間、わたしの体に電流が走る。
簡単に言えば一目惚れだった。
以来わたしは彼に関するあらゆる情報を調べ上げ、行ける範囲で現地に赴くファンになったってワケ。
——はい、回想終わり!
R様の前で盛大に噛んだあの夜からしばらくして、わたしは朝刊を抱えて登校した。
ちなみにあの後、話す間もなく普通に逃げられました。トホホ……。
「おはよう、美也子ちゃん。」
「はーちゃん、おはー。」
黒髪ボブヘアの女の子—大親友のはーちゃんが挨拶してくれる。朝から可愛い。
「それ、どうしたの?」
はーちゃんはくりくりした大きな目で私が机に広げた新聞を見ながら訊ねてくる。
「うん。昨日のR様の活躍に目を通そうかなって。」
どの朝刊も『怪盗"R"華麗なる犯行』の文字が一面を飾っていた。
「わざわざ買ったの?ネットで見ればいいのに。」
ちっちっち……わかってないね、はーちゃん。
「こうやって手元に残るからこそ、味わいがあるってものなんだよ。」
「あっ、お父さんのとこの新聞もある…………それで、本当はなんで?」
………………。
「推し活でお布施しすぎたのがお母さんにバレて、家族会議の結果ネットを制限されました。」
「あぁ…………。」
いい時代になったよね。ネットで同志のクリエイター様が作ったグッズを何でも買えるんだから。
……おかげでこっちは家族会議だよこんちくしょう。
はーちゃんが憐れみの目を向けてくる。こちらを蔑む顔もかわいい。
「だから散財には気を付けないとダメだよって言ったのに。」
「散財じゃなくてお・布・施!大体わたしのおこづかいなんだから何に使ったっていいじゃん!高校生にもなってペアレンタルコントロールって何?!ありえないよ~!!」
あんまりな事実に机に突っ伏すと、はーちゃんが頭を撫でてくれた。
おぉ天使よ……!
「…………フフッ。」
わたしが天使に祈っていると、隣から笑い声が上がる。
見ると、眼鏡の男の子が口元に手を当てて笑いをこらえていた。
「……ごめん、盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど。」
「いーよ、気にしないで。こっちこそ騒いじゃってごめんね、瀬名くん。」
「それこそ気にしないでいいよ。小森さんの声を聞いてると、なんだか元気が出るから。」
はぇ~、相変わらず返しがイケメンだなぁ……。
その鬱陶しそうな前髪を上げて眼鏡をとったら案外モテるかも。
「……小森さんって、本当に怪盗R 好きだよね。」
瀬名くんもわたしの机の上の新聞を眺めている。
なんだい、わたしにR様を語らせようってのかい?
「R様は華麗でカッコ良くて最高なのっ!言い回しもキザでそこがまたいい……!それに天才ハッカーで電脳の申し子でカメラを誤魔化すのが超得意で鮮やかな手腕で警察を翻弄して華麗に去って行く……!あぁ……最高に推せる!」
「そ、そう…………。」
「今まで近場で犯行予告があった時は全部会いに行ったんだけど間近で見るR様は最高に輝いててカッコ良くてでもやっぱりプロの方が撮る写真も最高なんだよねっ!これとかいい感じに撮れてると思わない?ここのカメラマンさんは絶対R様のファンだね!あとこっちのカメラマンさんは一見遠目で撮ってあってぼんやりしてるんだけどR様の全身が綺麗に収まってるからこれはこれでいいなってあと遠目なおかげでR様が着けてるモザイクデバイスの効果が甘いっぽくて顔の輪郭が他の写真より気持ちはっきり見えるんだよね!このことからあのデバイスの最大効果範囲はおおよそ10~20メートルくらいって予想できて——!」
キーンコーンカーンコーン——!
わたしの熱弁は予鈴によって遮られた。
瀬名くんはひきつった笑みを浮かべている。——やっちゃった!
助けて、はーちゃん!……ってあれ?はーちゃん?!はーちゃんがいない!
はーちゃんの席を見ると、そこには美しい姿勢で座るはーちゃんの姿が……。おい天使っ!
「……でも、Rは怪盗だよ?芸能人じゃなくて泥棒、犯罪者だ。」
「あん?」
やれやれ、これだけ語ってもわからないかね?
「R様はエンターテイナーだよ。わたしたちにはできないことをやってくれる。」
「財産を狙われる側はたまったものじゃないと思うけどね……。」
「それは——。」
そんな話をしていると、再びチャイムが鳴って先生が入ってきた。
——怪盗は犯罪者、そんなことは皆わかってるよ。
だからこそ、それをエンターテインメントとして堂々と行うR様にみんなが惹かれるんじゃん?
「進路希望かぁ……。」
朝のホームルームで渡されたプリントを眺めながら思わず呟く。
もうそんな時期かぁ……。どうしたもんかねぇ……。
今は推し活で精一杯だから、進路どころじゃないんだけどなぁ……。
「美也子ちゃん!」
「どしたの、はーちゃん?進路希望そんなに悩んでるの?」
わたしがぼんやり考えていると、はーちゃんが慌てた様子でやってきた。
はーちゃんは新聞記者のお父さんに続いて記者になるって言ってたような?
「そうじゃなくて!怪盗Rが予告状を出したって!」
「なんですとっ?!」
見せられたスマホの画面には、はーちゃんパパの新聞社の記事が表示されていた。
『怪盗"R"の予告状、大神グループ社長の下に届く!』
記事を読んでいくと、予告状の内容まで公開されている。なになに……?
『今宵、赤いオオカミの遠吠えが終わる時、秘宝“人魚の涙”を頂きに参上する。
——R’sN』
「赤いオオカミ?」
「なんのことだろう?」
まぁ、現状ではなんにもわかんないね。そんなことより——。
「はーちゃん、パパさんって大神グループに行ったりするの?」
「う~ん。聞いてみないとわからないかな。……なんで?」
そりゃあ決まってるじゃん。ねぇ……?
「わたしも連れてってください!」
「言うと思ったよもぉ~!」
ぷりぷりと文句を言いながらもパパさんに連絡してくれるはーちゃん。
本当にありがとうっ!よっ、わたしの天使っ!
「あんまり調子のいいこと言ってると、お願いするのやめるからね?」
アッ、サーセン……。
放課後、わたしとはーちゃんは大神グループ本社ビルの前に来ていた。
本社ビルは町中にあって、大きな時計が突きだした建物はすごく目立つ。
正直、このセンスはわからないな~。
時計を見ると真っ赤な針がちょうど6時を指し、軽快な音楽が鳴り響いた。
「…………ふーん。」
とりあえず写真撮っとこ。
「どうしたの?」
「うぅん……。それよりちょっと休憩しない?はーちゃんには色々お世話になってるからさ、お礼も兼ねてわたしが奢るよ。」
ちょっと喉が渇いたしね。
「えっ、でもいいの?ゆっくりしてたら怪盗R来ちゃうかもしれないよ?」
「だいじょぶだいじょぶ!まだ当分来ないからさ!」
「えぇ~?!」
はーちゃんの背中を押して歩き出す。
なんにしても、えーきを養っておかなきゃね。
「……それで、どうしてまだ来ないってわかるの?」
わたしたちは近くの喫茶店に来ていた。
コーヒーが自慢のお店らしく、わたしはハニーミルクラテとフレンチトーストを、はーちゃんはカフェオレとドーナッツを山のように頼んでる。
……はーちゃんよく食べるね?
そんなはーちゃんが4つめのドーナッツをほおばりながらじっとこっちを見つめてくる。
やだ、ちょっとドキドキしてきた……。
「あぁ、えっとね——。」
そんな胸の高鳴りを悟られないよう、わたしはカップを傾けながらはーちゃんに説明を——ハニーミルクラテうまっ!ラテっていうからもっとコーヒーっぽいのかと思ってたけど、メチャ甘くておいしい!
「美也子ちゃん?」
「——っと、ゴメンゴメン。」
はーちゃんの声に苛立ちが混ざった。
やっべ、この子怒ると怖いんだわ。
「“赤いオオカミの遠吠えが終わる時”っていうのが、犯行時刻を表してるのはわかるよね?」
「うん。」
さっき撮った写真を見せる。
「“赤い”っていうのはこの時計を表してるんだと思う。ほら、針が赤いでしょ?」
「……じゃあ、オオカミっていうのは?」
「昔の人は干支を時間に割り当ててたって知ってる?」
夜11時から2時間ごとに子、丑、寅……って続いていく。
ほら、丑の刻参りとか言うでしょ?
ちなみに正午とか午前、午後の午も干支の午から来てたりする。
「オオカミっていうのはたぶん大神グループとかけてるんだと思うけど、時間で言えば戌の刻——の、終わりだから……。」
「えっと……9時?」
「正解!」
初歩的な推理だね、お嬢さん。
「……それ、お父さんに教えていい?」
「……まぁ、うん。止める理由はないよ。」
とりあえず、時間まではゆっくりしよう。
大神グループ本社に戻ると、すごい人だかりになっていた。
みんな怪盗Rの動きが気になるみたい。
身体検査を受けて中に入ると、はーちゃんパパが迎えてくれる。
「やぁ、美也子君。久しぶりだね。」
「お久しぶりです、おじさま。」
はーちゃんパパは照れくさそうに頭をかいた。
「いやぁ……。年を取ると頭が固くなっていかんね。美也子君がいてくれて助かったよ。」
「アハハ……。」
パパさんと話してる間も、わたし達の周りを警官さん達が忙しなく駆け回っている。
準備は順調なのかな?
「あの、人魚の涙を見てもいいですか?」
「あぁ、こっちだ。」
扉の前に立つ警官さんにあいさつして部屋に入ると、何もない部屋の中心にぽつんと展示されているものが目に入った。
大きな錠前で閉じられたケースの中で輝く雫形の大きな水晶—これが人魚の涙か……。
「厳密には水晶ではないらしいよ。」
「じゃあ、なんなんですか?」
「わからない。未知の物質なんだそうだ。」
はぇ~。じゃあ本当に人魚の涙かもしれないのか……。
——いや、生き物の涙なら未知の物質ではないか。
「展示ケースは特殊ガラス製で、壊したり穴を空けたりすることはできない。台座や周囲の床にはセンサーが付いていて、この線の内側に入ると警告音が鳴るようになっている。」
パパさんが警備の状況を説明してくれる。
足元を見ると台座の周りを赤いテープで囲ってあった。
「警官の人数は建物の内外合わせておおよそ20人。監視カメラには暗視機能がついているし、死角ができないように配置されている。いくら怪盗Rでもこの包囲を突破することは不可能だろう。」
……不可能、か。それはどうだろうね。
「今回こそ怪盗Rの最後かもしれないなぁ。なぁ、”Rキラー”?」
……その呼び方やめて。
高校生のわたしが自由に行動できる範囲は非常に狭い。
だからR様が予告状を出すたびにはーちゃんパパを頼りまくり、その見返りとして気付いたことをいろいろ報告していた。
その結果R様を何度か撃退してしまい、付けられたあだ名が”Rキラー”。
R様のファンであるわたしがR様の邪魔をしているという事実に頭が痛くなってくる。
——わたし、絶対R様に嫌われてるんだろうなぁ……。
「もうすぐ予告のあった時刻ですっ!」
どんよりしているとハキハキとした声が上がった。
途端に扉が閉められ、人魚の涙を警官さん達が囲む。
「10、9,8,7——!」
カウントダウンが響く。
張り詰めた空気に緊張していると、はーちゃんが手を握ってくれた。
ありがとう、はーちゃん。
「3,2,1——0ッ!」
カウントダウンが終わると同時に外の時計が9時を告げる音楽を奏で始めた。
「…………来ないじゃないか。」
「遠吠えが終わったら、ですよ。おじさま。」
音楽が終わったら、R様は来る。
——シュボッ!
突如、どこからともなく煙が上がった。
それと同時に照明が落ちる。
煙はすぐに部屋に充満し、警官さん達の動揺と共に広がっていく。
「——ハァーハッハッハ!」
次に高笑いが響くとともに警告音が鳴った。
はーちゃんの手に力がこもる。
「……R様ぁぁぁぁあああ!」
わたしが叫ぶと同時に誰かが扉を開けたようで、煙が流れていく。
視界が晴れると、警官さん達の懐中電灯に照らされて怪盗Rは展示台の上に立っていた。
その手の中で人魚の涙が光る。
あの一瞬で鍵を開けたんだ!
「ごきげんよう、諸君!予告通り人魚の涙は頂いていく……さらばっ!」
R様が台から降りると同時、警官さん達が飛びかかった。
しかし、R様はそれをするっとかわし、団子状態になった警官さん達に何かを投げつける。
あれは投げるとなんか爆発するブーメランみたいなやつ!
なんてわたしの予想に反してそれは大きなネットを吐き出し、警官さん達を絡めていく。
そうこうしてるうちにR様は扉から出ていってしまった。
「ごめん、はーちゃん!警官さん達をお願いっ!」
「えっ、美也子ちゃん!?」
わたしは、はーちゃんの手を振りほどいて走り出す。
R様は非常階段から上へ向かったようだ。
たぶん、ハンググライダーで飛んで逃げるつもりなのかな?
「くっ!」
わたしは建物の外へと走った。
空を飛ばれちゃったらわたしも追いかけられない。
上階にも警官さんは配置されてると思うけど、R様を捕まえることはできないだろう。
R様はまんまと人魚の涙を盗み出した。
「ハァ……ハァ……。」
わたしは近くの公園に来ていた。
こんなに走ったのはいつぶりかな……?
「ハァ……ハァ……。」
ヤバい……息が上がって吐きそう……。
「——こんな時間に女の子が一人、こんな薄暗いところに来るのは感心しないね。」
「!」
息を整えていると、後ろから声をかけられた。
「よくここだとわかったね?“Rキラー”さん。」
振り返ると、フードを目深にかぶった男が立っている。
「……この公園、監視カメラのほとんどがダミーだし死角も多いから、警察から隠れてやり過ごすならここだと思ったんです。」
「……へぇ、よく知ってるね?」
……言えない。
クラスの女子たちが夜にこの公園で彼氏と——なんて話してたのを聞いてました~なんて。
「それで?君一人で私を追いかけて、どうするつもりかな?」
R様は挑発的に両手を広げる。
「……えぇっと、R様に会いに?」
「っ!…………ハハッ!」
わたしが答えると、R様は一瞬驚いたように息を詰まらせ、その後心底可笑しそうに笑った。
——笑うとなんか少年っぽくてかわいいかも。
「そういえば、前に私のファンだって言ってたね?」
……ヤバい、推しに認知されてる!
「は、はいっ!そうですっ!」
「…………ふざけているのか?」
ヤバい、フードに隠れて見えないけどR様チョー怒ってる!
「君は何度も私の邪魔をした。それが君のファンとしての在り方なのかい?」
「…………えっと——。」
うわぁん違うんです~!何もかもが偶然でわたしの意志じゃないんですぅ!
わたしがどう言い訳しようか考えていると、R様は溜息をついた。
「君は私を捕まえたいのか?それとも、何か別の思惑があるのか?」
「わ、わたしは——!」
言えっ!言うんだわたしっ!
「わたしは!R様を一番近くで見ていたいんですぅ!」
「………………は?」
い、言った~!
フードの下のR様はぽかんと口を開けている。
「正気か?」
「はいっ!」
「……本当に?」
「はいぃ!」
「…………。」
R様が固まってしまった。どうしよう……。
「あ、あの——。」
「わかった。もういい。」
わたしの言葉を遮り、R様は頭を押さえている。
「……いや、そうだな。なら、ファンサービスをしなくちゃね。」
「————はぇ?」
R様の様子をうかがっていると、目の前が真っ暗になった。
何かにぎゅっと締め付けられ、なんかいい匂いがする。香水?
……えっ、わたし——R様に抱きしめられてるぅぅぅううう?!
「あばばばばば!」
「ありがとう、私を応援してくれて。」
ほぎゃー!みみみ耳元にR様の声ががが——!
「実を言うと、君のことはずっと気になっていたんだ。」
「しょしょしょしょうなんでふか?!」
やばいやばいやばい!R様が積極的ぃ!きゃ~♡
「君の声を聞いていると、なんだか元気が出るからね。」
「ほぇ——?」
わたしが呆けていると、R様が離れていく。
あぁ、推しのぬくもりがぁ……。
「それじゃあお嬢さん。また次の夜に……。」
その言葉を最後に、R様は夜の闇に消えていった。
翌日、わたしは再び朝刊を買って登校——しようと思っていたんだけど、気が付いたら学校にいた。
「あれは、幻……?」
自分を抱きしめるとR様のぬくもりが残ってる気がする。
——今のはちょっと気持ち悪いかな?
「み~や~こ~ちゃ~ん?」
一人悶々としていたら、怒気のこもった声がした。
顔を上げると、笑顔のはーちゃんと目が合う。
う~ん……これは悪魔の笑顔だぁ……。
「昨日どこに行ってたの?!すっごく心配したんだから!連絡しても返事は無いし、電話にも出ないし!」
「ゴ、ゴメン……。」
「いっつも勝手なことして!今日という今日は許さないからっ!だいたい美也子ちゃんは——!」
うわぁん助けてR様ぁ~!
「おはよう、小森さん——って、なんだかお疲れだね?」
先生に呼ばれたはーちゃんと入れ替わるように瀬名くんが登校してきた。
「おはよう、瀬名くん。……さっき、はーちゃんに怒られて……。」
「アハハ……災難だったね?」
瀬名くんはいつものように笑いかけてくる。
………………よしっ。
「……瀬名くんは、進路ってもう決まってるの?」
「えっ、まぁ……とりあえず近くの大学に行こうかなって。小森さんは?」
「あ~……わたしもとりあえず大学出て……探偵になろうかなって。」
「……それって、怪盗Rのため?」
「うん、まぁ……。」
そう言ってわたしは席を立つと、瀬名くんの耳元に顔を近づけた。
「だから……これからもよろしくね?瀬名隆心くん」
「っ!」
わたしが囁くと同時に瀬名くんの顔が真っ赤になる。
——たぶん、わたしも同じだ。ひぃ~はずかしい~!
でも、これは宣戦布告だ。
「さぁって、ジュースでも買いに行くかな!」
わざとらしく伸びをして教室を出る。
これから先も、わたしは怪盗Rを追い続けるだろう。
だってわたしの心は、まだ怪盗"R"に盗まれたままなのだから——。
少しでも面白いと思っていただけたなら、評価、リアクションをいただけると嬉しいです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。




