第19話 堂に入った口調
そんな澪さんとの会話から数日、何事もなく淡々と仕事をこなす。
とはいっても、殺人的猛暑と迷惑な期待の高いハードルは続いてるが。
澪さんもあれから見かけはするが会釈するくらいで話す事はなかった。
いわゆる、普通の日々だった。
普通といっても、やはり暑さでみんな集中力や体力はジリジリと削られていたわけで、大きなミスや怠惰があったわけじゃなく、それは起こるべくして起こった。
トラックから資材を降ろし、手渡しで上層階に上げてゆく。
敷地に余裕があれば、クレーンや運搬エレベーターを使うのだが、そうじゃないと手渡しはよくある話。
しかし、タイミングがあわないと⋯
「アブねぇ!避けろ!」
資材のひとつがつかみ損ねて落下した。
下にいた奴は、次の資材を取ろうとして気づかない。
誰もが“あっ!”と思うが、動けずスローモーションで状況は過ぎてゆく。
次の瞬間、ソイツは地面に横たわり俺の肩に衝撃が走った。
幸いソイツに怪我はなく、俺も当たりはしたが直撃ではない。
『大丈夫ですか?ありがとうございます。命の恩人です。』
声を震わせながらソイツは言った。
「間に合って良かった。かすったくらいだから、ちょい冷やしときゃ問題ない。」
「でも、相手が掴み終わるまで、目を離すんじゃないぞ!」
『リーダーにもいつも言われるんですが、つい⋯』
「つい、で取り返しつかないケガすんだから。身体は財産だろ?」
『ホントすいませんでした。』
『うちのヤツが危ないところを本当にありがとうございました。俺が言おうとした事、全部言ってもらって重ね重ねありがとうございました。』
そう言って深々と頭を下げたのは、担当リーダーだった。
「あまり大げさにすると、面倒な事になるからお互い結果オーライって事で。アイシングがてら、ちょっと休憩させてもらいますね。」
『勿論です。うちの会社の道具箱の氷使ってください』
「それじゃ、遠慮なく」
実際痛みもなく腫れもなかったが、ついでなんで涼しい休憩所で暫く過ごした。
でも、我ながらファインプレーで自分がビックリしてる。あんな動き俺はしらない。
まあ、火事場の馬鹿力って事だろう。
そこに誰か入ってきて、首筋に冷たい缶を押し当てられる。
「ひゃ!」
『お疲れ、というかホントたすかった!』
話を聞いて駆けつけたらしい所長だった。
『昨今の暑さで工程も遅れ気味でな。もし、事故になり数日でも止まってたらアウトだった。救世主だよ。』
「結果オーライって事で」
『ぶつけたところはどうだ?』
「特に腫れとかもないみたいなんで問題ないです。」
『いや〜、ホントお前は頑丈だな。まさに“鉄人”かよ!いや“tetsu”だな!』
「やめてくださいよ。居心地悪い」
『さっき職人のリーダーも“口調も堂に入ってて、俺いなくてもあの人に任せておけます”って言ってたぞ』
「そうやって、これ以上こき使うのは勘弁してくださいよ」
笑ってそう応じた俺だったが“堂に入った口調?”と冷房の聞いた室内で背中に汗を感じた。




