第11話 同じ匂い
この現場に来てもう2週間⋯あの時の冗談、もしかして本気だったのか?
そんな事を思いつつ、入り口前を掃いていると、
『tetsu、弟子入りする覚悟はできたか?』
『山田さん、またそんな事を!相原さんすみません。』
俺をtetsuと呼んだこの老人、近くの再生会病院に入院患者で、毎日現場前を散歩のルートにしている。
そして、すぐさま謝ってきたこの女性は澪さん。
山田さんの担当看護師でお散歩の相棒という名の監視役だ。
「今日もお元気ですね。すみません、警備クビになった際は是非!」
『ワシが生きてるうちにしろよ!』
「じゃあ、長生きしていただかないと!」
『お前まで長生きしろと言うか!まあ、弟子にしたいからせいぜい気をつけるわ!またな』
『お邪魔しました。頑張ってくださいね。』
『ところで山田さん、なんで彼を弟子にしたいんですか?』
『奴は、この前ワシが口寂しくてツマミを買いに抜け出した時に、朝早くから現場周りを掃いておった。』
『また、抜け出したんですか!あれほど間食はしないように言ってるでしょ!』
『やぶ蛇だった⋯とにかく、ワシが若い頃に手元の当たり前だった下積み作業をキチンとしとる。ワシと同じ匂いがするのじゃ』
『手元っていわゆる見習いですよね?なんで相原さんが?同じ匂いって加齢臭?』
『なわけあるか!昔ながらの職人の雰囲気じゃ!』
『そんなもんですかね。』
(実は、私も高齢の患者さん特に技術職の方に相原さんと接している感覚に錯覚する事があるのよね。)
『ところで、なんで相原さんをtetsuって呼ぶんですか?』
『それは、ワシの一番弟子が鉄だったから、ワシなりの愛情表現じゃ!恥ずかしいことを聞くな!』
『なるほど』
(って全く理解できない)
俺はそんな会話が繰り広げられてるとはいざ知らず、親父と同じ響き“tetsu”にくすぐったい複雑な気持ちでいた。




