第1話 優しいな、昨日の俺
その日、俺・相原恒一は、布団の上で天井を見つめていた。
帰宅した記憶はある。
終電近くだったから途中で座れた気もする。
だが、そこから先が曖昧だ。
「なんとか生きてはいるか」
言葉にしてみて喉が少し渇いている事に気づく。
時計を見る。午前八時。
今日は休みだ。
上司に半ば強引に押し付けられた休日。
昨夜のことを思い出してみる。
冷蔵庫の前で立ち止まり、
一瞬だけ迷ってから、缶ビールを一本取った。
「明日、仕事じゃないしな」
普段は飲まない。
翌日の仕事に響くからだ。
だが毎日頑張り続けた昨日は別だ。
——一本だけ。
そう自分に言い訳して、プルタブを開けた。
そこで記憶が、少し飛ぶ。
今、キッチンに立つ俺は、
流し台に置かれた空き缶を見て首を傾げた。
「……二本?」
自分のルールでは、あり得ない。
「疲れてたしな……」
そう結論づけて、考えるのをやめる。
休日の朝にまで反省会はしたくない。
冷蔵庫を開けると、
買った覚えのないおにぎりが二つ。
「……優しいな、昨日の俺」
まるで同居者に言うように呟いて、ひとつ食べる。
塩加減が、妙にちょうどいい。
食べ終わって、ゴミを捨てようとして、ふと手が止まる。
ビールの空き缶が、
きれいに洗われ、伏せて置かれている。
「……几帳面すぎるだろ」
自分にしては。
疲れがピークになると几帳面になる?
「そんなわけあるか、ばかばかしい!」
俺はもう一度布団に戻ることにした。




