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人形姫は、猟犬の溺愛に瞳を潤ませる  作者: 宍戸詩紫


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8/16

振り下ろされた白刃


「誰だ!そこで、何をしている……!」

 

 アイザックが呆然と写真を見つめていると、けたたましく扉を開ける音が部屋中に響いた。


 ローザン伯爵だった。


「アイザック……?何故ここに……、いや違う、違うな!?貴様も裏切り者なんだな!!」


 声を荒げてアイザックを糾弾するローザン伯爵。しかし、アイザックは眉一つ、動かしすらしなかった。ただ淡々と、問い返す。


「この女性は、どなたですか?」


「そんなこと貴様に言うものか!ああやはり、お前など信用すべきじゃなかった……!」

 

 頭を抱え、ローザン伯爵は呻く。

 

 面倒だな、とアイザックはため息を一つついた。


「伯爵とカーノヴォン連合国との繋がりについては、情報をすでに押さえています。どう足掻いても、あなたは反逆罪を免れないでしょう。今のうちに、素直になっておいた方がよろしいかと……」


 が、直後、アイザックは唇を引き結んだ。ローザン伯爵は怒るでも嘆くでもなく、真っ青な顔色をしていたからだ。


「貴様、カーノヴォンの者じゃないのか……?黒い鎧は、貴様の指示で動いているのでは無いのか……?」   

 

 ローザン伯爵は、震える声で尋ねてくる。アイザックは不審に思いながらも、事実だけを冷徹に並べた。


「私はクロム王の勅命を受けたもので、黒い鎧に関しては存じ上げません。現在この館は、何者かからの襲撃を受けています」


 途端、ローザン伯爵は崩れ落ちた。顔を覆い、涙を流している。


 様子がおかしい。


 しかし今は、重要参考人として避難させることが優先だ。

 

 そうアイザックが判断し、一歩近付いた時だった。


「シャーロット……!おお、シャーロット!!」

  

 ローザン伯爵の慟哭が、鼓膜を揺らした。目を丸くしているアイザックの姿に目もくれず、ローザン伯爵は悲しみにくれる。


「きっとシャーロットも、もう無事では無いのだろう!!野蛮なカーノヴォンのことだ……!ああシャーロット……!」


 推測するに、この写真に写っている少女の名が、シャーロットなのだろう。だとすれば、『娘』と題されているのは一体なぜだ。ガーネットは、実の娘ではないというのか。


 アイザックも現状を可能な限り分析しながら、少々困惑せざるを得なかった。


 とは言え、深い悲しみが次に引き起こすものの相場は決まっている。そしてローザン伯爵も、その例に漏れなかった。


「それもこれも!あいつが生まれてきたからだ!あいつが存在しなければ、我々もこんなことに巻き込まれずに済んだんだ!許さん、許さんぞ──」


 背後で、火の粉がぱちっと跳ねた。同時に、ローザン伯爵の理性も弾けた。


「ガーネットおおおおおお!!」


 ローザン伯爵は、一目散に部屋を飛び出して行った。その方向は、ガーネットの部屋。


 ガーネットの身に、危険が迫っている。


 すぐにローザン伯爵の後を追いかけようとし、だが、アイザックは書斎を振り返った。


 持って帰るべき書類はまだまだ机の中にある。このタイミングを逃すと、火が回って二度と手に入れることは出来ないだろう。

 

 自身の務めはなんだ。


 任務の遂行。任務の遂行。任務の遂行。

 

 だとしたら、やるべきことは決まっている。


 ガーネットのことは残念だが諦めて、というかそもそも潜入先のただの娘でもう娘かどうかも分からないし、残念も何も────。


 瞬間、ガーネットの薄い微笑みが、脳裡に思い浮かぶ。


 満面の笑顔は、きっともっと美しい。それを見ることが出来なかったのが、心残りなのだろうか。


 しかし。


 俺は、猟犬だ。クロム王の、犬だ。

 


 アイザックは深く呼吸をし、意識して冷静さを取り戻す。そして一歩、踏み出した。






 バタン!!


 大きな音と共に、父親が血相を変えて部屋に飛び込んでくる。

 その手に斧が握られているのを、ガーネットは表情なく見つめていた。


 何かとんでもないことが屋敷の中で起きていることは、気付いていた。

 しかし、私には逃げようとする意思も、慌てふためくような感情も湧かなかった。


 ただ、無表情に、椅子に掛けているだけ。


 父親に刃を向けられても、私に出来ることは無かった。

 どうして良いかも、分からなかった。ただ頭の中にあるのは一つだけ。


 感情を、出してはいけない。


 それだけが、私に許されたこと。


 父親に、母親に、言いつけられた通りに。そうして、人生を終える。


 予想していた通りの顛末。まさかそれが、父親の手によって終わらされるとは予想していなかったが。


「フー……ッ!フーッ!!」


 鼻息荒く、父親はこちらに向かってくる。

 どうして彼に殺されなければならないのか、何があったのか。

 尋ねたいとも、思わない。


 だけど。


 ユニコーンのぬいぐるみを抱く手に、ぐ、と力が籠もる。


 出来ることなら。


 父親が、斧を振りかざす。


 この子と、空を飛んでみたかった────。


 廊下の炎を反射して、きらりと刃が輝いた。




 お読み頂き、心から感謝致します。慣れないロマンス(それも溺愛系!)ですが、少しでも貴方様の心を動かすことが出来たのなら幸いです。

 今後ともぜひ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
作家さんの仰る通りのテンポのいいストーリーで、舞台の臨場感が伝わる表現は見事です。男性主人公の葛藤と心情の変化が読み取れる回でしたね。ロマンスがテーマの作品との事ですが、またまだ仕掛けがあるような展開…
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