表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形姫は、猟犬の溺愛に瞳を潤ませる  作者: 宍戸詩紫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/16

ユニコーンの背に乗って


「これは一体……」


 私は、手の中にある柔らかい物体から、目が離せなかった。なんとなくモニュモニュと、手触りの良いそれで手遊びをする。

 王都から帰宅したアイザックが、翌朝、いつもの挨拶と共に渡してくれたお土産。白い、柔らかな綿が沢山詰まったぬいぐるみ。

 ただ、私はこのモチーフが分からなかった。


 基本的な造詣は馬……だと思う。しかし、柔らかに微笑んでいるその馬の額から一本の長い角が生えており、さらに、背中には一対の羽が生えている。


「ユニコーンですよ、ガーネット様」

「ユニ、コーン……?」


 アイザックが教えてくれたその名にも、私は聞き馴染みが無い。

 聞き返した私に、アイザックがほんの少しだけ瞠目する。きっと、私がユニコーンすら知らないとは想像だにしていなかったのだろう。

 

 私はこれまで、一切の娯楽を与えられなかった。私に割ける無駄なお金は無いと、両親は何度も言っていたから、その仕打ちも、私は受け入れていた。


 だから、物語、空想、架空のお話などに、触れたことも無い。


 私が目を伏せたのを見て、アイザックはそれでも微笑みながら、自身のプレゼントにさらに説明を加えてくれる。


「そう。ユニコーンと言います。伝説の生物で、神聖な身の女性しか、その背に乗ることは許さないそうです。だから、ガーネット様にぴったりだと思って」


 神聖な身。


 アイザックは、私にそんな印象を抱いているのだろうか。だとしたら滑稽で、申し訳ない。


 ただ空っぽなだけなのに。

 神どころか、その下位の存在である、人間ですらない人形だというのに。


「……ええ」


 私はいつもの通り、ただ形式だけの返事をする。

 が、アイザックは、今日はそれだけでは下がらなかった。 


「ねえガーネット様。この子の背に乗って、空を飛ぶところを想像してみてください。きっと、楽しい気分になれるはずです」


 唐突に、そんなことを口にする。


「ぬいぐるみではありません。その楽しい気分が、わたくしのお土産なのですよ」


 アイザックは、にこにことして言った。


 私は、彼の笑顔が苦手だ。

 その笑みには、否を唱えられない。


「……ええ」

 

 私は仕方なく瞼を閉じて、考えてみる。


 美しい、立派な白馬。だがそのたてがみや尾は虹色に輝き、一本角は宙をまっすぐに穿っている。

 私は一礼し、見事な羽に触れないように、その背に跨る。


 彼は、ばさりと羽根を一振りし、跳んだ。そのまま、私と共に、空を駆ける。


 自室から見たことがある、真っ青な空。その中を私とユニコーンは、どこまでもどこまでも飛んでいく。


 私を縛るものは、何もない。私は、自由。  

 この子とだったら、色んな場所に行けるのだ。


 ──ああ、それはなんて。

 幸せなことなのかしら。


 だが現実は、そうではない。

 ユニコーンは伝説にしか生きていないし、私はこの屋敷の外へは出られない。


 私は、目を開けた。


 そして、驚く。


 アイザックがこれまで見たことがない程、唖然としていたからだ。


 どうしたのだろう。


 だが、そんなことを気軽に尋ねる間柄ではない。私は、 


「ありがとうございます」

 

 と、感謝の気持ちだけ端的に告げた。

 アイザックも、ええ、と部屋を後にする。


 私は、ユニコーンのぬいぐるみを、いつまでもいつまでも、抱き締めていた。 




 アイザックは、部屋を出てすぐにへたり込んだ。


 特に深い意味もなく、ユニコーンのぬいぐるみを選んだ。特に深い意味もなく、空を飛ぶ想像を強いた。


 それなのに。


 先ほど見たものが、信じられなかった。


 「なんだあの顔……」

 

 ガーネットが見せた微笑を、再び脳裏に思い浮かべる。


 ほんの少しら赤らんだ頬。緩やかに弧を描く唇。夢見るような、安心した表情。


 とても、とても美しかった。


 もっと、もっと笑って欲しい。笑顔にしたい。

 そしてそれは、俺の前にだけ見せてほしい。


 そんな気持ちすら、湧き起こる。


 だが、とアイザックは首を横に振った。


 俺は、ただのクロム王の犬で、ただのスパイで、ただ彼女を貶めるだけの立場なのだと、今一度考え直す。


 それ以上の想いを、持ってはならない。持つべきでは、ないのだ。

 

 アイザックは、笑顔を無理に作って、一口だけ飲まれた白湯を捨てるべく、歩き出した。




 その晩、ローザン辺境伯爵の家は、燃え上がった。

 火を放たれたのだ。



 お読み頂き、心から感謝致します。慣れないロマンス(それも溺愛系!)ですが、少しでも貴方様の心を動かすことが出来たのなら幸いです。

 今後ともぜひ、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ