独立戦争の続き
「うわあああっ!!」
間近でガーネットが発した光を浴びた兵士は、両目を覆って崩れ落ちた。
強烈な光に、目を焼かれたのだ。
視力を奪われたのは、ガーネットを処刑しようとした兵士だけではない。その場にいたクロム王も、その背後で待機していた兵士たちも、全てだ。
「おい!なんだ、何が起こった!!」
周囲は混乱状態に陥り、誰も動けなくなっていた。
ただ、一人を除いて。
赤い光が収まると、クロム王はすぐに目を開けた。
そして、驚愕する。
「何故だ!!何故生き返っているんだ!!」
信じられない。間違いなく、先ほどこと切れたはずなのに。
どういうカラクリを使えば、そんなことが可能なのか。
クロム王は、茫然自失として、いつの間にか叫んでいた。
「────アイザック!」
ガーネットの隣。
そこには、深紅のオーラを全身に纏ったアイザックが立っていた。
血の一滴も垂れてはおらず、大きく穴が開いていた胸も、今では傷が塞がっている。
そして、ガーネット自身もまた、真っ黒だった瞳を赤く染めていた。
クロム王は、目の前の光景に、一つだけ思い当たる節があった。
いや、しかし、それはありえない。
だが実際に起きている。
そんな自問自答を繰り返しているうちに、ぽろりと心の声が漏れた。
「神の加護の力……」
必死に祈っていると、声が聞こえた気がした。
────そんなに、その人を愛しているのね。
柔らかい、女性の声だった。
私はすぐに答えた。
はい。心の底から、愛しています。
すると、すぐに返事があった。
────久方ぶりね。クロムの子から、そんなに真摯な愛情を感じるのは。
クロムの子。そう、私は確かに王家の血を引く者だ。
────いいわ。貴女になら、この力を分けてあげましょう。
そんな言葉が聞こえたと同時に、胸の奥がじんわりと温かくなる感覚があった。
そして、自分でもそれが何かはすぐに理解した。
加護の力。
でもそれは、ただの噂だったのではないか。
そんなことを考えると、
────いいえ。昔は本当に何人かに貸していたのよ。誰かを心から愛するクロムの子孫に、私の加護をね。でも最近では打算や薄汚れた思惑ばかりが渦巻いていたから、貸すのをやめたの。でも、あなたになら、いいわ。
と、答えが返ってきた。
確かに、現代のクロム王の様子を考えれば、真の愛など微塵も持ち得ていないだろう。
ありがとうございます、神様。
私、私、今度こそ、愛する人を、この手で守って見せます。
私はもう、祈るのではなく、感謝を述べた。
────ええ、楽しみにしているわ。
神様の声は、聞こえなくなった。
私は赤い光に包まれながら、アイザックに心の内で語り掛けた。
ザック、ザック。
私の元へ帰ってきて。
愛しい、私だけの猟犬。
あの時、ローザン伯爵邸の中から私を救い出してくれたように。
もう一度、私に光を見せて。
すると、私の身体から出る光は、アイザックの身体の中へと流れていった。
みるみる傷は閉じていき、悪かった血色も良くなっていく。
そして、ぱちりと瞼を開けた。
「はい、猟犬アイザック、ただいま戻りました」
透き通るような青い瞳は、今は業火のような赤に変わってはいるが。
間違いなく、アイザックで。
私は嬉しくて、アイザックに飛びついた。
「お帰り!ザック!!」
「どうしてお前が、加護の力を!!」
クロム王は訳が分からない、と言わんばかりに喚く。
完全復帰したアイザックは、先ほどの減らず口を数倍にして返した。
「お前なんて、無礼だぞ。こちらはガーネット様、正当な、クロム王族の子孫だ」
「はっ!?お前のことなど、知らんぞ!」
「当たり前だろう!はるか昔に誘拐された王族の子孫なんだから!」
バカか、とアイザックは吐き捨てる。
先ほどの衰弱した姿とは打って変わって強気で、私は思わず笑みを零した。
だが、アイザックは私に向かって、
「当然です!ガーネット様から加護の力を分けていただいて、このアイザック、最強ですので!」
と、胸を張る。
そして、その言葉に嘘はなかった。
「殺せ殺せ!二人とも殺してしまえ!」
無茶苦茶に命令を下す王に戸惑いながらも、数十人の兵士たちが束になってアイザックにかかっていく。
が、
「邪魔だ」
アイザックが軽く剣を一なぎしただけで、その半分の人間が、真っ二つになった。
加護の力でけがが治ったばかりか、身体能力まで強化されているようだ。
「ひっ……!」
先鋒の無残な散り具合に怖気づく残りの兵士たちだったが、
「貴様ら!逃げたらすぐに死刑にしてやるからな!!」
半狂乱のクロム王にそう脅され、逃げ道を失っていた。
結果、アイザックに向かってきたのだが、これもまた、
「せいっ!」
と瞬きの間に、片付けられてしまう。
「くそっ……くそくそ!」
地団太を踏むクロム王だったが、ふと何かを思いついたようでにやりと笑った。
「おい、アイザック!大人しく投降しろ!」
突然不敵な笑みを浮かべ、意味の分からない要求をしてくる。
「そんな言い分聞くわけないだろうが。いますぐ殺してやりますから、待っててくださいよ」
アイザックも、冗談、という風に受け流している。
が、クロム王はまだ諦めていなかった。
「やかましい!さっさと服従しろ!さもなければ!」
そして、究極の奥の手を出した。
「クロム王国の民を全員殺す!」
「そんなこと、出来るわけがない」
アイザックは冷たく言い放つが、クロム王は、ははは、と高らかに笑った。
「可能なのだよ!我が『猟犬』を使えば!!」
「そんな!」
私は理解して、悲鳴を上げた。
クロム王は、猟犬部隊に命令して、国民を虐殺するつもりなのだ。
一人では敵わないからと、アイザック相手に国民全員を人質に取ったのだ。
「国民が居ない国なんて、国とは言えない!気が狂ったのか!」
アイザックも当然、反論するが、クロム王の狂気は収まらない。
「居るだろうが、隣国に山ほど」
「なんてことを……!」
もはや正気ではない。
かといって、この場に居ない猟犬部隊を、いくらアイザックが加護の力を得たとは言え、始末するのは不可能だ。
せっかく戦える力を得たのに、私はまた何もできないのか。
そう、私が拳を握りしめた時だった。
「おーいアイザック~!助けに来たぞーい!」
聞き覚えのある声が、遠くから聞こえた。
見れば、
「セイロン王!それに、ガイルさんまで!」
ライテル国に居るはずの二人が、なぜか馬に乗ってクロム城下町の方から駆けてくる。
そして、さらに後ろの馬には、縄で縛られた何人ものクロム兵士が居た。
「猟犬部隊が、捕らわれている……?」
アイザックもその様子に、不思議そうに首を傾げている。
私たちの近くまで来てくれたセイロン王にその仔細を尋ねると、彼はころころと笑って答えた。
「いやはや、サンデルブルク王に言付かってのう」
「セントラル国の?一体なんと……?」
アイザックが怪訝そうに眉をしかめる。
相変わらず、サンデルブルク王とはそりが合わないようだ。
「『こんなこともあろうかと、セイロン王に頼んでおいた。ありがたく思え』じゃと。まったく、あやつも老人遣いが荒いわい」
セイロン王は口調を真似てまで、その問いに応じてくれる。
隣で聞いていた、セイロン王の部下が、大きくため息をついた。
「そんなこと言って、うきうきで戦の支度をしていたではありませんか」
「だってクロムの『猟犬』じゃよ?手合わせ出来るなら腕が鳴るわい。のう、ガイル」
「はい」
ガイルも、鷹揚に頷いた。
ライテル国の独特な雰囲気にのまれながらも、しかし、事態は再び好転した。
セイロン王は、言った。
「さあ、独立戦争の続きを開始しようじゃないか。のう?クロムの王よ」
お読み頂き、心から感謝致します。慣れないロマンス(それも溺愛系!)ですが、少しでも貴方様の心を動かすことが出来たのなら幸いです。
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