アイザックの真実
翌日、アイザックはクロム王国の城に赴いた。
「おおアイザック!急に留守にして、どうしたのだ!皆困り果てておったぞ」
クロム王に面会するなり問い詰められたアイザックは、用意していた文言を諳んじた。
「急にローザン伯爵の件で情報が入り、極秘で再調査をしておりました。副隊長の席に穴をあけたこと、深くお詫びいたします」
「ふむ、何か分かったというのかね?」
当然、何の調査だったのかも追及されるだろうことは予測していた。
アイザックは、すらすらと答える。
「はい、カーノヴォン連合国と取引していた具体的な商品、ならびに過剰にローザン伯爵に寄付されていた金の出所を突き止めました。セントラル国です」
これに関しては、嘘ではない。身をもってカーノヴォン連合国の武器技術を体感したし、セントラル国からの寄付金等の陳述は、取引明細には記載されていなかった。
故に、アイザックに咎められる余地はなかった。
そうか、と応じた王は、アイザックの離席を許可する。
が、今度はアイザックが口を開いた。
「王よ、一点だけお聞きしたいことがございます」
「なんだ?申してみよ」
「クロム王族の伝説について、何かご存じですか?」
アイザックは、セントラル国で耳にした話が、未だに信じられなかった。
ガーネットが嘘をついたとも思っていない。
が、それとは別に、自身の冷静な部分が第三者的な視点を求めていた。
王、ひいてはクロム王国自体の在り方に疑念を持ちかねない話だ。
一人、二人の証言では判断しきれない。
そう考えたのだ。
ううむ、としばらく逡巡していたクロム王は、しかし、
「聞いたことがないな」
とだけ、答えた。
「そうですか、であれば結構です。それでは私は、これにて」
「うむ」
アイザックは一礼をして、王の間を後にする。
ほんの少しの違和感を胸に抱きながら。
なんだ、どうしてだ。
どうしてこうも、胸のざわつきが収まらない。
自分は王の猟犬だ。不信感を持つなどあり得ない。
どれもこれも、あのサンデルブルク王のせいだ。
少し苛立ちながらアイザックは廊下を歩いていたが、ふと思い立ち、進行方向を変更した。
不安の芽は先に潰しておこう。
そんな気持ちで向かったのは、王宮図書館だった。
何か、カーノヴォン連合国との正当な関わりを記すものがあれば、それがある程度の疑惑を晴らす材料になると思った。
植民地化した歴史ではなく、荒れた隣国と重ねた歴史を見たかった。
であるのに。
「どこにも、ない……!」
クロム王国の七百年間の歴史を記す記録は山ほどあるのに、他国のものは一切ない。
アイザックが抱える漠然とした不安は、ますます募るばかりだ。
と、彷徨わせた視線の先に、重厚な扉が見える。
図書館の一番奥。さらに重要な蔵書を収めた書庫だ。
アイザックは迷わずその扉に近づく。
だが、その行く手を阻むものが現れた。
クロム王国の兵士だ。
「これより先は、王の許可が必要でございます」
そう告げて、書庫の前に立ちはだかる。
「俺が王の猟犬であっても、か」
アイザックも食い下がるが、
「はい、申し訳ございません」
兵士は頑なに、それを拒んだ。
アイザックは踵を返し、一度、帰宅するしか無かった。
そして、その日の深夜。
アイザックは再び、王宮図書室に忍び込んだ。
勿論、狙いは最奥の書庫だ。
だが、
「ちっ、まだいるのか……」
クロム兵士は、人員を交代し、未だに重要書庫の前を見張っている。
アイザックは物陰に隠れると一つ、息を吐いた。そして、一気に彼の背後に忍び寄る。
首元に手刀を一発。
途端、兵士は気を失った。
「手荒なことをして、悪い」
アイザックは詫びを入れながら、するりと書庫の中に侵入する。
中はホコリと紙の香りでいっぱいで、むせ返りそうだった。
電灯をつけると、随分と古い資料や本ばかりが所蔵されているのが見えた。
タイトルが掠れて、読めないものも山ほどある。
手当たり次第に全てを漁るのは効率が悪いと、アイザックは一先ず、知っている国に関する何かがないかと考えた。
ライテル国だ。
セイロン王の話しぶりからするに、全く関わりがない、ということはなさそうだった。であれば、記述の一つや二つは見つかる可能性がある。
「ラ行、ラ行……。ん?」
ラから始まる資料のタイトルを流し見る。
と、次の「リ」の棚の始めの方に、『猟犬』という文字が一瞬、見えた気がした。
気になってそちらに注視すると、やはりある。
「『猟犬の運用方法とデータベース』……?」
比較的新しいファイルの名前は、そう称されていた。
ページをぱらぱらとめくってみる。
「なっ……!」
アイザックは驚愕した。
クロム王国が建設された七百年前から『猟犬』は組織されており、あらゆることを行なってきた証拠となる資料だった。
表だったことから、暗殺、スパイ、テロ行為等の裏の工作まで。
さらに、最後のページまで辿り着くと、アイザックは目を見開いた。
「俺の、情報……?」
震える指で、文字列をなぞる。
『郊外の村にて、尋常でない強さを誇る子供がいるとのこと。猟犬に相応しく、また、昨今の弱体化解消の一助になるべし』
「なんだ、これ……」
言葉を失うアイザックだったが、そのページの最後の一行を読んだ瞬間、ファイルを取り落とした。
そこには、こう書かれていた。
『経緯:両親の説得に失敗。強硬手段に出られたし』
──つまり。つまりつまりつまり。
頭を抱え、ぐしゃりと自身の髪をかきむしる。
信じられない。信じたくない。
両親を、ルークを、殺したのは。
足元が崩れ落ちていくかのような、背筋がすうっと凍るような感覚に全身を呑み込まれていた、その時。
アイザックの背後から、かかる声があった。
「勉強熱心だな、我が猟犬」
お読み頂き、心から感謝致します。慣れないロマンス(それも溺愛系!)ですが、少しでも貴方様の心を動かすことが出来たのなら幸いです。
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次回は 2/28 21時 更新予定です!




