私の帰る場所
「ええと、つまり……?」
私は首を傾げた。
「セントラル国にはクロム王国の血筋を引く召使いが居て、セントラル国の召使いの娘とローザン伯爵の娘を交換したら、交換に出した娘が偶然クロム王国の末裔で、それが私っていうことは……」
「ガーネット様!!」
アイザックが血相を変えて、私の手をとる。
「私は、ローザン伯爵家の本当の娘ではなくて、実の母親はここに居て……」
「ガーネット様のお母様は写真の女性で、その上、あなたはクロム国の王族ということですよ!!」
アイザックが珍しく興奮している。
「わたくしは正式に、ガーネット様の猟犬となれるのです。ああ、これほど嬉しいことはありません……!」
サンデルブルク王に向ける冷徹なそれとは打って変わって、にこにこと相好を崩している。
そして私の中でも、納得のいく部分があった。
私はローザン家にしてみれば、実の娘と無理に交換させられた、見ず知らずの子供。
だから私は彼らに忌み嫌われていたのだと、初めて合点がいった。
愛されず、感情を出すことも許されなかったのは、正真正銘私のことを憎んでいたからなのだ。
そう考えると、悲しみよりも、安堵が胸に広がった。
私が嫌われていたのは、私のせいではなかったのだ。
どこかほっとしていると、しかし、アイザックは眉をひそめて言った。
「だとすれば、ローザン伯爵邸を襲ったのは誰なんでしょう」
確かに、アイザックが知らない以上、襲ってきたのはクロム王国側ではない。とはいえ、カーノヴォン連合国とは手を組んでいる。
では、どこの誰が、ローザン伯爵を消す判断に至ったのだろうか。
私も、頭を悩ましかけた時だった。
「ああ、それは俺だ」
「は!?」
平然と、サンデルブルク王は言ってのけた。
「もう十分、彼の損失がクロム王国の基幹に打撃を与えるほど成長していたし、娘を返せとうるさかったからな。それで殺した。黒い鎧は、私が滅ぼした国から奪った軍隊だ」
「ノーソーホーはお前が滅ぼしたのか……!」
私の知らない話にアイザックは目を見開き、若き王を糾弾する。
しかし彼は、悪びれもせず反論した。
「だって治安が悪すぎて、ほとんど崩壊しかけていたんだ。だったら俺が吸収してしまっても問題ないだろう?」
「そんな身勝手な……っ」
「これは、カーノヴォン連合国の話だ。部外者に口を出す権利はない」
ぎ、とアイザックとサンデルブルク王の間でにらみ合いが発生する。
しばらく重い空気が辺りを包んだが、沈黙を破ったのはアイザックの方だった。
「写真の女性が、ガーネット様の真の母君だということは分かった。だがまだ、俺たちをここに呼んだ理由は聞いていない。何故だ?」
王は、ふむ、と自身の顎に手をやった。
そして、一言。
「運命を、感じたんだ」
「はあ?」
アイザックは呆れ切った声を発した。
だが、サンデルブルク王は本気だった。まっすぐな目で、私たちに告げる。
「俺のかわいい黒い鎧たちがな、全滅したんだよ、派遣先のローザン伯爵邸で。誰がそんなことしたんだと思ってな、斥候を送って調べてたんだ。そしたら驚いたよ」
アイザックの猟犬としての写真は、彼の斥候が撮影したものだったのだ。
そのことに、ようやく思い至る。
サンデルブルク王は、話し続ける。
「クロム王国の血を引く者と、クロム王の猟犬が、揃って一緒に暮らしている。こんな数奇な運命、他にあるか?その二人が真実を知れば、何かが動き出すに違いない。そんな予感が、俺にはあった。だから、お前たちの運命力を試した。クロム王国を、この、カーノヴォン連合国を変える力になりうるのか、と」
不思議な人だ、と私は思った。
損得で人や国を亡ぼす冷たさを持っていながら、運命などと不確定なものを信じているそのアンバランスさ。
その両方を兼ねているからこそ、その若さで王にまで上り詰めたのだろう。
「こちらに呼び出し、途中で黒い鎧を差し向けたのも、もちろん俺だ」
私がそんなことを考えていると、サンデルブルク王は衝撃的な告白をし始めた。
私たちは驚きの連続で、何一つ言葉を発せない。
「ばらばらに引き裂いて、それでも色んなものを巻き込んで、二人してここに辿り着けるか。結果、お前たちはその試練を、乗り越えた。お見事だ」
「なんて勝手な……」
頭を抱えるアイザックに、
「だが、色々と勉強になっただろう?」
と、どこ吹く風のサンデルブルク王。
二人の収集のつかない険悪さに、私は思わず、気になっていたことを口にした。
「あの、ローザン伯爵の娘さんは、今どこに?」
「ああ。ガーネットの母親と暮らしている」
その返答に、私は胸を撫でおろした。不可抗力とはいえ、言えば人質に取られていたようなものだから心配だったのだ。
と、ここで思いがけない発言が、サンデルブルク王から飛び出る。
「どうだ?お前も共に本当の母親と暮らすか?ガーネット」
「え?」
「お前のような美しい女は何人いてもいいからな。歓迎するよ」
「口を慎め、くそが」
いつの間にか敬語を使わなくなっていたアイザックの暴言に、つい私は吹き出してしまう。
そんなに心配しなくても大丈夫よ、アイザック。
「ありがとうございます、王。ですが、お断りさせていただきます」
私はサンデルブルク王を、正面から見据える。
「私の帰る場所は、アイザックの家ですから」
「ガーネット様……」
頬を紅潮させるアイザックに、つまらん、とサンデルブルク王はぼやいた。
「明日、送ってやるから今日は泊っていけ。無理をさせた詫びだ」
そう続けて、しっしと私たちを追い払う仕草をする。
私は一礼して、王座の間を後にした。
だが、アイザックは違ったようだ。
「おいお前」
ガーネットの後を追おうとするアイザックを、サンデルブルク王は呼び止める。
「なんだよ」
もはや敬意すら払う気のないアイザックに、サンデルブルク王もにやりとしながら言う。
「お前はいずれ、クロム王国に反旗を翻すことになるだろうよ」
「そんなはずがない。俺は『猟犬』だぞ」
そう、アイザックは即答するが、
「それはどうかな?」
と、サンデルブルク王は肩をすくめるばかり。
その態度に、
「失礼する!!」
半ば憤慨しながら、アイザックは彼から背を向けたのだった。
「ア、アイザック……?もうそろそろ……」
「嫌ですガーネット様。会えなかった時間分、ガーネット様で満たさせて下さい」
部屋に入るなり、アイザックは私を背後から抱きしめて離さない。
そんなアイザックに、私はそろそろ照れが生じてきていた。
サンデルブルク王は「泊まっていけ」と言ったが、まさか二人で同じ部屋とは思わなかった。
「ああ、本当に無事で良かったです。あなたが辛い目に遭っているのではないかと思って、身が焼けそうでした」
腰に回ったアイザックの両腕が、ぎゅっと締まる。
その力強さに、私の胸はドキドキと痛む。
「わたくしが、ガーネット様にどれほど幸せをもらっているか、ご存じですか?ガーネット様の存在が、わたくしの心をどれほど安らかにしてくれるか、分かりますか?」
耳元を、アイザックの吐息がくすぐる。
私の身体が、熱を帯びていく。
「絶対に、あなたを逃がしません。どこへ行こうと探し出して、こうして抱き締めますから」
さらに強まるアイザックの抱擁に、私は息が詰まった。
私だって、あなたのことを離したくないのよ。
「私は、どこへも逃げないわ」
私の想いも、アイザックが私に注いでくれる愛と共に、溢れ出す。
「私が帰る場所はもう、あなたの隣なのよ、ザック」
「ガーネット様……っ」
「さっき自分で言ったでしょう。あなたは、私の猟犬。ずっとそばにいてね」
私は振り返る。アイザックの顔が、近くにあった。
アイザックの青い瞳に、私はくらくらと目眩がする。
「……承知いたしました。ガーネット様」
低い囁きがさらに接近した。
ちゅ。
アイザックの唇が、頬に触れる。
私はその熱が嬉しくて幸せで、自分の目が潤むのを感じた。
お読み頂き、心から感謝致します。慣れないロマンス(それも溺愛系!)ですが、少しでも貴方様の心を動かすことが出来たのなら幸いです。
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次回は 2/25 21時 更新予定です!




