シジュンとシロ〈Side G〉
翌朝、ガーネットは客間を出て、リビングへと向かった。叩き出されやしないかと、びくびくしながら扉を開ける。
しかし、ガーネットを待っていたのは、温かい笑顔だった。
「おはよ!おねえちゃん!」
「おはよう、ございます」
つっかえながら、ガーネットは朝の挨拶をする。
挨拶は、ローザン伯爵邸でもしていた。そのおかげで、最低限のマナーは守れる。
だが。
「よく眠れたかい?」
「……ええ」
それ以上の会話は、怖くて出来ない。
感情や思いを伝えれば叱られ、嫌われるのではないかと、どうしてもそんな恐怖に縛られる。
それでも、シジュンの父親や母親は、良かった、と笑みを浮かべた。
それから簡単な朝食の後、シジュンの父親は、両手を組んで口を開いた。
「さて、昨夜の続きだが……。ガーネットは家が分からないのかい?もしくは、言えない事情がある?」
「……ええ」
「なるほど」
ガーネットは、ローザン邸に居た時のように、頷きを返すことしか出来ない。
どれだけアイザックに心を開いているか、そして、そのアイザックがいないと何も出来ないかを、痛感する。
シジュンの父親は、続けた。
「思い出すまでここにいる、というシジュンの案に対しては、どう思っている?私たちとしては、どちらでも構わないよ」
「…………」
本音出言えば、一刻も早く、アイザックを探しに行きたい。
しかし、ガーネットにはその方法も、手段も、まるで検討がつかない。
それに、とシジュンの表情を伺う。
彼女は期待を込めた目と不安げな面持ちで、こちらをじっと見つめている。
この場は、シジュンないし、シジュンの家族の好意に沿う方が、無難だろう。
ガーネットは後ろ髪引かれる思いがありながらも、
「……よろしくお願いします」
と、頭を下げた。
「ここがね、私がよくシロと遊ぶばしょ!それでね、あっちがレノおばさんの家でね、」
「ワオン!」
ガーネットはシジュンと手を繋ぎ、この村を案内してもらっていた。もちろん、シロも同伴である。
辺りを、じっくりと見渡す。
雄大な土地のほとんどは何かの畑になっていて、あちこちにいる人たちが、作業をしている。
シジュンらと同じような、褐色の肌をした子供たちが数人、側を駆けて行った。
のどかで、落ち着いた土地。
言ってしまえば、そうなのだが──。
ガーネットの脳内は、疑問で溢れていた。
どうしてここは、こんなに発展が遅れているのだろう、と。
この村はソフチという国にあり、村の入り口近くで私は倒れていたらしい。またソフチは、サイドベルツ伯爵国の西方にあるのだと、今朝、シジュンの父親が教えてくれた。
「どこも、こんな様子なの?」
堪らず、ガーネットはシジュンに尋ねる。
「こんな?うーん、よくわかんないけど、ソフチはごはんを作るところだって、パパが言ってたよ!」
シジュンの答えに、ガーネットは自身の中で整理する。
ソフチは農業国、なのだろう。
そういう国が、世界にはあるとローザン邸で学んだことがある。ただ、クロム王国はどこも教育や産業化が進んでいるから、実際に農業国がこの世に存在しているとは考えていなかった。
大きな家や金属で溢れたクロム王国とは違って、純朴で、質素だ。
随分遠くに来たから、今後もきっと、未知のものに出会うことがあるだろう。
だかそれを共有できる唯一の相手は、今は居ない。
遠く、に。
自身の言葉を反芻して、ガーネットは不意に、胸が疼くような寂しさに襲われた。
それから二日後。
「今日はお買い物に行きますよ」
シジュンの母親に連れられて、ガーネットはソフチの中でも人気の商店街に来ていた。
肉や魚、野菜を売る店と、買い物客で賑やかな通りだ。
ガーネットの白い肌が珍しいのか、道行く人たちが、ジロジロとガーネットに視線を投げかける。
だがガーネットも、とあるものが気になって仕方が無かった。
「おねえちゃん、何見てるの?」
手を繋いだシジュンが、不思議そうに見上げてくる。
そして、ガーネットの見つめる先に目を向け、自信満々に教えてくれた。
「それはね、サフチ国の旗だよ!!」
ガーネットは思わず、耳と、目を疑った。
再び、サフチの国旗をまじまじと眺める。
それでも、何度考えても、分からなかった。
どうして、クロム王国の国旗が、ソフチの国旗デザインの一部にあるんだろう──?
お読み頂き、心から感謝致します。慣れないロマンス(それも溺愛系!)ですが、少しでも貴方様の心を動かすことが出来たのなら幸いです。
今後ともぜひ、よろしくお願いします。
次回は 2/19 21時 更新予定です!




