表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形姫は、猟犬の溺愛に瞳を潤ませる〜心を失った令嬢は、秘密を抱えた執事に甘やかされて愛を知る〜  作者: 宍戸詩紫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/36

女の子と白い犬〈Side G〉


「くっ……!」


 アイザックは、自身のたった数センチ先に迫った剣の切っ先から、目が離せなかった。

  

 なぜだ。


 アイザックは奥歯を強く噛み締めながら、ガイルとの交戦を思い返す。


 別に、自身がガイルと比べて劣っていた訳では無い。選ばれし猟犬の中でも、自分の剣の腕前は、殊更優秀であるという自負もある。

 彼との経験の差、体格差は勿論あったが、それでも互角の戦いは出来ていたはずだ。


 それなのに、何故。


 ガイルに鋭い視線を送りつつも、アイザックの心の内は、疑念で荒れていた。


 そんなアイザックを見透かしたように、ガイルが呟く。

 

「お前の剣には、芯がない」


「は……」


「技術だけが上滑りして、一撃に重みがない。だから簡単に弾かれる、隙が出来る」


「言わせておけば……!」


 アイザックは、目の前が真っ赤になったような感覚に陥った。

 

 向けられている剣を、自身の剣で振り払う。カキン、と軽い音を立てたそれを、しかし、ガイルは呆気なく鞘にしまった。


「おい!まだ終わってない!!」


 そう、アイザックが反駁した時だった。


「気が逸っているのだろう」


「……っ」

 

 真っ直ぐに、ガイルの黄金色の瞳を向けられて、アイザックは口を噤む。


 ガイルは続けた。


「本来のお前の剣ではないことなど、分かる。しかし今のままでは、お前の大事な人を救うことなど、不可」


「そんなこと百も承知だ!それでも俺は、早くガーネット様を救いたい……!」


 アイザックは、ガイルの言葉に乗せられるまま、本音を吐き出してしまう。名前と、剣技しか知らない相手に。


 だが、ガイルは一度、頷いた。

 まるで、理解している、とでも言うかのようだった。


「順番を違えるな、ということだ。焦っても、得られるものは無い」


 アイザックは、剣を下ろした。


 現状では、この男に敵わない。

 そう判断したからだ。


 アイザックは鞘に剣を納めながら、口を開く。


「……黒い鎧の集団を、見たことがあるか」


 カーノヴォン連合国については、ガイルの方が確実に見識が広いだろう。


 逃れられないのなら、いっそ利用してやる。


 アイザックはそう腹を決め、尋ねた。


「ガーネット様は、彼らに攫われた可能性が高い。今にも酷い目に、遭っているかもしれない。何でもいい。何か、知らないか」


 ガイルは答えた。


「見たこともあるし、戦ったこともある」


「本当か!それは、どこで……!」


 アイザックは食いつくようにさらに問いかける。

 ガイルはその熱を宥めるかの如く、端的に告げた。


「北だ」




〈Side ガーネット〉


「ただいまー!!」


「わん!」


 ガーネットは躊躇しながら、女の子の後に続いて小さな家の中に入った。


 本当に、大丈夫だろうか?


 女の子に言われるがままにここまでついてきたが、ここから先は、彼女のご両親の介入が免れない。


 ガーネットの身体は、緊張で強張る。


「おかえりなさい」


「遅かったな」


 振り返った女の子の父親と母親は、ガーネットの姿に目を丸くする。 


「あのね、おさんぽ行ったらね、おねえちゃんが迷子になってたの!だから、つれてかえってきた!」


「迷子?」


 母親が、困ったように眉を下げた。

 父親も恐る恐る、ガーネットに問う。


「どちら様だい?」


「おねえちゃん、しゃべれないの!」


「あ、あの……」


 女の子のフォローは有難かったが、話せないというのは嘘になる。あの場では女の子への方便になり得たが、もう限界だ。


「ガーネット、です」


 掠れた声で、何とか絞り出す。


 女の子は怒るでもなく、わーい喋ったー、と喜んでいた。

 

 しかし、


「家はどこ?どこから来たの?」


 母親の質問に、ガーネットは再び口を閉ざした。


 ──家。  


 そう聞かれた直後に思い浮かんだのは、アイザックの家。

 クロム王国の城下町から少し離れた所にある、お花やプレゼントでいっぱいの、二人で暮らす家。


 帰りたい。


 今すぐ、あの家に。


 でも、今帰っても、アイザックがそこに居るかは分からない。

 アイザックも私を探していて、しばらく帰ってこないかもしれない。

 もしかしたらもう二度と、一人でクロム王国から出られないかもしれない。


 アイザックに、もう会えないかもしれない。


 どう答えるべきか分からず、黙りこくるガーネットの様子を目にして、女の子の両親は顔を見合わせる。


 すると、


「わすれちゃったんだよ、きっと!だから、おねえちゃんが思い出すまで、ここにいてもらったら!?」


「ワオン!」


 きらきらとした笑顔を浮かべながら提案する女の子に、足元をくるくると走り回る白い犬。


「シジュン……」


 母親は、苦笑いを浮かべた。


 シジュン、と呼ばれた女の子の父親は、しばらく悩んでいたが、


「ひとまず、今日は休みなさい。明日また、ゆっくり話そう」


 そう、優しい笑みを浮かべた。

 母親もそれを聞くと、


「今すぐ客間を準備するわね。ちょっと待ってて」


 ガーネットの肩に手を添えながら、柔らかい口調で言った。


「わーい!やったね、シロ!」


「ワンワン!」


 嬉しそうなシジュンとシロに、温かい彼女の両親。


 知らない土地と環境に、ガーネットは目を白黒させるばかりだった。



 


 お読み頂き、心から感謝致します。慣れないロマンス(それも溺愛系!)ですが、少しでも貴方様の心を動かすことが出来たのなら幸いです。

 今後ともぜひ、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ