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人形姫は、猟犬の溺愛に瞳を潤ませる  作者: 宍戸詩紫


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2/19

彼の名は、アイザック


 ローザン伯爵家は、クロム王国の端に位置する。隣国、カーノヴォン連合国との境界付近ということもあり、来客はほとんどない。

 故に、人手の過不足も滅多に起きない。ローザン家に仕える使用人の顔ぶれが変わったことは、ガーネットが記憶する限り一度もなかった。

 

 だから、本当に、珍しい。


「初めまして。わたくし、アイザックと申します。本日から執事として、この屋敷に勤めることになりました。よろしくお願いします」

 

 優雅にお辞儀をするこの青年が、新しい使用人であることに。


 さら、と揺れる金髪。柔らかく弧を描く目は、湖の様な静かな蒼色。そして、すらりとした体躯と小さな頭。美しい、と形容するしか無いその男の登場に、女性の使用人はおろか、母親まで頬を赤くして見惚れている。


 何故、こんな人が、こんな辺鄙な所に。


 私は不思議だった。

 これだけ器量が良くて所作も完璧なら、わざわざこの家に勤めなくても、働く場所は山程あるに違いないからだ。

 だが、私はそれ以上考えることはしなかった。

 彼について思考を巡らせても仕方がない。なぜなら、彼と関わることは、今後ないのだから。

 そう結論付け、私は朝食に手を付けるべく、席に着こうとした。


 その時だ。


「ガーネット様、わたくしが」


 すっと、アイザックが近付き、私が座れるようにわざわざ椅子を引いてくれたのだ。


 そんなことを人生で初めてされたので、私は反応に困る。


 この場合、どうするべきなのだろう。素直に腰掛けるべき?それとも、拒否をするべきなのだろうか。

 さっ、と父親と母親、そしてアイザックの表情を伺う。父親は無関心を貫き、母親は腹立たしげにこちらを見ていて、アイザックは柔らかく微笑んでいる。


 遠慮する、というのを第一に考えたが、私がここで彼を拒否すると、アイザックは母親の椅子を引かないかもしれない。それは、さらに母親の機嫌を損ねることになるだろう。


 ということで。


「……ありがとうございます」


 私は大人しく、引かれた椅子に腰掛けた。

 しかし、アイザックの突飛な行動は、これだけでは終わらなかった。

 恭しく私に頭を下げたかと思えば、にっこり笑って、こんなことを口にする。


「ガーネット様、ですね。わたくし、ガーネット様にお会いするのを楽しみにしておりました。」


 アイザックはただのリップサービスのつもりなのだろうが、私は、戸惑うばかりだ。

 誰かと必要以上の会話をしたことがないから、何と返せば良いか分からない。それに、そのせいで余計な感情を抱くのも面倒だ。


「……ええ」


 結局、適当に返事をする。

 しかし、アイザックは、


「申し訳ございません。馴れ馴れしすぎましたか……?以後気を付けますね」


 と、眉を下げるのだ。


 今は何も知らないから、私にも優しく接してくれるのだろう。が、いずれは他の使用人と同様、私のことなど煩わしく感じるようになる。


 だからきっと、アイザックとのこんな関わりは、これが最後だ。

 

「……ええ」


 私は、彼の捨てられた子犬のような表情から目を逸らし、朝食を始めた。




 だが。


 アイザックは次も、その次の日も、私に声を掛けてきた。




 お読み頂き、心から感謝致します。慣れないロマンス(それも溺愛系!)ですが、少しでも貴方様の心を動かすことが出来たのなら幸いです。

 今後ともぜひ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
読ませていただきました。 『人形姫は、猟犬の溺愛に瞳を潤ませる』第2話は、感情を凍らせたガーネットの平穏という名の孤独な世界に、アイザックという美しくも異質な熱量が踏み込んでくる様子が非常に鮮やかに描…
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