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人形姫は、猟犬の溺愛に瞳を潤ませる  作者: 宍戸詩紫


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14/16

猟犬は、人形姫を溺愛する


 アイザックは、僅かな笑みを湛えたまま、凍りついている。

 きっと、どう説明するのが私にとって、そして、彼にとっても正解かを考えているのだろう。


 だが私は、この件を心に閉まっておくことは出来なかった。

 写真の女性のこともあるが、私が、アイザックの事を知りたかったのだ。

 これまで共に暮らしてきたが、私は彼のことを知らなさすぎる。

 だから私は、黙ったままのアイザックに、告げた。


「包み隠さず、話して。私は全てを受け入れるわ」


 これが、私からの、二度目のお願いになった。




 夕刻。

 帰宅したアイザックを、私はダイニングテーブルへと促した。なんだなんだとにこにこしていた彼だったが、席について、私が昼間に受け取った写真とメモを目にした途端、硬直した。


「これは、どうしたのですか?」


 アイザックは笑顔を絶やすことなく、ゆっくりと私に尋ねる。だがその声音は、いつもより少し低かった。


「贈り物部屋に、突然投げ込まれて。すぐに中を開けてしまったの」


 私は、正直に答える。


 アイザックにも、正直に教えて欲しかったから。


「『猟犬』って、何?あなたはそこで、何をしているの?」


 ────そして、冒頭に戻る。




 アイザックは一度、深く呼吸をした。

 そして、口を開く。


「クロム王国、王家専属の秘密部隊を、『猟犬』と呼びます。『猟犬』は、クロム王、並びに王族からの特殊な任務を引き受ける影の部隊、そして私は、その『猟犬』の副隊長を務めています」


「『猟犬』……」


 きっと、強い緘口令が敷かれているのだろう。そんな組織が存在するなど、知識が少ないながら私は聞いたことがない。父親も、知らなかったはずだ。


 しかし、アイザックが『猟犬』であるということは、一つの衝撃的な事実を思い浮かばせる。


 ────つまり、アイザックがローザン伯爵家に勤めていたのは。私と出会ったのは。私に優しくしてくれたのは。




 ただの、任務の一環だった。




 私が内心で動揺している間にも、アイザックの説明は続く。


「クロム王は、ローザン伯爵とカーノヴォン連合国との癒着を疑い、その情報を探るべくわたくしを派遣しました。それが、『猟犬』であるわたくしの使命でした」


 私は、頭が真っ白になる。


 ただ無条件に、私に親切にしてくれていた訳ではなかった。裏側には他意があり、利益を欲していた。


 私の胸は、つきりと痛む。


 アイザックが伯爵邸で私に向けてくれた微笑みは、嘘だったのだろうか。   


 いや。いやだ。


 認めない。


「……どうして、私に優しくしてくれたの」


 震える声で、私はアイザックに尋ねる。


 この問いへの解答が、私にとってのアイザックの全てだ。


 そう考えたからだ。


「わたくしには昔、親友と呼べる存在が一人だけ、居たのです」

 

 アイザックはふ、と目元を緩めて、話し始める。

 

「彼の名は、ルーク。わたくしはかつて、ひとりぼっちでした。幼い頃は友人が出来ず、むしろいじめられているばかりで。そんな中、近くに越して来た彼は、わたくしを助けてくれたのです」


 私は、意外に感じた。

 屋敷で目にしたアイザックは、とても人付き合いが上手だった。

 だから、そんな過去があったなんて、と俄には信じられない。


「そうして彼は、わたくしにとっての唯一無二ともいえる友人になりました。また、強い相手に立ち向かう強さや、人を助ける優しさをも教えてくれたのです」


 ここまで語ると、しかし、アイザックの表情は曇った。


「ただ彼は、わたくしの家族と共に既にこの世を去っています。そんな彼が、わたくしに残した約束がありました」


 私は、アイザックの過去を聞き入った。

 あまり自身のことを語らない彼が、ここまで赤裸々に話すのは珍しい。

 アイザックのことを知られて、心配ながらも嬉しいとすら感じる。


「『次は、お前が誰かを助ける番だ』。だからわたくしは、ガーネット様をひとりぼっちにしたくありませんでした」


 それに、とアイザックは柔らかく微笑んだ。


「炎の中、ローザン伯爵を殺してまで助けに行ったのは、ガーネット様を失うのが惜しいと、そう思ったからです。あなたの笑顔が一度でも見られれば良い。そんな、小さな理由でした。でも今は、」


 アイザックはここで一旦、言葉を切った。

 その後、意を決したように、きっぱりと言う。


「あなたの全てを、わたくしに見せて欲しい。わたくしだけに、見せて欲しい。そんな気持ちでいっぱいです」


 すると、アイザックは、私の手をふわりと握った。


「わたくしのために怖くても一歩を踏み出すガーネット様が。凍りついた心を溶かして笑うようになってくれたガーネット様が。わたくしは、愛おしいと思っております」


 私は、頬に熱が集まるのを感じる。

 愛おしい。それを、アイザックから直接聞けたことに、堪らなく胸が昂ぶった。

 

 だが、アイザックは首を横に振りながら、私から手を離す。そして、立ち上がった。


「ガーネット様のお屋敷に、嘘をついて潜り込んだことは事実です。ですので、わたくしを糾弾する権利が、ガーネット様にはあります」


 アイザックは、にこりと笑う。

 しかし、そこにはどこか、悲しさが漂っていた。

 

「わたくしのことを、嫌いになっても構いません。わたくしはもう部屋に下がりますので、明日の朝、ガーネット様の答えを聞かせてください」


 アイザックは私を置いて、ダイニングから出て行った。


 私は頭がいっぱいで、その背中を追うことが出来なかった。

 






 アイザックは、半ば諦めていた。

 もう、ガーネットと暮らすことは出来ないだろう、と。

 寝る支度を終え、ガーネットの今後の世話をしてくれそうな知り合いを脳内でピックアップしていた時だった。


 コンコンコン。


 ドアが、ノックされた。


 アイザックは恐る恐る、部屋の扉を開ける。 





 そこには、寝間着姿のガーネットが立っていた。


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