【8話】竜神探索譚Ⅴ
此のお話バアル(ベルゼブブ)の一人称ブレブレなので注意です。
(俺と私が交互します)
二人の神は囁き合う。
――お前は本当に何時甦ったんだ
――俺も予想外だったんだよ。此れこそ神の導きって奴か?
――面白くねえ類の冗談は嫌いだぜ?
――それもそうだ。然し此れに関しては本当に創造主の気まぐれとしか言えないと思わないかい?
――だな。にしても本当に俺達が又集まれるとは思わなかった。酒でも運んでこようか兄弟?
――遠慮しておくよ。神は酒を好むが今の状況は神とか判然としない。そんな状況での酒は良い結果は産まないと知っているからね。
――神と云えば…俺等は彼奴の嫁に散々だったなァ、
――ああ、俺の場合アスタルテだったな。変装していて判らなかったが一瞬でも見惚れたのが運の尽きだったな
――あれは傑作だったな。変装したアスタルテを貢物として寄越せって云ったから彼奴怒ってお前殺しに来たんだっけか?実際に殺しちまうから質が悪ィ
――そう云うお前もさ。身代りだったとはいえ彼奴を殺した事を素直にアナトに云っちゃうのは如何かと思ったよ。アナトがどれだけ彼奴に心酔しているのかは同じ兄弟同士だった奴等は身に染みて判ってるさ
――俺達も含めて、か。結果俺に愛しのダンナサマを殺されたと勘違いしたアナトが俺を殺しにかかった訳だが
――確か体を切り刻んで、石臼ですり潰し、燃やし、篩にかけて地に撒かれたんだっけ?死と干魃の神を地の栄養にするのは中々尖ってて好きだけど口にすればする程やり過ぎな気もするね
――当たり前だ。体を細切れにされた所為で復活するのに七年もかかった。
――体を一瞬で再生させてしまう君からは考えられないような台詞だね。
――其れもそうだな。
二人の神達は確かに元在った絆を確かめ合い深めていった。
*
相手の左頬を勢いよく殴った。
聞き手が左なので自然と左頬を殴る事に成る。
今は事務作業が元ではあるが元々はバリバリ肉体派でやっていたし二つの棍棒を振り廻して居た事も在る。ヤム=ナハルとは違う兄と毎日殺し合いをしていた時期すらある。其れが件のモトと云う冥界神だ。
今、其のモトの目の前で低俗な殴り合いをし殴っている相手は俺バアル事ベルゼブブが死ぬ程嫌っている相手ヤム=ナハルだ。死ぬ程嫌っていると云っても豊穣神は栄枯の象徴でもあるから死ぬ事は先ず無いがな。
一応今居る場は高天原の一部。加え冥府や死を司る神々の居住区でもある。
神は人間と同じで【死】を毛嫌う。
死とは穢れの象徴でもあるからだ。
【穢れ】は神が零落する一番の理由でもあるのは与太話だ。
普通の神々と先述した者達の居住区は分けられている、主に悪い方向にだ。悪い方向が有るならば良い方向もあるだろうという話だろうが良い方向と云うと俺の様な最高神、神々の王という肩書を持っている神は普通の神より良い所に住めるし別荘の様な物を設ける事も出来る。
極端に別荘を設ける神も居れば巨大な邸宅を設ける者も居るし――其処は趣味によって様々と云った所か。
話が脱線した。
詰まり此処も隔離されているとはいえ高天原の一部。悪魔ベルゼブブやベルフェゴール、バエルの姿では到底は居る事は愚か入り口を一瞥する事すら許容されない。
故に俺も豊穣神バアルと云う体で乗り込んだ。
では此処からは何故こうなったのかの昔噺と行こうか。
年の喰った者の昔噺、過去語り程疲れる事は無いかも知れないが如何か一見してくれればと思う。
*
クソ兄貴の左頬に殴りを入れる数刻前。
高天原の入り口前。バアルとフルーレティが―――
揉めていた。
「五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い!いいじゃん別に!今からクソ兄貴を殴りに行くの!問題ないでしょ!?いいじゃん!」
「公私混同!仕事と私情を分けて考えてください!莫迦でしょう貴方!?」
「あーいけないんだー!上司を馬鹿って云っちゃ!其れ以前に大丈夫だよフルーレティ、私は此れからだ只の私情で殴りに行くだけだから仕事じゃない!私情と仕事分けてるから!」
「あのねそう云う問題じゃなくてですね…!」
フルーレティは頭を抱え溜息をつく。昔からどうも自分が一度決めた事に対しては頑固な上司に頭を悩まされ続けるのは此れで何度目か。
高天原では基本警備が厳重で在りフルーレティの様な地獄の奥底に巣繕う悪魔は原則立ち入る事が出来ない正に神域。
穢れが一切ない高天原に普段穢れありまくりの所に住んでいるバアルが簡単に入れるのかとフルーレティは疑問に感じたが其処は流石は神々の王と云うべきなのか入口の門番に顔を見せ先へ行くという意思を見せるだけで手続きが進められている。
今は其の手続きを待っている最中なのだがこうして揉めていると云う訳だ。
双方の見解については
フルーレティ側は其処までしなくても良い
バアル側は只、殴りたいと倒したいの交差
きちんと公私混同はしていないらしいが其れでも良く分からない言い分。公私混同より子供の意地の様なそんなものが見え隠れする。
何がバアルをそうさせたのかはフルーレティ自身には想像もつかなかったがきっと奥底に在るものは単純なものであろう。そうフルーレティは自分の心の中で結論を付けた。
そして幾つもの考えを脳内に張り巡らせる
それか――――――
「それにさ」
考えを中断される様にバアルが震える手を隠し大きな声を出した。
「クソ兄貴が地獄まで乗り込んで来てたらどうすんの、恨まれてるの十中八九俺だし殺されるじゃん。迷惑かけたら俺がサタン様とルシファー様にバチクソ怒られんじゃん。もう一回殺しとかなくちゃ、」
フルーレティは最早呆れを通り越した無の表情を浮かべていた。
バアルは―――重度の心配性であった。
こんな神話が有る。バアルの心配性が顕著に出る物語だ。
或る年の或る日の或る時。
神々の王と成ったバアルの神殿が立てられる事と成り建設係を承った工芸の神コシャル・ハシスにバアルが云い放った。
――窓は付けないでくれ
何故かとコシャル・ハシスが問えば
――窓があれば其処から仇敵ヤム=ナハルが来るかもしれない。窓から妻達が逃げ出すかもしれない、
口から出たのは不安の一言。
だが創造主エルの実の息子で在り最高神に加え神々の王であるバアルの意向を無視し、
コシャル・ハシスは神殿に窓を付けた。
神殿建設は計七日で終わらせコシャル・ハシスは完成した神殿の姿を魅せた。
神殿建設前のバアルは神々の王でもあるのにもかかわらず自らの神殿が無いという理由で舐められ命令を聞いてもらえずにいた。
だからこれは待望、バアルが心から待ち望んでいた事柄なのだ。
バアルはコシャル・ハシスの手掛けた神殿を豪く気に入った。
そして窓はと云うと―――――
―――――此方も大変気に入っていたようであった。
バアルは窓が有ると稲妻走らせるのに便利と喜び
コシャル・ハシスは貴方様が雲に乗ってすぐさま飛んで往ける様に設計いたしましたと零した
という神話内容だ。
まあ詰る所バアルは重度の心配性なのである。
「アンタ莫迦でしょ」
「え、」
「神が地獄の底に来る筈ないって云ってたのアンタでしょ。竜神が来るか」
「いや分かんないよ、」
此処に来て謎にバアルは食い下がった。
「死から甦った神はその性質が変わる事が有るんだよ。実際クソ兄貴二号のオシリスも甦った事で冥府の神と成った。冥府の神は穢れに耐性があるから地獄の底まで来れるのだぞ。今回もその場合では無い事が保証できない」
屁理屈です。だが理屈は理屈。納得出来る部分も悔しいですがあります
言葉を切り地を見る。高天原の入り口は毎度の事ながら塵の一つも残っていない程に整えられている。
何処迄も何処迄も何処迄も白く無限に伸びている柱達は何を支えているのか。
荘厳な雰囲気のする二十米を超える黒光りの門。その傍に構えているのは天使が二人。
二人の天使は六つの翼を持ちした二つの翼で足を完全に隠し巨大な銛と槍を携え静かに目を閉じ場を警備していた。
六つの燃える翼を持っているという特徴から警備しているのは九つある天使階級の内位が一に匹敵する熾天使に値する天使達だろう。
神々を熱愛している熾天使達に神々の国高天原の入り口の警備を任せる。フルーレティは此の現場に毎度乍ら首を傾げ見ているのだ。己を崇拝する者に己の住まいの警備を任せる、フルーレティにはいまいち納得がいかなかったが神の思考何て納得いく方が少数だと考えれば自然と思考に終わりが出た。
「其れにヤム=ナハル神もモト神も昔に戦った相手。共に強敵だったが【バアルが零落した後】も私は強くなっている。相手には後れを取れないと断言出来るぞ。只病で弱体化して居るから五分の可能性が高いがな!」
「戦う前提に成ってるのが駄目なんですよ、気付きなさい」
不毛な言い争いに突如物理的にも精神的にも割って入って来た者がいた。
其の者は異様に冷静で中性的な声だったが其れでも異様に低いと感じる声で話した。
「入国準備が整いましたバアル様。高天原の皆々で貴方様の御帰還を心よりお喜び申し上げます。加えて、お連れ様である悪魔で在り上級精霊フルーレティ様は高天原への入国許可は下りませんでした故此の場で御退却願います。其方の手続きも完了致しました。二名纏めて御案内させて頂きます」
腰を九十度に折り丁寧な口調で接待されるのはバアルが居るからだろうとフルーレティは考えた。
恐らくフルーレティ一人だけでは邪険な態度をされていたに違いない。一応此方も上級精霊だが格としては此の中ではどうしても一番劣る。
「じゃ、私行くから其の間の館の管理は何時も通り任せたよ。フルーレティ」
多くの何処からか現れた天使に囲まれバアルの姿も人混みに紛れて来た。
フルーレティは泣く泣く
「………如何なってもレティは保証取りませんからね」
何時の間にか髪を下ろしたバアルは其の言葉に微笑んで天使達と共に何処かへ消えていく
因みに云うとフルーレティの案内係の天使は一人だけだった。然も普通の天使。天使階級で云えば一番下だ。
天使階級が全てであると勿論フルーレティも思ってはいない。
だがあの常に駄目上司は熾天使大勢。此方は普通の天使一人。
如何ともない。如何ともない。
だが物凄い対応の差を感じたのは云うまでもない
其れと同時にベルゼブブ、バアルは本当に最高神で在り神々の王だとフルーレティは認識しなおす事と成った。
*
そして案内が在った俺バアルは速攻死と冥府の神々が住んでいる場所へと急ぎ殴り合いの喧嘩を始めた。
だが今は
「普通に、論理的に考えても見ろ今時其れは流行らない」
「バアルも頭が固くなったんじゃねえか。地獄に数千年も居座っているせいで脳にまで穢れが行き渡っちまったか?あ?」
「おやおや死こそ穢れの塊。穢れが脳に居付いて思考回路が狂っちまったのはそっちだろ?なあモト兄様?」
「二人とも何してんのさ……」
ヤム=ナハルが呆れ二人に挟まれつつ左頬を腫らしている。
そう場はヤム=ナハル対バアルの殴り合いから移行し、
バアル対モトの口論に発展していた
次の投稿は3/24です




