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【バアルの零落物語】  作者: 壱千羽
序章
4/7

【3話】怒りや焦りやなんらやら

 


 さてさて、此れは重篤な問題だ。


 サタン様の通告に取り合えず皆々席に座って妙なシンとした空気が漂っている。そして話題の当の本人であるベルゼブブは顎に手を当て瞼を閉じ思惟する



 私ベルゼブブの兄が(よみがえ)った?


 否、恐らく【兄】は豊穣神バアルの方の兄弟間の話だろう

 ヘリオポリス九柱の【セト】の方にも兄は居るがあっち(オシリス)はもう既に甦っているので今更話題には上がらないだろう




 然しはて、



「うち七十人兄弟なので誰が死んだ甦ったかは凡ては把握しておらずですねサタン様」


「ああ…そんなもん?…」


「そんなもんですよ神なんて。今でも兄弟全員が何処に居て何をしているかなんて把握していませんものを。抑々私今は地獄に住んでて高天原の情報は余り入っておらずですねええ」



 にしても嫌な予感がする。背にじんわりと嫌な汗が滲むのを感じつつも話題に耳を傾ける。



「して、甦ったという私の兄弟は誰ですか?」



 まあ神が甦る何てこと滅多に無いし。


 死なない神と云うのは居るには居る。

 私の様な豊穣神や死を司る神、不死鳥なんかも死なない神だ。加えギリシア神話の神々は不死と成った存在だ。代わりにプロメテウスが鷲に喰われ続ける命を背負ったが。


 然し逆を云えば神だって死ぬのが当たり前で通常。火の神である火之夜藝速男神(ホノヤギハヤヲノカミ)を生んだことによって死亡した伊邪那美命(イザナミノミコト)等が有名だ。


 詰まり死なない神は神様の中でも一部限りの話なのだ。


 まあ今の現代では誇張され神は凡て不老不死と思って居る風潮が有りそうなのが又。神を超自然的なナニカだと考えている人間から考えてみれば()も有りなんと云った感じである。


 同時に言えば死んでも甦る事は生物と同じく在り得ない。だが世の中想定の範囲外の事なんて幾らでもある。求められるのは想定の範囲外に即座に従順出来る順応な能力か即座に判断できる判断力だ。


 故に私は心を穏やかに此の事態に対処――




()()()()()()という竜神だね」



「………」



「………?」



「………ス」



「え?」



 視線を下に、首の角度を下げ自身の脚を眺める。下を向き過ぎて表情は窺えない。

 然し微か乍ら聞こえて来た声の声量がどんどん上がってくる。


 そして遂にはっきり聞こえた言葉。



「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス―――」


「こっっっわ、」



 ベルゼブブの突然の殺害予告に場は戦慄した。

 当の本人であるベルゼブブは怒りの余り立ち上がり机に拳を叩きつけ自らの論を思うが儘に口から吐き捨てた。



「くッッそ彼奴甦ったのかよあのクソ野郎、一生死んどけよがクソッッッ。あの元邪知暴虐の王がよぉ…」


「急に走れメロスの登場人物を…」


「俺の事奴隷呼びしたのも、もう永遠に許してねえからなクソ兄貴がッッ」



 次の言葉はアスモデウスが謎に話に割って入った際に出た言葉だった。



「話聞いただけならお兄さん随分と悪ですねぇ」



 自身の座ってた肘掛けに頬杖を附き気色の悪い笑みを浮かべ此方を見る。眼鏡を掛けてる(くせ)鏡玉(レンズ)越しからでは無く上から、其の紫の瞳で此方を覗き見る。



「聞いた事有りますよ。」



 元々釣り目気味の目をより一層細め語りを続ける。



「むか~しむかし、創造主【エル】又の名を【ヤハウェ】とも語られる神が地上の王として先程名が出た海と川を司るヤム=ナハル神を推し無事ヤム=ナハル神は神々の王として其の座に就いた。加え其の時地上の王として立候補していた物の中には貴方の名が在った。元々の立候補者は貴方とヤム=ナハル神だけらしいですしね」


「………」


「然しヤム=ナハル神は神々、地上の王に成った途端に豹変。税の徴収を上げ夫人が身に着ける様な(ささ)やかな装飾品(アクセサリー)すらも徴収したと云います。全く今の時代の人間も税の徴収に音を上げていますが其れ以上に遥か前。地上が出来上がって直ぐの頃から税の徴収に悩まされている人々…いいえ?神々がいたとはねェ」



 相変わらず人を見下したような表情を張り付ける奴だ。然し私は人間では無いし悪魔神々共に高位を獲得している。見下したような視線で見られるだなんて其れこそ…


 其れで興奮が冷めたのか一応冷静に成って再び席に着く事が出来た。



「……はぁお前其の気色悪い顔を見てると精神落ち着いてきた。」


「うふふ、其れは何よりです」



 皮肉にも屈せず直ぐに話を切り返す部分はまあ尊敬出来る所は或る。が、此奴(アスモデウス)は基本的に私は好かない。先ず全体的にニコニコしている風体が気に入らない。

 そう云う輩を種族問わず大勢見て来たからだろうか。



「何じゃ空虚への戯れは漸っと終わったか。然し普段毅然としている貴様が取り乱すなど…実に良いものが見れた。レヴィアタンの吐息が終始掛かり苛立ちの余り寝首を掻いて遣ろうとでも考えたが、此れで帳消しに出来るの」


「僕に対してそんな事を思って居たのかい…マモン」


「当り前じゃろう貴様普通に邪魔なんじゃ。妾の愛しき財宝を際立たせる最高の調味品(スパイス)の一つである光を断つ時点で永遠の拷問を味合わせたい程の屈辱なのじゃぞ?貴様の配下の奴婢(どひ)何名かの首を妾直々に跳ねてやろうかの?」


「否…普通に辞めてよ…」



「はいはい皆落ち着いて~」



 手を幾度と叩き場の空気を沈ませる魔界の大王様は少々顔に怒りを滲ませ乍ら続ける。



「全く、仲が良くないのは先刻以前から承知の上だけど一応皆【七つの大罪】って云う括りの中に入ってるんだから仲間意識とか無い訳?」



 サタンが問い皆の顔を順に眺める。我の言葉に反応する者は居ないのか、とでも言いたげに。

 然し実際は誰も反応する事無く周りの悪魔達の顔をサタンと同じように眺めるだけであった。



「…そんな気はしてたけどさぁ。」



 サタンは宙へ向かって一息ついた



「数千年近く過ごしてきてね迂生(うせい)は君達の相性がバッチリ解って来たよ。レヴィアタンとマモンは仲悪いし」



「むっ」


「そりゃあね…」




「アスモデウスは話とか何時も引っ掻き回すし」




「おや、そうでしょうかね?」




「ルシファーは喋らない」




「……」




「唯一まともに仕事するベルフェゴール(及びベルゼブブ)は特大地雷有りの扱い注意符号(マーク)付き」




「えへへ……」




「全く、君達を纏めるのは骨が折れるよ、」



「何を言って()る骨など全く折れていないでは無いか」


「そう云う所ね」



 本題から大幅にずれ話が進まないのは全く持って何時もの事である。逆に其れが習慣の一つとも云えようか、しょうがないと云えようか。



「じゃあ本題に戻るね【海と川を司る竜神ヤム=ナハル神が甦ったという噂】此の真否をベルフェゴールに確かめて欲しくだね」


「はい!サタン様」



 威勢よく手を上げるベルゼブブをサタンは渋々受け流す事無く聞き入れた。

 渋々だが



「…はいベルフェゴール君」


「死ぬほど嫌ですが辞退して良いですか!」


「駄目です。」


抑々(そもそも)私達がクソ兄貴の生死を確認する意義とは!?」


「神とか天使とか迂生(うせい)らの商売敵なんだから確認しといた方が良いでしょ」


「何故そうなるのか、馬鹿ですか?」


「立場上の人に向かって其の言葉遣いかい…?」


「私の方が武力は強いです」



 其れはそうだけど、と云った顔を浮かべサタンは溜息をつく。



「兎に角そういう事だから、はいはい解散解散ね!」



 掌同士を何度も(たた)き強制的に離しに終止符(ピリオド)を打った。此れに関しては解散の合図で在り悪魔の王であるサタン様が此れをやったからには強制的に解散しなければならない。


 (しか)し参ったなもう少し長引く想定だったし



 其れに————



(仕事途中で投げ出してきたから今帰ったらブチ切れ状態のフルーレティ―が居るんだよな…)


 ものっ凄く帰りたくねェ……



 苦悩するベルゼブブを余所に皆は帰路につく準備をし始めるのであった。




 *



 七つの大罪定例会議後————


「今日も喋れなかった……」


 一人だい反省会を開催するルシファーの背は自然と丸視込まれていた




奴婢どひ

意味:召使いの男女


加え最後の辺りサタンが


「ベルフェゴール(及びベルゼブブ)」


と云ったのは一旦怒りが収まったとは云え度死ぬほど腹を立ててるベルゼブブに今この名前を呼ぶのは流石に不味いと思ったからです。

ベルゼブブが「ベルゼブブ」という名前自体にかなりの特大地雷が仕込まれているのを七つの大罪の皆々は知っている訳です。

まあそんな事もお構いなしにベルゼブブベルゼブブベルゼブブと呼ぶがマモンです。彼女はそういう奴です。


次の投稿は3/19です




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