【9話】竜神探索譚Ⅵ
バアルとモトの口論は接近争い下に在った。
「抑々今時此の格好も無いんじゃないかな?上裸、昔の神々の人間からの想像には合っていると思うけど今じゃ高天原の中心部で其の格好で出かけたら法順守違反になっちゃうと思うけど」
「其の人間基準の法順守違反を派手にやらかして零落したのは何処の何奴だか」
【死と干魃の神】モト
能力:死と干魃を司る、【次元渡航】、己の再生
「お前……本当で痛いとこつくのは辞めろよ…云っちゃいけない事って判る…? あ、心が沈む…」
バアルは自身の胸に手を当てた。
そして憎らしそうに呟く
「ヤムも本当に人型に成ってるし……あーーーーー何だか一気に疲労が…」
今眼前に居るのは、其れより此の場に繰り広げられている状況は高天原の歴史的な観点から見ても非常に稀なものである。
高天原の歴史など膨大過ぎて書類を整理しようとする者は誰一人現れないが。
海と川を司るヤム=ナハルは竜神だ。
青く強固な鱗に身を包み強風を巻き起こしそうな程にも逞しい翼を持つ竜神。
然し今は現在ぼんやりとだが確認できる姿
紫よりかなと思う青髪に黄色の瞳。枝分かれした角を頭に二本生やし灰色の衣を身に纏っている。
以前の様に着飾らない非常に単調な格好をしているヤム=ナハルは見ている者は不思議ととても変な気分になった。
加えて人型だ。
何時の間にそんな能力、死んでから手に入れた能力の一つだろうが、他にも能力を持ち合わせているのだろうな。
もう一人の神モト。
黒い髪に黒い眼、全て燃え尽きたかのような黒ずんだ鈍い光を放っている。腕には幾つもの数珠の様な玉飾り。頭には羊の骨を着用し頭のみならず腰などにも何かの骨を施している。後上裸だ。
上裸は今の法順守的には如何かと云ったら正論で返された。頼むから其の事を突くのは如何か止めて欲しい
「……状況を整理するぞ」
【海と川を司る神・元神々の王】ヤム=ナハル
能力:海と川を司る、姿の変化、【次元渡航】
憎たらしくもあり甦った今回の主役、ヤム=ナハルが冷汗を掻き手を挙げた。
「先ずバアルが此のモトが支配する冥府に乗り込んで俺の左頬を殴った。次に取っ組み合いの喧嘩に成りかけてその次にモトが仲介して言葉の言い合い、其れが発展して今こう成っているのだが……何か云いたい事のある者挙手」
ヤム=ナハルは手を挙げた儘、バアルもモトも挙手する。
辺りは静まり返る。元々モト支配下の冥府は殺風景であり面白みのない所だ。辺り一面朽ちた後の様な砂に似た粒が覆い実際に枯れている木も幾つか生えている。其れだけだ。
冥府には死んだ者達が集まるが其の者達の姿が不自然な程に見当たらない。
見つからないようにする為に態々人払いをしたのか、嘘やん、阿保でしょ
「取り合えず全員云いたい事が有るってこったな。じゃああれだな立ち話もなんだし上がってくか?」
モトが不意に声を出した。
其れよりも気に成る言葉が一つあった。
あがる?え?何処に?
バアルは唖然として辺りを見渡すが何もない。荒廃した後の生物一匹すらいない寂しき世界という感じがする。
家等と云う物は到底見当たらない。
果たして何処に案内されると云うのか、
*
持て成されて居る、
とてもとても持て成されて居る。怖くなってきた。
こんな持て成すなよ逆に怖くなってくるじゃないか。待て待て本当に怖い俺なんかやらかしたか、モト兄様が腹立てる事を云った記憶が無い。怖い、久しぶりにモト兄様がすっごい怖い
目の前の長机に並べられた料理は豪華であり屋敷の全体は整えられている。屋敷の使用人達は愛想を振りまき此方に挨拶をし啞然とした儘此の客室に通された。
荘厳なシャンデリアは白い壁と天井に囲まれている。バアルの地獄に構えている館とは違い大変物静かであるのはバアルの館には多くの悪霊が住んでいるからなのか其れともモトの屋敷には死の気配が纏わりついているからなのかバアルには判断しかねていた。
「なんか……想像以上に凄い…モト何時の間に……」
ヤム=ナハルも驚いているそうで驚愕の言葉を引きつった口から洩れさせている。
勿論だがヤム=ナハルもバアルも此の屋敷に驚いている訳ではない。新旧神々の王達にも此れよりも巨大な屋敷を持っていた事が有るし此処よりも多くの使用人が居た。
問題は何時も一人で飄々としあの寂しげな冥府で寝転がってたりして暇をつぶしていたモト。
頭には羊の骨を付け数珠も骨も大量につけているモト。
そんな想像しか無かった。だが此れだ。想像とかけ離れ過ぎて頭の処理が追い付かないのだ。
「………モト……兄様、屋敷何て……持ってたのですね……」
「急に如何したバアル。兄様何て呼び方幼小以来だぞ」
「否……其の……あはははは」
呆れた笑いしかバアルは浮かべる事が出来なかった
「其れで何で態々こっちに来た?バアル」
改めてモトに聞かれると悩ましいものである。
理由を聞かれようにも上手く言語化が出来ない。
「………私情。ヤム=ナハルが甦ったと噂に成っていたからな、確認と殴りに」
「実際に殴られたしね…」
赤く腫れた頬を撫でるヤム=ナハル。不思議と悪い事をやったとは思えない。自分の中でも其処迄ヤム=ナハルの評価が落ちている事を実感させられた。
ヤム=ナハル神は本当に改心したのかと思う程、波風立てない穏やかな性格に成っている。其れこそ、昔から考えると考え着かない程に。
死んでから性格や何もかもが変貌したのかと疑う程だ。
「にしてもヤムが甦っている事が見事に噂に成っているとは」
此の屋敷の主モトが怪訝な顔を浮かべ云った。
「高天原を歩けば人目に付くとは思って居たが…眼に付いたのがフェニックスだったから放って置いたのだが基本放任主義だからな」
「残念だが神フェニックスは放任主義で基本何にも干渉しない主義だけど悪魔フェネクスの方の子は凄い生真面目。忘れた?」
「そいつが高天原を出禁に成って何年だと思ってるもう千八百年位だろう覚えてるか」
もうそんなに前に成るのか。
猩々緋色の髪に蒼い瞳をした少女が脳裏をよぎる。何だかとても懐かしい気分になるのは気のせいだろうか。
背凭れに体重を掛け天を仰ぐ。天井すらも星が満ちる夜空を再現した絵画が描かれていた。何処迄も細工に拘っているのかと逆に興味が出て来た。
「其れで、本当にヤム=ナハル。貴様には俺に敵対する意思はない、そう云う受け取り方で構わないんだな?」
「ああ構わないよ。甦った事で失った力と新しく手に入れた力が有る。此の不安定な状態で君と敵対するのは余りにも危険極まりないからね、其れにもう敵対する気は無いし。他の神々とも同じ何か派手に事を立てる予定は何一つないよ。」
肩をすくめやれやれと云ったように首を振った。首を振りたいのも呆れたいのも此方なのだがな。
然し今の神々の王はバアル、俺なのだ。創造主と同じ神々の王以外なら顎で使える程の権力が有る。懸念点は少し他の神々に舐められているぐらいなだけだ。
俺もヤム=ナハルが元遣っていた事と似た様な物を遣ろうかと考えたが辞めた過去がある。
時間をかけ過ぎた。仕事も有る為そろそろ戻らなければならない。
椅子から立ち上がり既に食べ終えられた食器を眼前にバアルは宣言した。
「じゃあ俺は忙しいから帰るな。又部下に土産物でも送らせるよ」
場に背を見せ別れを告げた。
場に居る一人の神モトが此方に声を掛けた。
「もう帰るのか?」
「ああ、こう見えても忙しいんでね。フルーレティとタルキマチェに仕事を任せているしね其れにフルーレティは早く戻らないと五月蠅いし、」
言葉を切り足で床を何回か叩き魔法陣を呼び起こす。幾何学的な模様を床に描き不可思議な光を放っている。
【次元渡航】の力だ
神は皆持っている其の力は次元を渡り空間を渡り時すらも渡る事が出来る。平行世界へ移る事や地獄から人間界への異なる界への移動も可能となる。
移動方法は魔法陣に身を包む事。其れすらすればどんな場所へでも移動する事が可能となる。
高天原に入るのには門を正式に潜らなければ不法入国の扱いに成るのだが出る時は自由。どんな方法でも例えば此の様な【次元渡航】の力で出たとしても何ら問題を言われる事は無い
待て、であればサルガタナスから移動要請する必要は無かったな。最近使って居ないから忘れていた。
「最高神バアルの神殿には挨拶して行かないのかい?」
ヤム=ナハルが云う事か。と思ったが素直に質問を返しておく。
「行かないよ。別荘ならまだしも」
「何故?」
「…………否ぁ…」
ヤム=ナハルは忘れてしまったのだろうか其れとも判っていて詰め寄っているのか。判断しかねその顔を見る。
明らかなる笑顔を浮かべていた
コイツ確信犯だ。
バアルは冷汗を掻きつつ漸っとの思いで続けた
「判るだろ本殿には………アレが居る…」
「自分の嫁であり妹を禁句扱いか、そうしたい気持ち判るけど。本人が知ったら泣くよ?」
「揶揄いはよせ、本当に…もう何と云うか………怖いんだもん怖い。んじゃ帰るから!」
発動―――――――【次元渡航】
バアルは其の場に煙を巻くように消え其の場に残ったのはモトとヤム=ナハルだけに成る。
残った二人は微笑み言葉を続けた。
「まだ殴られた痛みがじんわりと残っているねぇ。ピリついているから雷でも纏って殴ったんだろうね。全く嵐を司る神とは恐ろしいものだよ」
「能力の精密さや単純な強さは他の神々からも頭一つ抜けてるんだぞ彼奴は。俺らも一般の神から見れば戦闘力は高い方だがアレはそんな俺等を上回っているんだ。恐ろしいのは今更だな」
「はぁ……うちの弟は末恐ろしいものだね」
ヤム=ナハルは苦笑いを浮かべバアルが居た後を眺める。
そして再度溜息をついた。
「甦った後も其れは其れで大変なのだねぇ」
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