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窓辺の距離その1

この作品は、建築を学ぶとある学生の目を通した日常の境界についての物語です。

普段当たり前に存在する空間の輪郭が、出会いや揺れ動く感情によってぼやけて少しづつ変化していく。

日常に置き去られた気持ちをすくいとるように、新たな物語を創っていきます。

「んんんん・・・・これも違う、」


行き詰まった。いくら考えても進まない。

テレビ台に置かれた小さな時計の針同様、おれの思考も同じ道を巡るだけでひたすら時間だけが進んでいる。


「住まいの境界ってなんだよ」


ため息まじりに、嘲笑するように、そして諦めるように口からこぼれた。



幼い頃から自分の家を建てることに憧れ、団地の小さな部屋の一角で、ポストに投げ込まれた建売チラシの間取り図を宝の地図のように見ていた。


その頃の気持ちを抱えたまま大学に進学。もちろん建築学科だ。


一年は高校の延長でしかない物理、数学、英語を淡々と学んだ。2年の10月、ようやく設計課題が始まった。待ちに待った設計だ。


・・・しかしなんだこれは。まるで概念を考えるような課題「住まいの境界」。


今までそんなこと考えたことなかった。


境界なんてものは目に見えてそこにある。壁、床、天井、扉。

玄関の扉が家の外と内の境界だ。そうに決まっている。


だが違うと教授は言った。


紙の上で考えていても埒が開かない。おれは立ち上がり部屋を見回した。


どこにでもある学生アパートの角部屋。玄関入ってすぐのキッチン。その先8畳の部屋一つ。


狭いとは思うが全てに手が届く。このコンパクトさを気に入っている。


「この家の境界はーっと、、、あっ、」


その瞬間、境界を見つけた。


東側の窓越しに女の人影が見えた。向かい合う数メートル先の窓越しにその人影は住んでいた。


これまでは窓の外なんて気にしたこともなかった。

(今の女の人影だよな。今は何か忙しそうに行ったり来たりして何してるんだ。)


あの人影が誰で何をしているかわからないけど、確かにそこには生活があった。

(もしかしてこれが住まいの境界なのか、てことは、)


ガラガラ


そんな事を考え眺めていると、その人影は徐に窓を開けた。


「あっ、」


目が合った。彼女は少し驚いた顔をしたがやさしく微笑んでそっとレースのカーテンを閉めた。


綺麗な人だった。歳はおそらく二つくらい上の学生のようだった。


それをおれはなんの反応も示さないまま見ていた。焦りと照れと、なんだか後ろめたいような複雑で変な顔をしていたのだろう。


それを見て彼女は微笑んだのだ。


数メートル先の彼女の生活が、目に見えない境界を跨いで入り込んできた。


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