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#04:偶然、その2

「ちょっと時間掛けすぎたかも…」


 特売の時間が丁度始まったからといって、つい買い過ぎてしまったことも反省する。

 朔馬が丁度扉を開けようとした時、何やら楽しそうな声と共に隣家の扉が開いた。


「えーカレーでしょ…って先輩⁈」

「えっ?」

「わーすっごい偶然!」


 三姉妹がこんばんは、と朔馬を見る。


「こんばんは。皆さん揃ってどこか行くんですか?」

「それがね、うっかり夕飯の材料切らしちゃって」

「今からみんなで買いに行くんです!」


 そう言う姉妹を見ながら、朔馬はふと不安がよぎる。

 辺りはすっかり暗くなっており、女子だけで外に出るには少々危険な時間帯である。ましてや、こんな美人な姉妹だ。隣人として止めるべきか、朔馬は迷った。


「でも、大丈夫ですか?最近は夜の犯罪が増えてきていますし…」

「大丈夫よ!…とは正直断言できないかな」


 怜世が少し眉を下げる。その後ろで、大丈夫ですよ!と夏芽が言った。


「パーッと行って、パーッと帰ってくるだけですから!」

「でも夏芽、最悪なことっていうのはいつ起きるか分からないって言うよ?」


 うーん…と頭を悩ませる姉妹達を見て、朔馬は慌てて謝る。


「あぁでも、その分警備体制も整ってきているとも聞きますし、そんなに構える必要は…」

「…うん、そうだよね!」


 ご心配ありがとうございます、と感謝を述べる姉妹達。

 エレベーターに向かっていく姿を見つめながらも、朔馬の心にはまだ心配が残っていた。

 しかし再び声を掛けるのもしつこいような気がし、くるりと家の前に向き直る。

 そして扉を開けようとした時、ついさっき行って来たスーパーの袋を提げていることに気が付いた。

 その途端、殆ど衝動的に声を掛けていた。


「ただいまー手伝えー」

「はいはーい。おいこら千夜、お前もだぞ」


 思ったよりも遅く帰って来た朔馬に伊澄は返事をし、玄関に向かった。

 そして朔馬から荷物を受け取り「意外と遅かったな」と言う。


「まあな。丁度特売の時間が始まって色々考えてたら遅くなった」


 伊澄の頭には、特売の札が掛かっている商品と睨めっこする朔馬が想像された。

 「にしても多いねー」と言いながら軽々運ぶ千夜を見、朔馬はあ、そうだ…と伊澄達を見る。


「今から人が来るんだが、大丈夫か?」

「来客?別に大丈夫だけど、急にどうした…」


 伊澄の疑問はピンポーンという電子音に遮られた。

 荷物を置いた千夜がパタパタと玄関へ走り、はーい…と扉を開ける。そして、え?という言葉と共に、こんばんはーと透き通った綺麗な声が耳に届いた。

 少し驚いて玄関の方を見た伊澄の目には、信じられない光景が映っていた。


「お邪魔しまーす!」

「まさかこんなことが起きるなんてね…」

「本当、ありがとう」

「いえいえ、先程のお礼だと思って下さい」


 もう会う機会はないと思っていた三姉妹が家に入って来たのである。

 伊澄は驚きのあまり、持っていた荷物を落としそうになった。

 ちらりと伊澄を見た千夜が、そのまま固まる伊澄の手からサラッと荷物を奪う。


「ほーら、ぼーっとしない」


 お前に言われるとなんかムカつく…と思ったことでハッキリ意識が戻る。

 しかし目の前に広がっている光景はなかなか飲み込めなかった。


「えーっと…さっき振りですね…?」


 精一杯考えた言葉を口にすると、途端に情けなさが込み上げてきた。

 次は何を言うべきか頭を回していると、夏芽が伊澄の隣に立っていた。


「はい!また会えて嬉しいです!」


 そして、キラキラ〜という音が聞こえるほど明るい笑顔を見せる。

 そんな夏芽が、伊澄には救世主以上の存在に感じられた。


「つまり全員で夕飯ってワケねー」

「そういうことだ」

「ほーい。何作るの?」


 そう尋ねた千夜に、まな板を用意しながら朔馬がニッと笑う。


「カレーにしようかな、と」

「カレー⁈」


 朔馬の回答に誰よりも食いついたのは千景だった。

 瞳を宝石のようにキラキラと輝かせる様子を見、朔馬はふっと笑みを溢す。そのことに千景も気付いたのか、すぐにハッとする。


「あ、いえ!これは、その…!」

「千景、ずっとカレーが良いって言ってたもんね」

「なっ、夏芽!」


 千景は少し顔を赤くしながら夏芽の頬をむにゅ〜っとする。

 ひゃーと夏芽が声を上げると、全員の顔に笑いが浮かぶ。

 はははっと笑いながら、伊澄は自分の緊張が解けていることに気がついた。


「じゃあ、早速準備しようか」

「先輩!アタシ手伝います!」


 勢いよく手を挙げる千景の姿が、伊澄にはまるで元気の良い犬のように見えた。


「何…そんな笑って」


 無意識のうちに笑っていたらしい。千景が怪訝そうに伊澄を見る。


「いや、そんな反応出来るんだなって」


 学校での千景は、ここまで食いついた反応をしないというか、全体的にサバサバとして広く浅く交流を持つタイプだ。あまり人と関らず、隙を見せないどころか誰も懐に入れない。クラス内でクールビューティーと囁かれているのを伊澄は耳にしたことがある。


「いつも冷たくて悪うございました」

「そういうことじゃなくて…そっちの方がなんか良いなー、て」

「そーですか」 


 ムッとしながらも内心少し嬉しそうな千景を見、怜世と夏芽は微笑んだ。


「それじゃあ、みんなで手分けして作りましょう」

「はーい!」


 そして、分担を決めた後早速各々の作業に取り掛かった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

最近書くのが楽しくて、気付いたら1時間以上経っていることもよくあります。

もう少し投稿する量を増やそうか検討中です。

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