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きっとエリザベートはヘンドリックと結婚して幸せな生涯を送りましたという物語に違いない。ヘンドリックは成功した商人みたいだし、優しそうだし、きっと幸せになったはずだ。その当時結婚せずに女の人が暮らしていくことなんてできるはずがない。
ヨハネスのことも淡い昔話になったのだろう。ヨハネスを思う気持ちも次第に褪せていき現実の日々に紛れていくだろう。まだ若いのだから新しい恋に飛びついて楽しんだに違いない。絵里はもう一枚のメモを残して自分なりの筋書きに納得していた。エリザベートに幸せになってほしい。
「絵里、このままオランダに残らない?」
スティーブンが思い切ってやっと言ったこの一言を絵里は真に受けなかった。
「だって、一年の約束だから産休明けてフランスから人がくるよ。彼女に引き継ぐから大丈夫だよ。」
「いや、仕事じゃなくて・・・」
「仕事じゃなかったらビザないから帰らなきゃ。」
「何とかなるよ。一緒に暮らさない?」
プロポーズ?何?どうしたらいい?スティーブンの愛情は抱えきれないほど感じていたけれど、自分が愛しているのか絵里にはまだ確信が持てなかった。一緒にいれば楽しい、安心する、それは愛情なのだろう。でも愛しているのか。
ハンスを愛した時の愛があるのか。スティーブンの言葉は嬉しい。有難い。素直にそう思う。このまま一緒にいたらこの愛はハンスを愛する愛に変わるのだろうか。形も中身も色も熱さも濃さも変わっていくのだろうか。わからない。何か返事をしなければ。スティーブンを困らせたくない。
「・・・少し時間をちょうだい・・」




