表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終の人  作者: 百島圭子
28/39

28

 いつもの土曜日。ヤンの店には数人のお客が熱心に古道具や古本に見入っている。変わらない古い空気の匂いに絵里は安らいだ。


店の隅に飾られた木箱は長財布くらいの大きさで高さが五センチくらい、アールヌーヴォーのデザインのような草花が彫り込まれている。おそらく緑で塗られていたのだろう。ほとんど塗料は剥がれ落ち深い溝に少し緑の名残が見られる。蓋は開かないけれど箱として使うより彫刻として飾っておくほうがいい。もう十分仕事はしてきただろう。


「綺麗でしょう。三百年くらい前の書箱(ふみばこ)だよ。そのデザインが流行ってた頃だから。」


ヤンはいろいろと当時のことを説明してくれる。十七世紀のオランダの繁栄、貿易、貴族、商人、教会。絵里は自分の住む家と同じ年齢の書箱に急に親近感がわいてくる。滅多に衝動買いなどしない慎重さが骨董品屋ではみつからない。


「高いんでしょ、この箱?」

「120で売ってるけど、絵里なら100でいいよ。」


三百年前の書箱が100ユーロ。絵里には相場がわからない。そんなに珍しいものじゃないのだろうか。しかしなぜか惹かれる。


「もらってく。」

「じゃあ、このボタンおまけだよ。好きなの持っていって。」

「ありがとう。」


絵里はボタンが山盛りにされた器から木でできた一番大きなボタンを手に取った。誰のコートについていたんだろう。オランダ人?長年ご主人様のコートに寄り添って、終焉を得体のしれない東洋人の手の中で迎えるとは・・数奇な運命に心を馳せる。


書箱のステージを部屋のどこかに見つけなければならない。家の中心に鎮座してもらうことにした。おそらく暖炉があったであろうリビングの壁には旧暖炉の上に板が張り出している。すでにいくつかの植木が自分の居場所として主張しているが、その間に置くことにした。蓋の美しい彫刻が見えるように立てかけてみた。


本当にこの蓋は開かないのか。絵里の好奇心はナイフを持ち出して書箱をこじ開けようとする。絵里の慎重さは箱を傷つけることを恐れる。無理やりナイフを当てたら確実に箱に傷がつく。ヤンだって試したに違いない。開けたら売り物にならなくなるからきっと止めたんだ。絵里の好奇心はどうせもう自分の物なんだから壊れたってどうだっていいじゃないかと急かす。最後は合理的な絵里が采配を握り、書箱は傷を負うことになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ