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終の人  作者: 百島圭子
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十月が近づくと肌寒くなってくる。夏は二、三日しかなく、扇風機すら必要なかった。長い秋、部屋に差し込んでくるお日様の位置が日に日に高くなる。もう床には日が指さなくなった。


午前三時、絵里はぱちぱちと弾ける音で目を覚ます。外で何か起きているのか、眠りの世界に片足を置いたまま重い体を音のほうへ動かす。外ではなく音の正体は家の中にあった。天井の梁から水が滴り落ちている。雨漏りなんて初めてだ。絵里はなんだか笑いたくなる。取り敢えず不動産屋にメールしておく。床がタイルなのが有難い。雑巾を滝つぼに投げて、片方の足をもう一度眠りの世界に戻す。


「おはよう!滝ができたって?見に来たんだけど。」


ドアの外に立っている作業服の髭のおじさんを部屋に通す。子供の時に読んだ不思議の国のアリスに出てきた人だ。


「おはよう、そうなの夜中に滝が流れ出して、こっちだから、見て。」


早速、朝から作業の人が来てくれた。しかしどうすればあんなに太れるのだろう。骨の作りからきっと日本人とは違うのだろう。オランダ人の規格の違いに絵里はいつもダーウィンを思い出す。


「雨が入ったのかな。屋根裏を修理していくよ。当分は大丈夫だろう。」

「ありがとう、お願い。もう夜中に起きたくないから。」

「古い家だから仕方ないねぇ・・」

「どれくらい古いの?」

「三百年以上だろう、軽くね。十七世紀の終わりごろだよ。」

「三百年?!」

「俺と同じで古いから修理しないと。」


髭のおじさんを不思議の国へ見送り、受験で叩き込んだ日本史の知識を蘇らせようと沈黙した。三百年前。井原西鶴、徳川綱吉、元禄時代、新井白石、享保の改革?松尾芭蕉が奥の細道を作っていたころにできた家なの?江戸時代中期後半ってところか。絵里は床のタイルを踏みしめてみる。


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