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「どうしてる?元気?」
無邪気なハンスのテキストは喜びよりも驚きで圧倒してきた。何か月ぶりの連絡だろう。絵里は鼓動が急に激しくなるのが憎らしかった。オランダにいるとは言わない。
「近所の公園で桜を見たんだ。こんなところにあるとは知らなかったよ。一本だけだけど。」
「日本を思い出したの?」
「うん、ちょうど桜が咲いていたと思って。綺麗だった。」
「そうね、いい季節に日本に来たわ。」
「元気?」
「ええ、変わりなく元気にしている。」
「そう、よかった。」
「あなたも元気?」
「うん、大きな展示会が終わってからちょっとのんびりしているよ。」
「そうなんだ。元気そうでよかった。」
「じゃあ、絵里も元気で。」
「うん、ありがとう。」
何か月もひたすらに待ち続けた瞬間が終わった。
社交辞令の裏には暖かい息があるのだろうか。なぜオランダにいること、二人の距離が縮まっていることを告げないのか。ハンスとの三週間が一瞬だったように二人の線はもう離れていくだけと諦めているから。薄くなり消えていく。喉の奥が熱い。熱は鼻の奥まで上がって来て一気に涙になって弾けた。
声をあげて泣くのは五歳の時以来だろうか。声が出なくなるまで、喉が枯れるまで泣き続けた。哀れなのか、愚かなのか、誰か笑ってくれればいい。
ハンスが恋しい。テキストのやり取りの間はお互いの時間が繋がっていた。その時だけ。今はもう違う空間に隔離されて絵里の頭の中にだけぽつんと浮かぶ。消えることなく漂い続けている。恋しい。ただ恋しい。ハンスのすべてが恋しい。




