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終の人  作者: 百島圭子
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エスキルスチュナでひと月の展示会を終え、ストックホルムに用意されたパーティーも大盛況になった。バンドのかき鳴らす音が人いきれと混ざって店中に充満している。無機質な会話を散々通り抜けハンスはようやくカウンターに辿り着いた。


頗るよかった展示会の評判がハンスよりもエージェントの頬を緩ませていた。ほぼ完売となったことを耳打ちされ微笑んで見せるが意図的に使われた頬はすぐに無表情に戻る。


群衆はハンスの成功ではなく己の自由を謳歌している。音楽が彼らを躍らせるのか、恍惚が音を操っているのか。いつもの光景はもう何も呼びかけず孤独にしてくれる。


ぼんやりした視界の端に黒く長い髪が揺れている。「絵里?」ハンスの瞳は意識を取り戻して揺れる髪を追いかける。黒髪は翻り北欧の美しい女性の顔が現れた。ふっと力の抜けるままにワインに口をつける。


 東京の街は、にわかクリスチャンで賑わっている。クリスマスの飾りつけも音楽も毎年代わり映えせず絵里を浮き立たせることはない。それなのに北欧のクリスマスを想像する。自分で自分に放つ罠にみすみすかかっていく堕落した心が恨めしい。忘れるべき亡霊を絵里の心は無邪気に追いかける。どうしても止めることができない。


何か月も音信不通の携帯電話から絵里を呼ぶ音がするのではないかと四六時中どこかで待っている。気づかない振りをして時間をやり過ごす。亡霊から引き離してくれるはずの時間の密度は濃くなって絵里に纏わりつく。


もう追いかける足は時間の粘り気で前には進まず、身動きが取れなくなった絵里を亡霊は逃げもせずいつも傍で見ている。追いかけなくてもいつも傍にいる。


 今年最後の出勤を終えた。来年から一年オランダだ。


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