②
敦也も陽太と同じくグラスを回して、氷に映る己をボーっと眺める。敦也は苦く笑い、
「浅く広く……がいっかな」
目を伏せて答えた。
真っ赤な嘘だ。
陽太は悲しげに微笑んだ。敦也とは意見が割れたが、深く話し合うことはしない。諦めているのだろう。向き合うことができない敦也とは、ただの飲み友達でいいと思っているのだろう。敦也もそんな面倒なことはごめんだという表情を崩さない。
「そっか……」
どうしてそうまでして親友を欲しがるのだろうか、という疑問は投げなかった。
詳らかに訊いたところで、敦也には興味のない話だ。親友なんか、いらないから。
友達だって、本当は必要ない。
面倒だから誰かと友達になっているのであって、敦也は他人には無関心だった。どうでもいい話で盛り上がり、どうでもいい趣味の話で和気藹々(わきあいあい)として、どうでもいい他人の陰口で意気投合する。それらすべてが嫌いで、醜悪で、どうしようもなく吐き気がする。
他人への陰口のはずなのに、自分が非難されているみたいで、心臓が激しく痛む。……また、あのことを思い出してしまう。だから、聞きたくなかった。これ以上、自分を苦しめないで欲しかった。
自分は要らない人間なのだ、とこれ以上思わせないで欲しかった。
彼女だって作らず、結婚も一生しなくていいと思っている。恋愛も諦めている。自分には魅力がないと思い込んでいるから。こんなに自分を嫌いで、憎くて仕方がないのに、誰が好いてくれるのか。こんな卑屈でくだらない人間を好いてくれるような天使みたいな人、世界中捜したって、いないだろうと敦也は諦観している。本当は美人な彼女を作って、結婚して幸せに暮らしたいのに。こどもだって欲しいし、幸せな家庭を築きたいのに、やる前からすべてを諦めていた。
自分なんかを好きになってくれるような人なんていないと自分自身を全面的に否定する。両親に存在を否定され続けたからこそ、自己肯定感が限りなく低い。今にも消えてしまいそうなほど、敦也は現実の柵に苦しめられていた。誰かを憎まなければ生きていけない。成功している人間を妬まなければ、簡単に心が壊れてしまう。
頑張っても、頑張っても認められない。認めてもらえない。中学生のときに全国の模試で一番を取っても、その程度で満足するなと責められる。何をしても、何を頑張っても、お金にならなかったから、褒めてもらえなかった。一番を取れなくなったら、お前はたいしたことがないやつだと詰られた。ろくにお金も稼げない、穀潰しだと罵られた。貧乏だから、兎に角お金が必要だった。ただ、褒めて欲しかっただけなのに。そのために頑張っていたのに、お金にならない趣味を持っても、なんの意味もないと吐き捨てられた。