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姫海村&雪木市の物語

りんごあめとうみ

作者: 西埜水彩

 食べやすいように切られたりんご。そのりんごにからめられている、きれいな赤いあめ。これは今会うことができない、あの子が好きだったあめだ。


「すみません、このあめを1つください」


 私はそのあめを買い、海に向かって歩く。


 なじみのない商店街を歩き、慣れたように迷わずに海まで歩く。


 周りに時々見かける人達は、基本的には皆知らない。それは私がこの村、姫海村にとってよそ者であるから。これからこの村で生きてくれば、知り合いもできるかもしれない。だけど別に私はこの村でなじむために暮らしているわけじゃない。


 あの子が帰ってくるのを待つためにこの村でいるのだ。それ以外のことにきっと意味はない。


 白い砂浜、青というよりも灰色に近い色の海。私が目的としたところに着いた。


 冬なのもあるのか、海岸には人が少ない。そこで私は適当な砂浜の上に座り、さっき買ったあめを食べる。


 あめの甘さとりんごのすっぱさ。これらは海のしょっぱい風に負けないくらい強い味で、いつものようにおいしい。


 このあめを食べられない、あの子がかわいそうだ。


『約束だからね。胡蝶(こちょう)に会いに行くよ。もし私が死んだとしたら、絶対どんな形でも胡蝶のところに戻ってくる。私は絶対胡蝶とは離れないよ』


 あの子はそんなことを言っていた。


 若いから死なんて遠い未来の話で、私の方が先に死ぬ可能性がある。そこで私は気にしていなかったのだけど、今は違う。


 あの子は齋藤凍羽(さいとういては)という、私の知らない男と心中した。


 なんでもあの子は齋藤さんとの結婚を父親に反対されていた。その影響であの子は齋藤さんと一緒にいるために、今私の目の前にある海で心中した。


 だから私はこの海で、あの子が戻ってくるのを待っている。


 約束したから。あの子は死んでから私のところへ戻ってくるって言っていたから。あの子が約束を破るなんてありえないから。


 だから私はこの海で、今日もあの子が戻ってくるのを待っている。それにこの海の近くにある村で暮らしている。


 あめを食べ終わった私は、立ち上がって海から離れる。


 もちろん死者が生き返ってこないことを私は知っている。心中するほど好きな人がいるあの子が、その人をほっといて私のところへ戻ってこないかもしれない。


 だけど私はあの子が戻ってくるのを待つことをやめられない。


 この海でいれば。この海の近くにある村で暮らしていたら。あの子が戻ってくるんじゃないか、ついそう思っちゃう。


 だからこれからも時間が許す限り海にいて、この村で暮らし続ける。


 あの子が戻ってきて、約束を果たすまでは。


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