おんぼろ温泉旅館の奇跡
小説家になろうラジオ大賞5 参加作品。
テーマは「温泉」です。
字数制限1000文字です。
大学の夏休みに実家である温泉旅館へと帰省した俺が見たものは、従業員0人の両親2人取り残された 廃墟同然の宿だった。
例年この時期は満室になるも臨時休業。
「どうしたんだよ?」
「従業員が引き抜かれたんだよ」
その時、隣のホテルのオーナーの娘であり、俺の幼馴染みだった女がやって来た。
「閉業の片付けにでも来たのかしら」
「お前の仕業か?」
「うちのホテルの傘下になれば、新築させてあげるわ。こっちで働かない? 給料倍で雇ってあげるわよ」
そう言い笑いながら去っていった。
あいつ……
昔はあんな子ではなかったのに。
よく一緒に遊び、2人で温泉にだって入った。いつの間にか対抗心を燃やし傲慢な女に。
「もうダメかもな」
「なに弱気になってんだよ」
親父が弱音を吐いた時、
入口から「すみません」という可愛らしい女の子の声?
そこには白い肌にツインテールの美少女。
「今、臨時休業してまして」
「恩返しに……働きに来ました」
「は?」
「以前、こちらの温泉で傷を治してもらった……
兎です」
「兎!?」
兎が美少女の姿になって恩返し?
「確かに昔、傷ついた兎が温泉入りに来てたな」
「親父、まじか!?」
「夜分恐れ入ります」
また来た。今度は背の高い美しい女性。
「助けていただいた鶴です」
鶴!?
「いたなぁ、翼の傷付いた鶴が」
この温泉は山の動物達が温泉に浸かっている所を、猟師が見つけたのが始まりと聞いてはいたが。
その後も続々と
「あのーあたし、猿」
「コンばんは、狐です」
「あたい、熊だクマ」
「……鹿です」
やって来た、元動物の女の子達。
「お手伝いにきました。カピバラです」
カピバラまで!
いつ助けた!
「私たち、ここの温泉が無くなったら困るんです」
「そういうことなら」
こうして可愛い従業員がいる温泉宿として広まり、連日満室になる賑わいぶりに。
俺も大学を休学して手伝うことに。
そんな様子を涙を浮かべ悔しがる彼女。
「なんでこうなるのよ!」
「悪いことはするな、諦めるんだな」
「もう少しで……」
「は?」
「いつになったら一緒になってくれるのよ!」
「いつって?」
「昔、約束したでしょ! 一緒に温泉宿経営していこうって!」
「お前、本気に? だからってこんなやり方で……」
こうして両家のホテルは統合し、俺も卒業と同時に結婚し家業を継ぐことに。
ペット可、動物にも人気の温泉宿は大繁盛!
当温泉はどんな傷や病気、恋の病にも効きます。
ただしご利用は24時まで。
それ以降は従業員が利用致しますので……