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交渉

 外出届を書いた後は、転移であっという間にキリク公爵家前へ到着。


「は、早いよアグリちゃん。まだ心の準備が……」

「大丈夫だよ。交渉は私がするから」

「それも少し不安があるんだけど……」


 不安要素なんてあったかな?

 ちゃんと手順を踏んで正々堂々と話し合いするんだから大丈夫よ。

 と言いつつ、先触れ無しに訪問する時点で礼を欠いてるんだけどね。

 でも、先触れ出したら躱されるのがオチだし、突撃訪問するしか無いもの。


 私達が突然現れた事で、公爵家の門番が槍を向けて来た。


「何者かと思えば、アグリ様でしたか。それとフラン様……」


 おや、門番にも既に追放の通達が行ってたか。

 そりゃ、追放された令嬢が戻って来た時に一番に対応しなければならない場所だもんね。


「申し訳ありませんが、フラン様をお通しする事は出来ませんよ」

「いいえ、通す事になるわ。公爵様にアグリが来たとお伝えください。あ、決してカルティアの家名を出さないようにお願いします。本日の訪問はフランちゃんの友人としてですので。それと、もし面会をお断りされれば、力尽くで押し通るともお伝えください」


 私の魔力圧を浴びて、ゴクリと唾を飲み込む門番さん。


「承知致しました。少々お待ちください」


 門番さんは、他の者に代わってもらってから、公爵邸へ報告に走ってくれた。

 代わりに来た別の騎士さんは、私の顔を見るなり青ざめる。

 2年程前に公爵家の練兵に参加して、騎士達の大半をボコボコにしたから、私は公爵家の騎士達から若干恐れられているのよね。

 そして、力尽くで押し通るというのを聞いたみたいで、今は戦々恐々としているようだ。


 暫く待っていると、門番さんが戻って来た。


「公爵様がお会いになるそうです。フラン様もご一緒にとの事でした」


 その言葉を聞いて一番ほっとしていたのは、代わりに門に立たされていた騎士さんだった。


「では失礼します」


 私はフランちゃんと連れ立って、門をくぐった。

 正面奥に見える公爵邸は、何度見ても圧倒されそうになる程の荘厳な雰囲気を漂わせている。

 そこへ向かう道中、周囲を巡回している騎士達が、私の姿を見てビクリと反応していた。

 大丈夫だよ、力尽くで押し通る事にはならなかったから。


 公爵邸内に入ると、いつも対応してくれる執事さんが客間に案内してくれた。

 客間に入り、私とフランちゃんがソファーに腰を下ろすと、執事さんは公爵様を呼びに行く為に退出した。

 何度も遊びに来ているけど、客間に通されたのは初めてかも知れない。

 いつもはフランちゃんの部屋にそのまま突撃しちゃってたし。

 華美な装飾は無いが、上質な家具で整えられた客室は妙な圧迫感があった。

 これから百戦錬磨の貴族を相手にするという事で、少々緊張してるのかもね。


 程なくして、扉がノックされ、公爵夫妻が入室してくる。

 ……ん?夫妻?

 なんで公爵夫人まで来るのかな?

 私、公爵様とだけお話するつもりだったのに……。

 これはかなり気を引き締めねばならないか?

 しかし、こちらの気勢を削ぐように、公爵は朗らかに挨拶してくる。


「やあ、アグリちゃん。久しぶりだねぇ。今日はどうしたのかな?」

「おじさま、おばさま、お久しぶりです。本日の来訪については、私がカルティアの名を使わなかった事から察していただけたらと」

「あぁ……なるほどね。でもその前に一つ確認させて貰ってもいいかな?」

「はい、何でしょうか?」


 公爵はジロリとフランちゃんに視線を移す。

 私じゃなくて、フランちゃんへの確認?

 そして、公爵はやや低めの声でフランちゃんに問うた。


「フラン、私の手紙は読んだね」

「はい……」

「その後で、護衛騎士のメリカとは話をしたのかね?」

「え? メリカですか? 朝からお腹を壊したとかで、ずっとトイレに籠もってたので話はしてませんが……」


 公爵はそれを聞いて、静かに目を伏せると、大きく息を吐いた。


「……あいつ、後で説教だな」


 公爵が何かをボソリと呟いたが、よく聞こえなかった。


 護衛騎士のメリカさんは、フランちゃん専属の護衛騎士で、私も良く知っている人物だ。

 女性でありながらキリク公爵家の騎士の中では5本の指に入る実力者である。

 しかし、かなりおっちょこちょいで危なっかしい人だったりもする。

 黒髪ロングのめちゃくちゃ美人なんだが、何故か彼氏がいた事も無いという謎多き人。

 そのメリカさんが今回の追放に何か関係あるのだろうか?


「すまないねアグリちゃん。できれば日を改……」


 何かを言おうとした公爵を夫人が制した。


「あなた、アグリちゃんが侯爵の家名を使わずに来た覚悟を無碍むげにするおつもりですか?」

「お前、まさか……」

「ここはまず話を聞くべきでしょう?」


 夫人がニコリと微笑むと、公爵は何故か呆れたような表情を見せた。


「どうなっても知らんぞ」

「それが楽しいんじゃありませんか。さてアグリちゃん、お話を聞かせてくれるかしら?」


 どうやら私は夫人相手に話しをする事になるようだ。

 何故か、そっちの方が大変そうな気がするんだけど……。

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― 新着の感想 ―
一気読みさせていただきました。とても面白くて続きも気になり、すごく良い作品だと感じます。 続きはないのでしょうか。2月から更新されていませんが、大丈夫ですか? 頑張ってください
とても面白くて一気読みしちゃいました! ただ、お話の途中でストップしてしまったのはショック、、、 書籍版の方では最後まで読めるのでしょうか?とても消化不良なので気になっています。
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