失態
あれれ〜?おっかしいなぁ?
何人かは絶望の表情を浮かべ。
何人かは恐怖に顔を引き攣らせ。
それ以外の人は、キラキラとした目を私に向けて来ている。
キラキラしてる人達は少なくとも前向きな気持ちになっているのかな?
その後先生が起きたところで、直ぐに解散となってしまった。
まぁ初日だし、いっか。
森の木々が薙ぎ倒されているのを見た先生は——特に何も反応を示さなかった。
いや、現実から目を背けていたというのが正しいのかも知れない。
帰り道、フランちゃんが不思議そうに聞いてくる。
「全員農奴にしちゃえば簡単にパワーアップ出来るんじゃないの?」
「うーん、それはダメかな」
「どうして?」
「フランちゃんは幼い頃から訓練を積み重ねて来たでしょ。だから力に対する覚悟がある。でも、Fクラスの人達はその覚悟が足りないから、きっと力に飲まれちゃうと思うの。私が命令すれば、農奴は絶対服従で逆らえないのかも知れないけど、私はそういうのしたくないからね。農奴になる人はそれなりに考えて選んでるんだよ」
「なるほど。だからあの辛そうな魔力増強の方法でやらせてるんだね」
「うん。耐えに耐えて得た力なら、暴走する事も無いと思うし」
まぁ有用なスキルを持ってる人がいたら、人格次第では勧誘するかも知れないけど。
学園と寮は併設されているので、程なくして寮に辿り着いた。
フランちゃんと別れ、寮の自室に入る。
大きな窓から光が差し込んでいて、とても明るくていい部屋だ。
広いリビングには既に全ての荷物が運び込まれていた。
帰って早々、深刻そうな顔をしたヴァンから、話がありますと言われてしまった。
何かあったのかな?
私はそのまま部屋に設置されているソファーに座り、体面にヴァンが仁王立ちする。
「お嬢様、先程お嬢様についての噂を耳にしました」
「あら、何かしら?」
「お嬢様がFクラスになったと。それは本当ですか?」
あ、そういえばそうだったわ。
明日からの森の開墾が楽しみで忘れてた。
「本当だけど、それがどうしたの?」
「どうしたのじゃありませんよ! 一大事じゃないですか! 侯爵家の名前で早々に抗議しないと!」
「え? しなくていいわよ、そんな事」
「何故ですか!? 侯爵家のご令嬢がFクラスなんて、貴族としての体面にも関わってきますよ!」
「ヴァン」
私が魔力を強めに解放して名を呼ぶと、ヴァンはビクリと肩を震わせた。
「貴族は体面の為に存在してるんじゃないわ。貴族は民の為に存在してるのよ。くだらない体面の為に侯爵家の名を使う訳にはいきません」
「し、しかし……」
「Fクラスになった事で、この学園……いえ、この国に蔓延る歪みがはっきりと見えた気がするわ。私としてはそういうものはぶち壊したいの。だから私は敢えてFクラスに居座る事にするわ」
それにあの広大な農地を手放したくないし。
私の言葉を聞いたヴァンは少し逡巡するも、直ぐに私に向かって頭を下げた。
「承知致しました。お嬢様のお考えに従います」
「理解して貰えて嬉しいわ」
「でも侯爵様にはご報告致しますよ」
「……そそ、そうね。べべべ、別に構わないわ」
どどど、動揺なんかしてないもんっ!
——などというやり取りは、寝ているうちにすっかりと記憶の片隅に追いやられた。
翌朝スッキリと目覚めた私は、ヤンとマーに今日の天気を聞いて、意気揚々と学園の農地(森)へと向かった。
先生は監督責任があるのか、やる気は無さそうなのに一応朝から見に来てくれている。
さて、まだ全員揃ってはいないから、魔力増強は後にして先に農地を耕そうかな?
いや、その前に散らばった木々を一箇所に集めた方がいいか。
などと考えていると、そこへ妙に暗い顔をしたフランちゃんが登校してきた。
「フランちゃん、どうしたの?」
「あ、アグリちゃん……」
瞳を潤ませながら、フランちゃんが口を開く。
「今朝お父様から手紙が来て——私、公爵家を追放されちゃった……」
その言葉で、私の脳裏に衝撃が走る。
色々やらかしつつも、私はまだ侯爵家を追放されてないからと、甘く考えていたのかも知れない。
そんな事態には陥らないだろうと。
昨日のうちにちゃんと対処しておくべきだったか……。
自分の事なら自己責任だからどうでもいいが、フランちゃんを巻き込んでしまうなんて、やってはならない失態だ。
「フランちゃん」
責任は取るよ。
「今から公爵家に行こう!」
「えっ!?」
こうなったら、キリク公爵と直接お話するしかないでしょ。
どんな手段を使ってでも、フランちゃんの追放は撤回させる!
「お前らぁ、外出すんなら外出届書いて提出しろよぉ」
先生、やる気ないけど、自分に責任が及びそうな事はしっかりやらせるのね……。