魔力増強
魔力を増やすには、他人の解放した魔力圧の中に、身を置けばいいだけである。
但し、圧倒的力量差のある強者の圧に耐え続けなければ意味が無い。
それに反発するように魔力が増えていくからね。
まぁ筋トレと一緒かな。
お母様直伝のやり方では、最初はギリギリ気絶しちゃうぐらいの圧に耐えるところから始まる。
慣れてないうちは抵抗出来なくて直ぐに気絶するけど、私は50回ぐらい繰り返したらコツが掴めて、気絶する事なく耐えれるようになった。
そこから魔力圧を増やしてもらうと、少しずつ自身の魔力が増えていくようになるのだ。
というやり方を説明したら皆様ドン引きしていた。
先生なんて、全く信じてくれずに否定的だし。
「魔力ってのは魔物を討伐したり、精神の統一を行って少しずつ上げていくものだよ。優秀な者でも10年で1割増えればいいぐらいなんだし。それを貴族でもない平民が、そんな簡単に魔力を増やせる訳ないだろう?」
簡単とは言って無いよ。
普通は、コツが掴めるところまですら耐えられなくて挫折する。
コツを掴めてからでも、身体中を襲う激痛に耐えないとだから挫折する。
そもそも圧を加える側にも繊細な魔力操作が要求されるのだ。
私が知る中で出来るのは、お母様とお兄様と私ぐらいだし。
お母様の実家に行けばもっと出来る人もいるらしいけどね。
それにしても、普通の人は10年も掛けてやっと1割なのかぁ。
私は最初の1年で倍以上に増えてたけど。
「信じるか信じないかは、貴方達が決めればいいわ。私は、強制するつもりなんて無いので」
求める者には手を差し伸べるけど、そうでない者にまでお節介焼く気は無い。
だが結局Fクラスのほぼ全員が魔力増強を希望した。
唯一、先生だけが否定的だけど。
「頼むから、おかしな事をして問題を起こさないでくれよ」
まぁ何と言われようと、求められたらやるけどね。
「じゃあ始めるから、皆歯を食いしばってね」
「「「「「え?」」」」」
皆が唖然とする中、私はほんの少しだけ魔力を高める。
平民の魔力量は少ないので、かなり魔力を慎重にコントロールしないといけないだろう。
それぞれの魔力量に合わせて、ギリギリ気絶する程度に分布させる必要がある。
象が蟻の頭を撫でるように——。
ドンっと魔力解放した圧が周囲に広がる。
それと同時にその場にいるほぼ全員が泡を吹いて倒れてしまった。
油断していた先生も、一緒に泡を吹いて倒れていた。
倒れなかったのは魔力量が多いフランちゃんだけである。
まぁ予想通りかな。
私は農奴スキル『聖魔法』で範囲回復して、Fクラスの生徒達の気絶を治していった。
あ、先生だけ範囲外だ……まぁ、いっか。
先生は魔力増強希望してないし。
「あれ?俺は一体何を……?」
「魔力の増強してるんじゃなかったか?」
「川の向こうで綺麗なお姉さんが手招きしてたと思ったのに……」
最後の人、その川渡っちゃダメだからね。
「私の魔力圧で気を失ってたのよ。一瞬でも私の魔力圧を感じる事が出来た人はいるかしら?」
全員が首を傾げる。
平民は元々の魔力量が少なすぎて、私の圧に耐えられてる時間が極々短いと思う。
たぶん0.05秒より短い。
意識的に抵抗しなければ意味ないから、一瞬でも耐えられなければこの増強法は成り立たない。
ちょっと無理があったかな……?
と思ったら、Fクラスの生徒の一人が声を発した。
「も、もう一度お願いします!」
それに追従するように、次々に嘆願が始まった。
「お、俺ももう一度!」
「たった一回で諦められないです!」
「お願いします!」
入学初日という事もあって、皆凄いやる気だ。
是非とも先生にも見習って欲しいわね。
普通は先生が見本になるものなんだけど……。
「うん、じゃあもう一回いくね」
今度はもう少しだけ魔力を抑えてやってみる事に。
ワニが甘噛みするように慎重に——。
再び魔力が解放されると、やはり全員一斉に泡を吹いて気絶してしまった。
それを聖魔法で回復させる。
その後10回程繰り返したが、結局誰も魔力圧を感じる事が出来ないままだった。
しかし、心が折れた者は誰もいなかった。
平民で学園に入学出来たという事は並々ならぬ努力をしてきた人達だろうし、たった一日の挫折でめげたりしないみたいだね。
よし、ちょっとだけ希望を持たせてあげようかな?
「ちょっと見ててね。魔力が高まればこんな事が出来るようになるってのを実演してあげるから」
私は天に向けて両手を掲げる。
「○射!」
掛け声と共に、私の衣装が魔法少女へと変わる。
ちなみに掛け声にはなんの意味も無いので衣装が赤くなったりしないし、別に○結でも変身は出来る。
そして魔法の杖(鈍器)を森の方に向けて変形させた。
杖の先端、赤い水晶の周りにプラズマの光が迸る。
杖から出てる訳じゃなくて、杖の先に出るように位置調整してるだけだけど。
「電磁砲発射!!」
魔法少女になる事で増大した魔力により、ロボを倒した時の数倍の威力で磁石片『カウマグネット』が森へ向かって飛翔した。
木々をなぎ倒し、地面を抉る。
轟音を上げて森を貫いた電磁砲によって、そこには巨大な道が出来上がっていた。
「どう?魔力を上げればこんな事だって……あれ?どうしたの?」
唖然と森の方を見つめて硬直するFクラスの生徒達。
そして一人が呟く。
「貴族との間にはこれほど差があるのか。こんなの、勝てっこねぇ……」