Fクラス
王都にこんな広大な森があったなんて知らなかったなぁ。
学園の裏手から郊外に向けて広がっていて、奥は暗がりで見えない程遠くまで続いてるようだ。
方角的に北に向かって伸びてると思われる。
それにしても、教室と言う割には、開けた場所も無いぐらい完全に森なんだけど。
木に視界が遮られて授業にならないんじゃないの?
「こんな所で授業なんて出来るのかよ……?」
Fクラスの生徒が呟いた。
皆そう思うわよね。
それに対する回答は……
「授業なんてしないよ。Fクラスは、戦闘に向かないスキルであると判断された生徒が集められたクラスだからね。スキルや戦闘の基本になる部分を教えても意味は無いので、各々好きなようにスキルの鍛錬をしてもらうのさ」
飄々とした態度で先生は語るが、ボサボサ髪のせいで、ただやる気が無いだけにしか聞こえない。
いや、実際そうなのかも?
スキルが弱いと判断された、いわば劣等生を押し付けられたって事だもんね。
それを聞いた生徒の一人が、不安そうに手を上げる。
「各自鍛錬って事は、分からない事を先生に質問していく形式でしょうか?」
「あぁ、僕に聞いても教える事は出来ないよ。このクラスの生徒は大半が生産系スキルだから、戦闘系と違って千差万別だ。個別のスキルの特徴なんて聞かれても、はっきり言って僕より使ってる本人の方が理解出来てるだろう」
「え? つまり、自分で考えて自分で鍛錬しろと?」
「そういう事になっちゃうかなぁ?」
なっちゃうかなぁ?じゃないよ。
ホントにやる気無い先生ね。
自分で鍛錬するんなら学園に来る意味あるかな?
って思うとこだけど、学園の設備が自由に使えるというメリットはあるのか。
それに、スキルによっては郊外に足を運ばなければならなかったりするものもある。
でもここなら学園の結界の中だからほぼ危険は無いし、効率良く安全に鍛錬出来るよね。
ただ指針となるものが無い中で手探りってのは、かなり大変だ。
自分のスキルに近い系統職の親方について学ぶ方がいい場合もあると思う。
これって学園側としても自主退学するように仕向けてるっぽい気がするなぁ……。
表向きは身分による差別は無いと公言してるから、合格基準に達してたら平民でも受け入れなければならない。
でも平民の多くは生産系スキル持ちだから、戦闘系スキル持ちの貴族と一緒に授業を受けさせては、足を引っ張るだけだもんね。
「まぁとにかく、この森は好きにしていいから。あっ、学園の機材を使いたい時はちゃんと申請してね」
ん?今、森は好きにしていいと言ったかしら?
つまり開墾してもいいと?
ざわつくFクラスの生徒達を押しのけて、私は先生に質問する。
「先生、森はどれぐらいまで好きにしていいんですか? 木を全て引っこ抜いても文句言われません?」
「この森は北の国境まで続いていて、全て国の管理下にあります。ですが、学園の教材にするというのであれば更地にしてもいい許可までいただいています。何をしようと問題ありません。ただし、学園の結界の外に出てしまうと魔物が出るので、あまり遠くまでは行かないように」
「魔物が倒せるのなら、結界の外の森も好きにして構わないのですか?」
「一応国からは許可されているので好きにしていいと思いますが、皆さんのスキルで魔物を倒すのは困難でしょうから、安全の為にも結界の外には出ないでください」
「魔物が倒せるならいいんですね?」
「……倒せるものならね」
なんて素晴らしいのでしょう、Fクラス!
こんなに広大な農地を自由にしていいだなんて!
Fクラスになれて良かった!!
しかし、私と同じ想いの人は殆どいないようで、
「やってられるか! 俺は一応戦闘系スキル持ちなんだ! 少しでも強くなれるだろうと学園に通おうと思ったのに、こんな扱いされるなんて」
「俺も少しでも学べる事があるかと思ってたのに、何も教えてくれないのかよ……」
「これなら街で仕事探してた方がマシだったかも」
平民は確か授業料免除されてる筈だけど、何も教えて貰えないんじゃタダだとしてもいる意味無いと思ってしまうか。
でも本音はきっと、せっかく入学したからには何か掴みたいと思ってる筈。
貴族として、平民が困ってるのに見て見ぬ振りは出来ないわね。
農地が広大過ぎて人手が欲しいところだし、なんとかしましょうか。
「皆さん、私はカルティア侯爵家が長女、アグリ・カルティアです」
「うわ、綺麗な服着てるからそうかもと思ってたけど、本当に貴族なのか」
「なんで貴族がFクラスにいるんだ?」
「スキルが弱かったからじゃね?」
失礼な。スキルちゃんは最強よ。
『恐縮です』
って、そうじゃなくて。
「皆さんのスキルは、学園側から弱いと評価されたようだけど、そんなもの魔力が多ければ覆せます」
「いや、俺達平民はその魔力が弱いからスキルも弱いんだけど……」
「そうね。だから私が魔力の増やし方を教えてあげるわ」
「魔力を増やすって、そんな事出来るのか……?」
訝しむFクラスの生徒達。
大丈夫、絶対魔力は増えるから。
まぁ、お母様直伝の魔力増強法に耐えられればだけどね……。