クラス
学園の入学式当日。
私はフランちゃんと連れ立って王都の学園へと向かった。
今日は入学試験の日よりも、更に人が増えてごった返している。
校門前まで来ると護衛達とは一旦別れ、護衛達とメイドには学園に併設されている寮の部屋の準備をお願いした。
寮には護衛はもちろん、世話をするメイドも連れて行く事になる。
平民の場合は単身で寮に住むのだが、私は仮にも侯爵家令嬢なので、それなりの部屋が用意されているらしい。
寮生活では、お母様のお小言が無いから悠々自適に過ごせそうだ。
後は農業出来る場所を確保出来れば完璧なんだけど……。
それはさておき、入学式の座席はクラスごとに分けてあるらしいので、事前に自分のクラスを確認しておく必要がある。
私達は先ずそこへ向かう事にした。
校門から入り、正面の校舎へ向かって進むと、途中人だかりが出来ている場所があった。
そこの緑色の掲示板に紙が貼り出されており、それがクラス分け表になっているようだ。
「Aクラスのあの伯爵令嬢は聖魔法スキルを授かったそうよ。凄いわね」
「それが、同じAクラスに平民の子も合格してて、その子も聖魔法を使うらしいのよ」
「聖魔法を使う人が2人もいるなんて、凄い世代だわ」
皆自分のクラス分けだけでなく、有名人のクラス分けも気になっているようだ。
Aクラスは最上位クラスで、そこに入れる者は相当優秀であると言える。
貴族は筆記試験が免除されている為、殆どスキルの優劣になってしまっているのだが。
平民でAクラス入りしたとなると、どこかの商家の子で学問もやらせてもらっていたのだろう。
そんな優秀な子が同世代にいるんだなぁ……。
なんて思ってたら、フランちゃんが若干青ざめた表情で私の腕を引っ張った。
「アグリちゃん。私達してやられたみたい……」
ん?どういう事?
フランちゃんが指し示す方を見ると、掲示板のFクラスの欄に私達の名前があった。
それを見た瞬間、脳裏にメリアナの不気味な笑顔が甦る。
なるほどねぇ——試験官を抱き込んだのか。
まぁクラスなんてどうでもいいんだけど、それを知ったお母様に何て言われるか。
最悪私のスキルを追求される可能性もあるわね……。
いや、私だけじゃなくてフランちゃんの立場も危うくなるかも知れない。
公爵令嬢がFクラスというのはいくら何でも外聞が悪すぎる。
試験免除だなんて楽観し過ぎていたか……。
「とりあえず入学式が行われる講堂に行こう。どうするかは後で話し合うって事で」
「う、うん。そうだね」
Fクラスになった事で追放されたら、その時はその時で考えよう。
後手に回るのは好きじゃないけど、時には後の先を取らなければいけない時もある。
警戒を怠った私が悪いのだ。
まぁ私の方はたぶん何とでもなるから、フランちゃんが困った事になったら、助けてあげれるように準備しとこう。
広い講堂に入ると、既に多くの生徒が席についていた。
新入生の席にはクラスごとにプレートが掛けられており、最前列から順にクラス分けされていた。
私達はFクラスなので最後列に座る事になる。
明らかに貴族の装いなのにFクラスに着席した私達を見て、周囲でヒソヒソと噂話が広がっていった。
魔法少女コスで来れば良かったかな?
でもそれだと、フランちゃんにも魔法少女コスしてもらう事になってしまう。
なんて素晴らしい事かしら。
今度一緒にコス出来るように、フランちゃんの衣装も用意しとこっと。
私の衣装は白だから、フランちゃんは黒にしよう。
噂話など、お母様の小言に耐えながら長年鍛えた馬耳東風の前では、そよ風の如し。
私達の身分を知ってか、直接嫌味を言ってくるような輩もさすがにいないもんね。
暫くすると入学式も始まり、周囲も静かになった。
つつがなく祝辞も終わり、新入生代表の挨拶となった。
代表は、第一王子グレイン殿下。
同世代に王族がいたらほぼ決定だし、それでなくてもグレイン殿下は優秀だから代表に選ばれるのも当然だろう。
ふと、壇上に上がったグレイン殿下と目が合った気がした。
その時、少し困ったように眉を顰めたのが気になった。
何かあったのだろうか……?
いや、魔眼を使ったけど、私のスキルを看破出来なかっただけか。
最近また魔力が増えてる気がするし、まだまだ殿下に魔力量で負ける事は無いみたいね。
入学式が終わると、担任の先生の引率で各々の教室へ移動する。
私達Fクラスの先生は、どことなくやる気の無さそうなボサボサ頭の中年男性だった。
先生の後を付いて行くと、何故か校舎の外へ出てしまった。
Fクラスの生徒達も少しざわつき始めている。
そしてそのまま暫く歩き、辿り着いたのは何故か校舎裏の森の中。
「ここが皆さんの教室になります」
どうやらFクラスはかなり特別扱いのようである。