杖
入学試験が終わり、更に数日が過ぎた。
今日は待ちに待ったある物が届く日だ。
朝早くからソワソワして待っていると、割と早い時間にフェチゴヤ商会のイロハさんがやって来た。
「お嬢様、頼まれてたもん持って来たで〜」
「待ってました!」
若干不満そうな顔でイロハさんが荷物を机の上に乗せた。
「まったく、ワテは兵器の類いは作らんちゅーとるのに……」
「これは兵器どころか武器ですらないわよ。ただの衣装の一部だし」
「うん、まぁその衣装すらもワテには理解出来ないんやがな。なんで今日も早朝から魔法少女コスしとるねん」
イロハさんがブツブツ言いながら荷物の梱包を解いていく。
そこから出て来たのは、ヘッド部分がゴテゴテと装飾された魔導師用の杖だ。
武器を作るのは色々面倒事になり兼ねないから、フェチゴヤ商会では武器に類するものは作成していない。
でも今回私が欲したものには必要不可欠な技術があった。
その技術が使われているものを偶々私が持っていたんだけど、迂闊に世に出す事が出来ない物なのでフェチゴヤ商会に頼むしか無かったのだ。
それは変形機構を構築するための伝導コイル。
しかも電気ではなく、魔力を流す事で動作させる事が出来るコイルだ。
そんなモノ本来この世界には無かったんだけど、以前手に入れたロボには使われていたのである。
関節部分に魔力で動く機構が備わっていたので、それをなんとか応用して杖に組み込んで貰った。
それが漸く今日、完成したという訳だ。
「ふわあぁっ! 完成度が高い!」
「注文通りの機能も付いとるで。魔力流してみ?」
私は杖を手に取って持ってみる。
朝から待ちきれずに魔法少女に変身してたんだけど、その衣装にピッタリのデザインになっていた。
持ち手は少し太めの円柱状で、先端に付いている赤い水晶球を黄色いフックで挟み込んでいる。
装飾部の付け根には2本のシリンダーが手前側に向けて付いていて、いいアクセントだ。
杖を構えてみて魔力を流すと、赤い水晶球が輝き、黄色いフックが開く。
更に、ガシャコンとシリンダーが伸びると、そこから白い蒸気が排気された。
めちゃめちゃかっこよ。
「最高だわ! これぞ魔法少女の武器ね!」
「ワテのスキルじゃ杖は出んからなぁ。ワテとしては、どうでもええねんけど」
コスしない人にはこの良さが分からないか。
「すげぇ! かっこいい!」
「ガシャコンってなったのが凄いの!」
ヤンとマーもこんなに大絶賛してくれてるというのにね。
あれ?何かヴァンもめっちゃ微妙な顔してる……。
「お嬢様、その変形に何か意味はあるんですか?」
「無いよ。格好いいから付けてもらっただけだし」
微妙な顔が呆れ顔に変わった……。
変形は格好いいからやるものでしょうに。
他に理由なんてある?
「けど、ほんまに良かったんか?先端も魔導特性が無いただの赤い水晶やから、何の補助にもなっとらんで。はっきり言ってそれ、ただの鈍器や」
「魔力操作には自信があるから問題無いよ。私のお父様は常々『杖なんて魔力操作が下手な奴が誤魔化しで使うものだ』って言ってるし。私はお母様直々に魔力操作を叩き込まれてるから、何も持たなくても魔力であやとりだって出来ちゃうもの」
「じゃあ、何の為の杖やねん」
「だから衣装だってば」
入学試験に間に合わないと聞いた時は愕然としたけど、間に合ってても試験免除になったから結局出番は無かったのよね。
でもこれで、鈍器だけど一応武器も揃えたし、学園生活の為の準備は全て完了した事になる。
あとは入学の日を待つばかりね。
その後、あまりにも杖の出来が良かったので、家中の人に見せて回ったけど、全員が微妙な顔をしていた。
解せぬ!